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第6話 女の子認定されました……


「おばあちゃん!! おばあちゃん!!」


幼い少年の声が、穏やかな午後の縁側に響き渡る。


「なんだい? カケルちゃん」


おばあちゃんの優しい声が、少年の全身を包み込む。皺の刻まれた笑顔は、太陽のように温かい。


「僕ね、おばあちゃんの事大好きだよ」

少年の無邪気な言葉に、おばあちゃんの目は一層細められる。


「フフ…ありがとう…おばあちゃんも、カケルちゃんの事が大好きよ…」


「うん…へへへ…」


少年はおばあちゃんの膝に頭を預け、満足そうに笑う。太陽の匂い、おばあちゃんの温もり。それが、世界で一番幸せな時間だった。


(なんだろう…この懐かしい感覚…)


どこか他人事のように、その光景を眺めている。まるで、ガラス越しに見ているかのように。


(何を見ているんだろう……何気ない会話なのに、胸がこんなに締め付けられる……)


鮮明すぎる記憶。温かすぎる感情。これは現実ではない。


(そうか…これは夢だ……)


そう確信できたのは、あまりにも思い出に残っている光景だったからだ。あの無邪気な少年は、前世の僕だ。そして隣にいるのは、僕の最愛の祖母……おばあちゃん……。


僕は、おばあちゃんが大好きだった。いつも隣にいてくれて、ニコニコと優しい笑顔を向けてくれた。時間があれば、縁側でおばあちゃんの膝枕で【 ひなたぼっこ 】をしてくれた。それが当時……僕の1番の幸せだった。他には何もいらなかった。ただ、おばあちゃんの温もりを感じていれば。


(でもなんでだろ? なんで今頃になって、こんな夢を見るんだ?)


そう思い始めた直後、周りがゆっくりと、しかし確実に白い霧に包まれていった。視界が奪われ、おばあちゃんの姿も、縁側も、何もかもが見えなくなる。残るのは、ただただ温かい感情だけ。そして……意識が途絶えた。


「……カケルさん」


小さく、控えめな声が聞こえる。


「う〜ん…」


意識が浮上する。重い瞼をゆっくりと開けると、眩しい光が目に飛び込んできた。


(なんだろう…なんか…とても気持ちいい…)


特に後頭部が、信じられないくらい柔らかくて暖かい。まるで、先ほど夢で見たおばあちゃんの膝枕のような、懐かしい心地よさを感じる……ような……


「カケルさん!!」


突然、耳元で大声が響き、僕は飛び起きた。


「うわ!! あれ? ミラさん?」


目の前にいたのは、心配そうな顔をしたミラだった。その顔は、異常なほど近い。


「ホッ…良かった…です」


ミラは心底安心したように、胸を撫で下ろした。


「あ、あ、あのミラさん……」


ようやく状況を把握し始めたカケルは、恐る恐る問いかける。


「あ、あの…もしかして、僕をずっと…膝枕を?」


「はい!! 膝枕をしていました!!」


ミラの肯定に、僕の顔はみるみるうちに赤くなっていく。


(や、やっぱり(心の声))


この至近距離は、紛れもなく膝枕のポジションだ。予想外の展開に、僕は激しく動揺する。穴があったら入りたい気分だった。


「うわわ…ミ、ミラさん……」


居心地の悪さに耐えられなくなった僕は、慌てて起き上がろうとした。しかし……


「動かないでください!!」


ミラは僕の両肩を力強く押さえつけ、制止した。


「カケルさん、さっき凄い鼻血を出していたじゃないですか。今、急に動くのは良くないですよ!!」


「で、でも……」


「デモもストもありません!! とにかく、ジッとしてください!!」


突然の指示に、僕は抵抗する間もなく押し黙った。


「は、はい……」


完全に押し負けてしまった……まさか目覚めると、少女の膝の上……膝枕なんて、ゲームのシナリオイベントでもなかなか無いシチュエーションだ。


状況を飲み込めないまま、僕は硬直した。恥ずかしいのは事実だが、正直、少し……いや、かなり気持ちがいいのも本音だったりする。こんな可愛らしい女の子に膝枕されるなんて、まるで祝福のひとときのようだ。こんな経験、もう二度とないだろう。メモリー(脳)に焼き付けておかなければ……


などと考えていると、頭上から小さく笑い声が聞こえてきた。


「クスクス……」


「えっと…ミラさん……?」


膝枕をしてくれている、ミラに声をかける。


「あっ、ごめんなさい」


彼女は慌てて謝った。


「僕の顔に何か付いていましたか? それとも、変な顔をしていましたか?」


ミラが笑っていた理由がわからず、僕は問いかけた。


「カケルさんは、凄く表情豊かな人なんだなって思って……つい」


「そ、そんなこと……」


カケルは頬を赤らめた。


「そんな事ありますよ。それが、とても可愛いです。」


ミラは屈託のない笑顔でそう言った。


「え?、えっと……」


流石に膝枕をされながら「可愛い」なんて言われたら、思考回路がオーバーヒートしてしまう。かなり恥ずかしい……けれど、嬉しい気持ちがないわけではない。正直どうすればいいのか……判断がつかず、頭の中がグルグルと混乱してきた。


「ちょっと世話がかかるけど、私にもこんなに可愛い妹がいたらなって思っちゃいますね。」


ミラの言葉に、僕は複雑な気持ちになった。


「う~ん……完全に年下の子供扱いだ……まぁ…前世では20歳だったけど、今の年齢は14歳……世話も焼けたけど……可愛い妹扱い、か……」


ふと、この時、違和感を覚えた。


「………………ん?」


今、彼女は何と言ったのか?


「い、い、妹……?」


確か、僕の口調は「僕」という一人称だ。それに「カケル」という名前も、明らかに男性のもの。どう考えてもおかしい。


「いや……まさか……聞き間違いだよね……?」


そう思いたい気持ちと裏腹に、不安が頭をもたげてくる。僕は意を決して、ミラに問いかけた。


「あ、あの……ミラさん……」


「はい?」


「今、なんて言いました?」


「え? えっと……世話の掛かる……」


「その後、その後です!!」


僕は必死だった。


「ああ!! 可愛い妹ですね~なんかお持ち帰りしたくなるくらいです♪」


ミラは悪びれる様子もなく、楽しそうに言った。


「や、やっぱり……」


その言葉を聞いた瞬間、僕は確信した。ミラは完全に自分のことを女の子だと認識しているのだ。これはマズイと訂正をしたのだが……


「あ、あの……僕……男……ですけど……」


カケルの声は、微かに震えていた。


「またまた、そんな冗談を♪」


「いえいえ!! 本当に男なんです。」


「確かに、最初は魔道具スーパーガブで体当たりしたり、バスターソードで斬りつけたり、名前も男の子ぽいし、男性かもしれないと思いましたけど……」


「で、でしょ!!」


「でも、こんな可愛らしい顔立ちの男の子がいるなんて、見たことないですよ♪ 名前も『カケル』なんて、女の子でも使いますしね♪」


「確かに、ミラの言うことは一理あるな……」


「あ、あ、ラックさんまで……」


ミラとラックは、どう見ても僕が完全に女の子だと誤認している。


「う〜ん…どうしても証明したいのなら……ステータスカードがあれば…」


「ステータスカード?」


ラックが説明するには、ステータスカードとは、所有者の情報が収められた特殊なカードで、名前、性別、職業、戦闘能力、魔法のスペックなどの基本的な詳細が確認できるらしい。前世で言うところの免許証やパスポートのようなものだ。


「カケル殿は、そのカードはお持ちかな?」


「持っていませんよ!! あったら見せてます!!」


「そうか……なら、ギルドに行って発行してもらうといい。」


「発行ですか……」


「結構便利だぞ。ギルドの依頼や情報掲示・各国の通行証にもなるからな。それに、その日の内に発行してくれるしな!!」


「なるほど……そうですね……町に着いたらギルドに行ってみようかな……!」


そうしないと、いつまでも女の子認定が続いてしまうから……一刻も早くカードを作りたいという気持ちが強まる。そんなことを考えていると……


「皆さん!! トリーシティが見えてきましたよ!!」


レグザ氏の声が響くと同時に、大きな壁……いや、城壁とその門が視界に入ってきた。いよいよ、トリーシティに突入する時が来たのだ!!

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