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サンドイッチとジンジャーエール(2)


「そうだな、まずはやっぱり目元かな。キリッとしてるように見えるけど瞳は大きくてそこが愛らしい。唇も女の子らしい厚みがあるし鼻筋も通ってて整ってる、こうやって触ると頬もすごく柔らかい。見た目だけじゃない、確かに普段は無表情なのも多いけど実際は彩り豊かで優しい笑顔でもできるんだ。それは暖かな陽射しみたいで、それに…」

「待って! ストップストップ!! もういいから!」


 確かに“何を根拠に”なんて言い出したのは私だけど、そこまで羅列しろとも言ってない!


「えぇ…まだ言いたいことがあったのに」

「言い過ぎなくらいだから!」

「そんなことない。子供の頃からアニーは素敵だ」

「もういいって…」


 まさかたった一言でそこまで語るなんて思ってなかった。自信が持てるわけじゃないけど、少なくともフィンにからみる私と自分で見る私に明確な違いがあるに違いない。


「それに…」

「?」


 たった数分で疲れ果てた私の頬に触れたままだったフィンが不意に言葉をかけてきて、私がそれに視線を向けると彼の唇が私の瞼に触れた。


「それに、君はこのクマを気にしているみたいだけど、これがなかったらいらない男が寄り付く。だから今はこのままの方がいい」

「…っ、〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「ほら、そうやって赤くするところも可愛いんだから…素直に認めてほしいんだけどな」

「〜〜〜っ知らない! 知らないから!」


 彼の手が触れている頬が熱い。頭が爆発しそう…これじゃあまるで私がお姫様みたいじゃ…


「仕方ない、アニーは僕のお姫様だからね」

「…!」


 こ、心を先読みするなぁ!

 本当におかしくなりそうだよ! 何があったらこんな、こんなナンパみたいな…恥ずかしい台詞がぽんぽん飛び出してくるの!?


「あ、今ナンパされてる見たいって思っただろ?」

「え!? そん、そんな…」


 確かに考えたけど、なんて気まずくなって視線を逸らすと、視界の端に映る彼がわかりやすいほど悲しげな顔をし始める。


「酷いな、僕をそんなに軽い男だと思っていたなんて…」

「あ、いや、ちが…っ」


 違うような違くないような…だってあんな言葉、こう言う状況に慣れてないと出てこなくない?


「僕だって、アニーに思いを伝えたくて勇気を出してるのに、そんなこと思われたら傷つくに決まってる」

「う…ごめんなさい」


 そこまで言われると本当に申し訳ないな…私もここまで彼の好きなところとか、言えてるわけじゃないし。


「! 素直に謝ってくれるんだね」

「えぇ、そう言われるのもそれはそれで傷つくんだけど…」


 素直に謝ったら思ったより意外そうなリアクションをされた。さっきはあれだけ褒め倒してたくせに…なんて、人間には欠点があるとわかっていても思ってしまう。


「でも謝っただけじゃ僕の傷は癒えないなぁ」

「何か要求があるってこと…?」


 一体何を求められるんだ、私は…貞操とか言われたらぶん殴るけど。


「そうだな、ここまでは僕が君の好きなところを話したわけだし、君からも同じように君が僕をどう思っているのか聞きたいけど…」

「な…!」


 い、言えるかなそんなこと。確かにさっきの仕事してた時の姿とか、ダンスの時に感じる香りとか温もりとか…好きなところはたくさんあるけど、口にする勇気がない。


「まぁでも、今のアニーにそれができるとは思ってないから、膝枕で許してあげよう」

「膝枕!?」


 そ、それは付き合って二日目でやっていいスキンシップなの!?


「…って、この暑い中やるの? 倒れちゃわない?」

「五分とかでいいんだ、今まで見たことない角度から君を見てみたい」

「…っ」


 気を抜くとそうやって恥ずかしいこと言うんだから…何よ見たことない角度って、今度フィンの膝も借りてやろうかな。

 でもまぁ、今回は仕方ない。私のせいで彼を振り回したのは事実だし。


「…分かった。ど…どうぞ」


 恥ずかしいので視線はちょっと逸らしつつ、膝を揃えて腕を広げる。するとなぜかフィンまで赤くなり始めた。


「な、なんでフィンが照れてるのよ。フィンが言い出したんでしょ?」

「そうだけど…まさかやってくれると思わなくて」

「じゃあやめていい?」

「ごめん嫌だ。今そっちにいくから…」


 嫌なら最初からこっちに頭を預ければいいのに…とまでは流石に言ったら可哀想な気がして、言葉を心にしまう。

 それから慎重な様子でフィンが私の膝に頭を預けて、ベンチに仰向けで寝転がった。


「あ、風…」


 その時、心地のいい風が肌を滑るのを感じて、滑らかな涼しさについ微笑む。それからなんとなく下を見ると、フィンが満足そうに微笑んでいた。


「なぁに? その嬉しそうな顔は」

「嬉しくないわけないだろ。今僕は世界で一番好きな人の膝を占領してるんだから」

「! もう…そうやってすぐ恥ずかしいこと言う。言っとくけど、本当に五分だけだからね。体調崩したら帰らないといけないんだから」

「わかってる。だから大切にするよ」


 そう言ってフィンは穏やかに笑う。彼の心からリラックスしている姿を見て、私はまた一つ遠い記憶を思い出した。

 あの頃は、別荘にフィンが来るって聞いただけで嬉しかったっけ。

 別荘で会うフィンはいつも優しくて、私を大切にしてくれているのが伝わってきた。私がしたいことにいつも付き合ってくれて、でもかくれんぼだけはすぐに見つかっちゃうんだよね。


「…」


 懐かしいな、そして愛おしい。

 今この時間だって、暑い夏じゃなかったらもっとずっと長く続いたのかもしれないのに。

 そんなことを考えながら、私は名残惜しさを指先に乗せて穏やかに私の膝の上で横たわっている彼の髪を優しく撫でる。



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