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首元の“お仕置き”

 

 ***

 

「大丈夫かい?」


 薄暗いコテージの中で、彼は私に言う。持ってきてくれた氷嚢が冷たくて気持ちいい。


「大丈夫、ありがと」


 二人の時に口調を切り替えるのも、流石に慣れてきた。私がお礼を言うと、彼は怒ったな様子を隠さず言葉にする。


「あの男のことは僕が城に報告しておくから」

「そ、そこまでしなくても」


 彼の少しばかり強い凝馬に私は少し慌てた。確かにちょっと危なかったけど、フィンのイカげで何もなく終わったんだからそれでいいのに。


「だめだよ」


 ソファに座る私の前に座り込んで、彼は真剣な目で私を見上げた。


「君に触れただけじゃなくて、こんなことまでしておいて…命を取らないだけマシだと思ってほしいな」


 騎士団の品位も下がるし、と彼は続ける。

 珍しく激しい怒りを見せている彼を少し意外に感じつつも、その怒りが嬉しい自分もいる。城に報告してことを大きくするのは少しやりすぎとは思うし、嬉しさと同時にそんな顔をさせてしまうのは申し訳ない。


「でも、フィンが助けてくれたでしょ?」


 正直あの時の彼は、言葉にすると恥ずかしいけど王子様みたいだった。

 すごく、格好良かった…言わないけど。


「助けるのは当たり前だよ。ずっと君を見てたんだから」


 …ん? とそこで高鳴った心臓が静まる。

 あの盛り上がりの中で私をずっと見てたの?


「あの男のことも、最初は…そう世間話くらいなら、許してやらなくもないと思ったんだ」


 表情の苛立ちが違う意味で加速している。

 これはまずいような、と私は彼の言葉を聞きながら少し嫌な予感がし始めた。


「アニーと話していいのは本来僕だけだけど、君の自由も考えてたまにはいいと思ったんだ。そしたら腕を掴み始めたから…殺すしか無いと思って」

「…」


 いやいや殺さないで、死体はもう見たくない。

 っていうか発想が飛躍しすぎてる。止めた方がいいだろうか。


「でもアニーは死体なんて見たく無いだろうと思ってやめたんだ…やっぱりアニーと話していいのは僕だけなんだね」


 そう言った彼はたった一言の中で感情と表情をコインを返すみたいに切り替えで、納得したように笑っている。

 対して私は嫌な予感が当たっているのを感じつつあって冷や汗が止まりそうにない。


「アニーがこんなに可愛いから、やっぱり誰かが見つけてしまうんだ。それならきちんと僕の部屋に大事に仕舞っておかないといけないと思わない?」

「いや、ちょっと待ってよ」


 だから勝手に決めておいて私に正当性を求めないで欲しいし、何よりそんな恐ろしいこと勝手に決めないで。


「アニー…君の愛らしさが罪なんだ。他人の目に入る場所にいたらいらない虫が寄ってきてしまう」

「そんなことないって…」


 ナンパの心配してくれるのは嬉しいけど、やっぱり“閉じ込めよう”なんて発想は飛躍しすぎだ。


「君といるのは僕だけでいいのに。僕だけが君を愛せばいいのに」


 そう言うと彼は私を抱き抱えてソファに座り直した。急に顔が近いし細い体が密着して、流石に心臓がうるさくなってしまう。


「でも、他の人間に触らせたアニーにもお仕置きをしないとね?」


 その“お仕置き”って何回言う気なんだ。っていうかすぐ戻らないと怪しまれる!

 そうでなくても不可抗力だし、ずっと見てたならもっと早く助けられたような。もしそうなら半ばこの話は言いがかりだ。


「も、もう戻らないとみんなに怪しまれちゃうから!」


 言いながら私は暴れるけど、私を抱き抱えた彼の腕が解ける気配はない。さらにそんな私に彼は軽いキスをするもんだから、私は驚きと恥ずかしさで固まった。


「…っ」

「ほら、やっぱり可愛い」


 やっぱりではない。

 そう顔を真っ赤にするも口にできない私に対して彼は頬に、耳に、首に、鎖骨に…と流れるようにキスを落とす。すると最後の鎖骨に強い痛みを感じた。


「っ!」


 すぐに唇が離れたそこをなにごとかと見ても、暗がりでよくわからない。


「…なにしたの?」

「ん? お仕置き」


 痛みのことだろうか、それなら随分いつもより軽いけど。

 いつもこの程度ならいいのに、なんて思ってしまう。


「…?」


 名残のように軽く痛むそこを摩っていると、彼はとても嬉しそうに笑った。

 この笑顔には嫌な予感がするけど、問いただしても答えは出ないように感じたので諦める。


「腕はもう平気かい?」


 にっこにこの彼が問う。その顔やめなさいよ。


「…だいぶ痛みは無くなったよ」

「じゃあ、戻ろうか」


 珍しい、と私はちょっと拍子抜けした。こんなにあっさりみんなのところに戻ろうとするなんて、もう少しいじり倒されると思ったのに。


「…あやしい」


 私は素直に怪訝な視線を送る。彼は必ず何か企んでるに違いない。


「今日は何も企んでないよ。せっかくご飯が美味しいのに、君が食べれなかったら用意した意味がないだろう?」


 本当にそういう事ならいいんだけど、とは思いつつ確かにずっと気にしていても仕方ないので二人で戻ることにした。

 再び料理を貪っていると、アリアと目があった。その瞬間アリアはこちらにすごい勢いで走ってくる。


「ねぇ、大丈夫!?」


 近寄った私に向かって放ったアリアの第一声はそこそこ大きかった。耳が少し痛い。


「…うん、大丈夫」

「腕さすって二人でコテージ戻って行ったからどうしたのかと思ったら、乱暴されてたなんて! あいつ騎士の癖にどうかしてる!」


 アリアが珍しくめちゃくちゃに怒っている。普段怒ったりするような人ではないので、私は素直に驚いた。


「そ、そんな怒らなくても…」


 腕ももう痛くないし大事にならなかったから結果的には良かったので私は良いんだけど、なぜか私の周りの人の方がよっぽど怒っている。

 その光景は不思議だけど、少し嬉しいとやはり思ってしまう。


「あんな奴、フィン様にお願いして打首にでもして貰えば良いのよ!」

「アリアまでそんなフィン様みたいなこと言わないで…」


 今までフィンがおかしいと思ってたけど、もしかして私がおかしいんだろうか?

 少し腕を痛めただけだし、そもそもフィンが助けてくれたのにみんなそんなに怒るものなの?


「あれ、アニー鎖骨のとこどうしたの?」

「え?鎖骨?」


 特に覚えがないけど…。


「蚊に刺されみたいに赤くなってる。この辺いるのかな?」

「え…」


 蚊に刺された記憶はない。強いていうなら、思い出されるのはあの小さな痛み。


「〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 思い出した瞬間、私は一気に顔が赤くなるのを感じた。さっきやたらあっさりしてるなって思ったらそういうことか!

 私は勢いよくフィンの方に向かって勢いよく顔を向ける。しかしフィンはボーイの一人と楽しそうに会話するばかりで、こちらを向く気配はない。


「どしたの?」


 動揺する私にアリアは軽く困惑している。

 でも外が暗くて顔がよく見えないのが、唯一の救いだと思った。こんな顔は彼女に見られたくないし、今もフィンは私の反応を視界の端に映して楽しんでいるに違いない。


「な、なんだろうね? さっき蚊見たからそれかな! 暑いし、水辺だし!」


 さっき私に変な虫がどうのとか言っておいて、自分が虫みたいなことしないでよ。恋人に自分の跡つけるなんてどうかしてる。

 はははは! と私はその場で笑って誤魔化すことしかできなくて、そんな私をアリアは終始不思議そうに見ていた。


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