給湯室で全部がバレた(2)
「「…」」
恥ずかしいったらない。
今すぐ穴があったら入りたいほどに。
「あの」
それでも私がなんとか声を絞り出すと、反応した彼が私をみる。
「あの…どこから、聞いてた?」
私はその視線にちらりとしか応えれなくて、言葉が上手く、出ない。
それでも彼は、静かに私の手をとって。
「…君が、僕の目を…目つきを好きだと言った所から」
そう言って、手の甲にキスをした。
「…っ」
そん…そんなの、ほとんど最初からじゃない!
恐らく、先ほどアリアが一瞬視線を逸らしたのは、フィンの存在に気づいたからだろう。彼にこの話題を聞かせるために、居るのを黙ってたんだ。
ひどいよアリア、まさか本人に聞かせるなんて。
「僕もアニーの好きなところ、上げてこうか?一つ一つ、ベッドの上で丁寧に…」
そう言って腰に手が伸びる。私がそれを捕まえると、フィンは明らかに不服そうな顔をした。
「けち」
「当たり前でしょ、お互い本当は仕事中なのよ」
「これからの事を話すんだろう? なら僕らのこれからのために…」
そう言って取った手を絡めて、顔が近づいてくる。やばいこれはキスだ、そう私が慌てて彼の口を塞ごうにも逆にこっちの手が塞がっていることに気づく。まずいこれはまずい、フィンはこうなるように仕組んだんだ。そう考えていると、
「「!」」
小さなノックの音がした。
私たちは慌てて離れて、フィンがノックに応える。その顔には“良いところだったのに”と書いてあるようにしか見えなかった。いいところもなにもない。
「失礼致します」
中に入ってきたのはアリア。先ほど言ってた紅茶を持ってきてくれたんだろう。しかしアリアは私の顔を見てため息をついた。
「…お邪魔でしたかね?」
「そ、そんな事ないから!」
お邪魔もなにもない。私としては助かったくらいだ。
あのままキスされてたところを見られてたかもしれないと思うと、恥ずかしくて死ぬ。
「…もう少し来るのが遅くても良かったよ?」
にこりと彼は笑った。目元に影を乗せて。
「それは失礼しました。お紅茶をお持ちしたので淹れますね」
静かに怒る家令に目もくれず、そう言ってアリアはローテーブルでお茶を注ぎ始める。ちゃっかりカップが二つあるのはなんでだろう、私は使用人のはずなのに。
「お邪魔しました〜」
お茶を用意するとアリアはそそくさと部屋を去った。だから邪魔じゃないから! と叫びたかったけどそれを叫ぶのも恥ずかしかったのでいっそ沈黙する。
「…と、とりあえずお茶飲もうよ」
アリアがいなくなったのを確認して私がぎこちない動きのままソファに向かうと、死角からフィンが私を抱き上げてそのままベッドに私ごと座った。フィンの膝に突然座らされている私に、当然状況は理解できていない。
「な、なにしてるの!?」
動揺する私にフィンは影を乗せて微笑む。
「さっきは邪魔が入ったからね。続きをしようと思って」
「続き!?」
続きって何!?
「そう、続き」
そう言って彼は私のうなじにキスをした。
「ひゃう!」
変な声出た! 変な声出たぁ!
「可愛い」
私をいじり倒して幸せそうなフィンの声が後ろから聞こえる。
「可愛いじゃない! お茶どうするんです!?」
動揺してなぜか敬語になった。
でもせっかくアリアが淹れてくれたのに、紅茶が台無しになってしまう。
「君の淹れた紅茶じゃないしどうでもいいよ。それより」
そう言って、流れるような動きで私を押し倒すフィン。私は一体何回押し倒されるんだろう。
「こんな時に他の人間のこと考えるなんて…お仕置きだな」
そう言って彼は私の手に自分の手を絡ませ。また手の甲にキスをした。なんで急に、とは思うけどそれ以上にキスをされた場所が熱くて私の頭がパンクしてしまう。
「はわ…」
そして目つきの悪い目元が、瞳ごと私を見る。そのまま顔が近づいてきて、私はキスを覚悟した。それなのに。
「大好きだよ」
「!!!」
私が動揺していると、フィンは耳元でそう囁いた。だから囁かないでってば!!
慌てて空いた手で耳を押さえる。死ぬ、死んでしまう。死因は心臓破裂。
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
顔が熱い、顔が熱い。
今の私はスープに浸された野菜のようだ。長時間煮込まれたらぐずぐずになってしまう。
「ふふ、可愛いなぁ」
慌てふためく私を見て彼は心底嬉しそうに言う。
私をこんな時に愛でても何も出ない!
そして私は動揺が止まらない!
「お仕置きは終わってないよ?」
そう言って彼は一昨日と同じようにエプロンの紐を解き始めた。
「ちょ、ちょっと何してるの!?」
「なにって…脱がせてるけど」
「そんなのわかる!」
そういうことを言ってるんじゃなくて、それはなんでやってるのかって訊いてるの!
そうやって慌てている隙にもどんどん服が脱がされていく。本当にどうして。
「やーめ! やめなさいって! まだ昼だから!」
腕に力を入れてどかそうとしてもびくともしない。頭突きでも当てないとダメかもしれない。
「うるさい口は、塞いでしまおうか」
彼はそう言うと、半ば無理やり私と唇を重ねた。そのまま舌が入ってきて、口内を舌で蹂躙される。
「んっ…んぅ…んんん」
彼の舌が私の舌を絡め取って、離してくれない。呼吸ができなくて苦しくて、彼の腕に助けを求めて掴む。
「んふ…んぁ…はぁっ」
わずかな隙間で息をする。でもその呼吸は浅くて、全然酸素が足りない。
そっと離れた唇に、私は肩で息をする。
「あは、大人しくなったね」
彼は嬉しそうに笑う。
体に力が入らない。断らなきゃいけないのに、大事な話できてないのに、どうしよう。
流れるように外された背中のホックから、上半身のドレスが脱がされる。少しずつブラウスのボタンが外されて、胸元が顕になる。
「綺麗だよ、アニー…」
手が、彼の手が私の胸に近づいている。
考えろ、考えろ。この状況はまずいぞ。
なら一か八か、これしかない。そうおもった私は、持てる力を振り絞って手を上げた。
そこからあえて彼の湿布を貼られたままの頬にそっと触れて、眉間に皺を寄せながらにこりと笑う。
「もう一発食らいたい?」
その瞬間彼の動きが急に止まった。嫌いになると言った時よりは効果が出てるみたいなのは複雑だけど。
「大事な話、まだしてないよね? お義母さまの冗談に大義名分を見出さないでくれる?」
「…………はい」
そう言って私からそっと離れた彼は、頬を押さえてる辺り私からの一発に怯えてるように見えた。
いくら夫人が冗談半分で既成事実がどうのと言ったって、それ以前のことがまだ何も解決していない。それなら他に現を抜かしてる訳にはいかないのだから。
私は急いで脱がされかかった服を整える。全く油断も隙もあったものではない。
悲しみを背負ったような彼を放置した私はとっととソファに移動した。そして顔の熱を冷ますように、すっかり冷めた紅茶を一口。冷めてしまって苦味が強くなってるのが、今はありがたい。
「ふぅ…」
一息つくと、遅れてきたフィンが向かいのソファに座る。未だしょげてるのは無視しよう。
「で、私たちで話し合うべき大事な話って?」
大事な話と言っても、種類がある。
それは本当に遠いこれからの事かもしれないし、直近の旅行についてかもしれない。
「…多分旅行に連れて行く使用人を決めろって事だと思う。母上も人選は考えてると思うから、僕らを試してるんだ」
なるほど、今から信用する使用人を選んでおけって事なのかな?
「母上は多分、君が嫁いだ時にその世話役を一人ここにいる使用人から選ぶつもりだ。そしてそれは君が信用できる者がいいと考えてる」
確かに私の予想は大方合っているようだ。
もう既にそこまで話をつけようって言うのは少し早いような気もするけど…そこもなにか狙いがあるんだろうな。
「旅行に関してもそう。僕が信用するボーイと、君と君が信用できるメイドで構成しようとしてる」
「ふむ…」
にしても、信用できる人か。
確かに今までこの屋敷で過ごす中で、噂好きな人や明るい人、静かな人など色々な人や関係自体は見てきた。
でもまぁ、信用できる人なんて決まってるようなものだけど…今は決める時期でもないのかもしれない。
「何も今すぐにって話じゃないと思う。父上からの返事だってすぐ来る訳じゃないだろうから」
「でも早いほうがいいよね?」
「いや、決まったら教えてくれればいい」
「わかった、話はそれだけ?」
「今のところは。また何かあったら呼ぶよ」
私はそれに頷いて、それから改めて解散になったので部屋を出る。その後、マデリンさんに仕事を貰いに行ったら「早かったね」って言われた。
いやそもそも早いも何も無いんですよ。
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