第7話 ギルドへGO!!
〈トリーシティ正門前にて……〉
「おや、レグザさん! お帰りなさい。」
「門番さん、お勤めご苦労さまです。何かお変わりはありましたか?」
「ええ、平和そのものですよ。」
レグザ氏と門番は以前からの知り合いのようだ。
彼らは先ほどのBランクモンスターの出現について話し始めたが、やはりこれには何か異常があるのだろう。
本来であればC級やD級のモンスターしか出現しないはずの領域に、B級クラスのモンスターが現れたのだから、問題にならないはずがない。
「ふふふふ……なでなで……」
トリーシティでもしばらくこの話題が続くのだろうと考えていた矢先、微妙な声が聞こえた。
「なでなでなでなで……」
「え、あの、ミラさん……」
「はい♪ なんでしょう?」
「い、いつまで……膝枕を……」
現在進行形で、僕は彼女の膝の上に頭を乗せている。
しかも、心地よい「なでなで付き」だ。
「あ、あの……僕は大丈夫なので……そろそろ……」
「いえいえ、まだまだですよ〜♪」
〈ひーっ……か、勘弁してください……〉
一体このスキンシップは何なんだろう?
初めは警戒していたはずなのに、まるでそんなことはなかったかのように打ち解けている。
僕の不甲斐ない姿を見せてしまったのも原因かもしれない。
いつの間にか、彼女にマウントを取られている状況が悔しい。
〈このままでは不味い!!〉
どうしたら……よし、こうなったら……逆にこの状況を利用して……
「あの……」
「はい? なんですか〜?」
「も、もう許して……ミラお姉ちゃん……」
上目遣いで彼女を見上げるその仕草に、あざとさを感じつつも、両手で口元を押さえ、さらに泣きそうな顔を演出する。
この技こそ、秘技【ぶりっ子アタック】だ!!
「フフフ…これなら流石に離れてくれるはず!」
しかし、運命は思わぬ方向へ転がる……
「………………………………………………」
「あ、あれ?ミラさん?」
〈ズッキューン!!〉
「二人とも、そろそろ降りる準備をしておいて……」
ラックが手続きを完了し、僕たちを呼び寄せたその瞬間だった!
「ぶはーーーーーーっ!!(ミラ)」
「うぎゃーーーーーっ!!(カケル)」
「うおっ!ミ、ミラが大量の鼻血を!!」
一瞬、ミラの周りが時間停止したのかと思うほど脳内が真っ白になり、次の瞬間、ミラは私の可愛い仕草にメロメロになってしまった。
結果は……思考が追いつかず、オーバーヒート!つまり、受け止めきれずに大量の鼻血を噴出するという悲劇が訪れたのだ…
そして……10分後…………
仁王立ちするラックの前で、正座をさせられているミラと僕がいた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
「うわぁぁ……すごく怒ってる……」
さっきの僕の「負の波動」が、ラックから漏れ出しているのが明らかだ。間違いなく怒っている証拠だ……
「お前たち……いい加減にしてくれ……特にミラ!!!」
「ビクッ!! は、はい……」
「お前は調子に乗り過ぎだ!交流を深めるのは良いが、限度を考えろ!やり過ぎはお前の欠点だぞ!!」
「ひっく……ご、ごめんなさい……」
ミラは、もはや半泣きを超えて完全に泣き顔だ。
初めて遭遇した魔物の攻撃時よりも泣きの表情だ。
そんな姿を見て、なんだか少し可愛いなと思ってしまったが…
「カケル殿もカケル殿だ……あまりミラをいじめないでくれ!!」
「で、でも、ああ言わないと離れてくれないんじゃないかと思って……」
「ギロッ!!」
「……ごめんなさい。もうしません……」
完全にヘビに睨まれたカエルのように、謝る以外の選択肢はなかった。
ラックが怒ると本当に怖いということを痛感した僕は、その教訓を胸に刻んだ……今後は十分に注意しようと、そう…心から思ったのだった。
「まぁまぁ、ラック殿……とりあえず無事に到着できたのですから……その辺で……」
レグザ氏も気の毒に思ったのだろう、間に入って仲裁してくれた。
彼の優しい声に、少しだけ冷静さを取り戻したラックは、心なしかほっとした様子だった。
その後、馬車を降りて、依頼は無事に完了したと報告が行われ、報酬の話に進むこととなった。
「それでは、ここまでの護衛、心から感謝いたします。報酬はギルドでお受け取りください。」
「今後もご依頼があれば、いつでも声をかけてください。皆もお疲れ!!」
「おおーーーーー!」
歓喜の声が周囲を包み込む。
ラックとレグザは力強く握手を交わし、その様子を見ていたメンバーたちも喜びを分かち合った。
笑顔が広がり、彼らの努力が報われたように感じられる。
「それと、カケル殿ですが……今回は途中からの依頼ということで、ギルドではなく、私個人からの依頼としてお支払いさせていただきます。」
「本当に依頼料はいらないのに……」
「いえいえ!! そうはいきません。まぁ……ただ、本日中には間に合いませんので、明日以降でご用意い致します……ご足労になりますが、私の店舗に足をお運びください。」
レグザ氏は、親切にも僕に店舗までの地図を手渡してくれた。その後、挨拶を済ませたレグザ氏はその場を後にした。
「さて……これからどうしたものか……」
先ほども話した通り、ギルドに行くのが決定事項だ。しかし、そう決意を固めた瞬間、心の奥で小さな声と体が響いた。
〈ぐ〜〜〜っ……〉
「お、お腹すいた…………」
言葉にできなかったが、今、僕の胃は非常に切実に訴えていた。
異世界転生からここまでの間、まともな食事を口にしていなかったのだ。
喉を通っていたのはポーション(スポーツドリンク味)のものだけ。
確かに体力は回復したが、空になった胃のことを考えると、まるで虚無を感じてしまう。
「やはり……ご飯だよね……」
その結論に至るまでに、そう時間はかからなかった。
異世界での冒険には、食事が不可欠だ。
何より、空腹では思うように動けない。
心の底からそう感じた僕は、一念発起して言った。
「よし行こう!! 皆さんお世話になりました!! それでは僕はこれで………」
ガシッ!!
「……って、あれ?ラックさん?ミラさん?」
「カケルさん……どこに行かれるのですか?」
「そうだぞ、カケル殿……これからがメインなのだからな!!」
突然、目の前に広がったのは、意外な二人の姿。ラックとミラが左右から挟みこんで、僕の両腕をガッチリと掴んでいた。これは、自由を奪われているに等しい。まるで、工作員に取り押さえられた宇宙人のようだ。
「ちょ、ちょっと……何の冗談ですか!!」
あまりの出来事に、思わず声を大にしてしまった。
彼らの目に宿る期待の光を目の当たりにし、少しずつ恐れが芽生えてくる。もはや、何を言ってくるのか段々と予想ができてきた……
「何って……もちろんギルドに行くのですよ♪」
や、やはり……しかしコチラもご飯は食べたい!! とにかく訴えを主張しないと……
「いや、僕は、ご飯を……」
「まぁまぁ、そんなに手間は取らない!! 食事はその後で良いだろ?」
あっさり却下されてしまった……
「あ、あの……ちょっと……」
「それでは、ギルドへGOです!!」
「えーーーッ!!」
こうして僕は、半強制的にギルドに連れて行かれる事になったのである。