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どうにもならないなんて、自分が一番わかってるのに(4)


「な、何ですかそれは!」


 あまりの動揺に、逆に敬語になった。そんなに透けて見えるほど私の思考は単調だって言いたいの!?

 でも彼はこっちが笑ってしまいそうなほど笑っている。本人は抑えてるつもりなんだろうけど、あけすけに笑っているのは、正直腹たつ。

 なので私が素直に腹を立てると、彼は「ごめんごめん」と謝りながら私の頭を撫でた。


「『どうやったら僕らが結婚できるか』考えてるのはそこだろう?」

「!」


 頭を撫でて子供扱いしてきたのは許さないとして、本当に頭の中を半分ほど見透かされた。私は結婚できるかどうかよりも、“どう在ったらせめて二人でいられるか”について考えてたんだけど…まぁ結婚できれば同じだからあながち間違ってないし、したり顔をしている彼に生暖かい感情が湧いたので、そのままにする事にした。


「そうだな、そのことについては僕に良い案が有る」


 唐突に、彼はしたり顔のままそう言う。その表情は大変微笑ましいけど、そんなものあっただろうか。


「はぁ…」


 何を企んでるのか知らないが、話半分に聴いておこう。多分良い話じゃない、私の勘がそう告げている。


「その前に、条件が三つあるんだ」

「…条件?」


 条件を設けるほど大事な話なのか…もしや私の身に余るような話なのでは?

 厄介ごとを避ける為にここまで考えていたのに、厄介ごとに自ら首を突っ込むのは避けたい。


 彼の発言に対してそんなことを考えた私は素直に怪訝な表情を見せた。しかしそんな私の表情は無視されたのかわかっていたのか、とにかくそのまま放置され話は進む。


「一つ、この部屋に来たら敬語で話すのを辞めて、僕のことも呼び捨てにすること」

「は!?」

「二つ、今日からこの部屋で一緒に寝よう」

「ちょっと待ってください!」

「三つめ」


 そう言って彼は私の顎を掴んで無理やり視線を上げさせる。


「今ここで、アニーが僕をどう思ってるか伝えて欲しいな」

「………」


 こいつ…今すぐ引っ叩いてやろうか。そう思って手が上がりかかったがしかし、それ以上に呆れて物も言えない。


 三つ目はまだまぁ…私はまだ何も返事をしてないからわかるとして、一つ目と二つ目は論外だ。 一つ目は誰かに聞かれでもしたら、フィンの家令としての示しがつかなくなってしまう。

 二つ目に至っては私を娼婦か何かと勘違いしてると言ってもいい。少なくとももう少し段階を踏んでから言うことだと思う。素直にぶっ飛ばしたい。


 なので私は顎を掴む手を思いっきり跳ね除けて、ベッドを降りた。


「今までお世話になりました」


 あんなアホらしい条件に付き合うくらいなら私が出て行った方がマシだと思う、私の人生的に。


「待って待って」


 しかしそう言いながら彼は私が逃げないように後ろから抱き抱えて持ち上げる。やっぱり意外と力はあるのか、驚いて暴れてもびくともしない。


「離してくださいー! 私はこの屋敷を出ます、お世話になりましたー!」

「だからそれを待ってって! 二つ目は諦めるし一つ目は妥協するからまって!」

「なら最初から条件に出さないでください!」


 私は振り向いて叫ぶ、もう心の全てを持って叫んだ。ふざけんなと言う気持ちを言葉の隅から隅まですべてに込めて。


「い、良いじゃないか少しくらい!」


 フィンも一瞬たじろぐものの、負けじと言い返してくる。しかし“ちょっと”とかそんな問題ではない。


「いやです! 私は娼婦じゃないんですよ! せめてもう少し段階ってものがあるでしょうが!」

「それは謝るから!」

「そう言うとこ! 私前から思ってましたけどねぇ! 貴族なのに貴方メイドの私に謝りすぎなんですよ!」

「じゃあどうしろって言うんだ!」

「そんなの自分で考えてくださいよ!」


 ぎゃあぎゃあと喧嘩は続く、お互いが疲れた辺りでしばしの沈黙が訪れる。


「「…」」


 二人とも息も絶え絶えで、気がつけば私は床に下ろされていた。それでも私を抱えたまま離さないフィンに、それこそ彼の強い執着を感じて、正直今は少し引いている。


「…こちらからも条件が有ります」

「…なんだい」

「二つ目は絶対嫌ですけど、一つ目は週に一回に止めることが条件です」

「三つ目は?」

「…その」


 顔が赤くなるのを感じた。急に心臓が高鳴るものだから、息が苦しい。でも言わないと、これだけは伝えないと彼に申し訳ないし、何より嬉しかった感情を返したい。


「…きです」

「ん?」

「わ、私も、好き、です…」


 自分の気持ちを伝えるのって、こんなに勇気のいることだったっけ?

 驚くほど言葉が出ないし、心臓がうるさい。顔だって火が噴いたみたいに暑いし呼吸も苦しいし…どうにかなってそう、私。


「よかった…分っていたけど!」


 彼はそう言って、後ろから私を抱きしめる腕に軽く力を込める。

 でも素直な気持ちを口にして“貴方のそれは分ってたではなくて決めつけてたではないですか”と訊いたら、流石に無粋だろうか。


「…と、とりあえず離してください」

「いいよ」


 やっと解放された。ひとまずこれで問答することもないだろう、多分。

 あぁでも、このままこの部屋にいたままっていうのは気まずいし緊張で死んでしまう。


「一先ず落ち着きましょう、紅茶を淹れて参ります」

「アニー」


 紅茶でも淹れに行ってひとまず逃げようとしたが呼び止められてしまった。振り向くと、彼が「さっきも言ったでしょ?」と言う顔でこちらを見ている。もう実行しないといけないのか、そう悟った私は心の中で盛大にため息をつく。


「…わかった、わかったからその顔やめて」

「伝わって僕も感謝してるよ」


 そう言って彼は悪戯に笑う。その顔心底腹たつ。


「じゃあ改めて…紅茶、淹れてきて良い?」

「もちろん、君の紅茶が飲めるなんて光栄だ」


 全く、こういう時だけ調子のいい…。

 そう思ったが再び飲み込んだ。誰かこの鬱憤を晴らすために話でも聞いてほしいなんてつい思ってしまう。





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