第43話 道具屋カマー
「ごめんなさい……ちょっと、熱くなりすぎ……たかも……ごにょ、ごにょ……」
――ミュー先輩の魔道具による追撃が止んでから、だいたい三十分ほど経った頃だろうか。
ようやく魔核の効力が尽きたらしく、先輩はすっかり大人しくなっていた。
「とにかく……冷静になってくれて良かったです……」
ミラージュも心底ほっとした様子で胸を撫で下ろしている。
正直、僕もだ。命の危機は、どうやら回避できたらしい。
――と、思ったのも束の間。
「それと、カケルさん!!」
「は、はい!!」
反射的に背筋が伸びた。
「やっぱり、自己紹介の時は性別もちゃんと伝えるべきです!!」
「そうだよ! 今後は、ちゃんと“男の子”って言うように!!」
ミラージュとミュー先輩、まさかの同時注意。
「……はい。善処します……」
逃げ場はなかった。
僕は、しっかりと(なぜか)厳重注意を受ける羽目になったのだった。
「まぁ……それはそれとして……」
ミュー先輩は、咳払いを一つして話題を切り替えた。
「とりあえず、カケルちゃんの魔道具は、引き続きモニターをお願い。ただし、少し調整したいから……一日だけ預からせて」
「は、はい!」
――ようやく、本来の話に戻った。
「それから……ミラちゃん?」
「へ? わ、私ですか?」
ミュー先輩の鋭い視線に、ミラージュが一瞬たじろぐ。
「まさかとは思うけど……まだ、あの装備のままじゃないでしょうね?」
「えっと……その……」
モジモジと目を泳がせるミラージュ。
〈……あれ? なんだか言いにくそうだ〉
「やっぱり! あの装備、学生時代のものでしょ!? 実戦向きじゃないって、前にも言ったはずだよ!!」
「で、でも……お気に入りですし……可愛いし……」
「“可愛い”で冒険者が務まるほど、世の中甘くない!!」
ぴしゃり。
完全に、お母さんに叱られる娘の構図だった。
確か、初めて会った時のミラージュの装備は――
大きな帽子に、模様入りのマント。確かに可愛いし魔法使いの雰囲気はあったが……。
……そんなに不向きかな?
「と・に・か・く!! ミラちゃんは、装備一式、総取り替え!!」
「えええーーー!?」
「“ええ”じゃない!! 私御用達の防具屋があるから行きなさい! 私が地図と紹介状を書いておくから!」
「うっ……は、はい……」
シュン……
ミラージュは、しょんぼりと肩を落とした。
「……なんだか、本当に親子みたいだな」
思わず、そんな感想が口をつく。
「カケルちゃんも、せっかくだから一緒に装備を見てくるといいわよ」
「え?……はい……でも、それなら……ホームセンター・ジーナスでも……」
「ジーナスも悪くないけど、私が紹介する店は……ちょっと“特殊”でね」
「特殊……?」
ミュー先輩は、意味ありげに微笑んだ。
「まぁ……行けば分かるわ……勉強にもなるし……」
「勉強……?」
――こうして僕たちは、地図と紹介状を手に魔道具工房を後にした。
「えっと……道具屋……カマー……?」
歩きながら、封筒と地図に書かれた店名を読む。
「ミラさんは……この店、知ってますか?」
「いえ……私も初めてですね……」
「そうなんですね……」
「でも……学生時代から装備を変えていなかったので……正直、買い物自体が久しぶりかも……」
なるほど。
僕は、ミュー先輩の言う“特殊”という言葉が気になっていた。
正直……普通に装備を変えるならホームセンター・ジーナスで十分足りるハズだ……それなのに“勉強になる”とは……
一体どんなところなんだろ……
――そして。
「ここが……道具屋カマー……か……」
地図の場所に到着はしてみたものの……外観は、魔道具工房ミューと大差ない。
拍子抜けするほど、普通のお店だった。
何が特殊なのだろうか……?
「と、とりあえず……入りましょうか」
「そ、そうですね……」
そして……扉を押し……
ギギギ……
「あら〜、いらっしゃい」
――え?
「まぁまぁ……可愛いお客様ねぇ♪」
最初は、女性店員だと思った。
だが、次の瞬間、僕たちは理解する。
――違う。
筋骨隆々の身体。
盛られた化粧。
そして、完璧なおネエ口調。
こ、これは…完全に男性だ!!
「道具屋カマーへ、ようこそ。何をお求めかしら?」
……どう返すべきか、頭が真っ白になる。
しかし……その時は、まだ知らなかった。
この人物が――後々、とんでもない人物だったことに……




