第42話 バットガールとトラブルボーイ
「お願い……見せて……出して……」
顔を赤らめ、やけに楽しそうな笑みを浮かべて、ミュー先輩が迫ってくる。
――いや、待ってください。
「ミュー先輩!!女の子が“見せて”とか“出して”とか連呼しちゃダメです!!」
「???」
本気で分かっていない顔だ。
だから、なおさらタチが悪い。
この状況、第三者が見たらどう考えても――
完全にアウトである。
「なんでよ! お願い! お願い!!」
しかも……駄々っ子だった。
もはや、天才研究者なのか、幼児なのか判断に困る。
結果……
「……分かりました。ただし“見るだけ”ですよ?」
「ありがとう!!カケルちゃん♪」
満面の笑みで手を叩くミュー先輩。
こうして僕は、渋々――
魔導具を呼び出すことになった。
ボワァ……!
「おおおーーーっ!!」
現れたマシンを見て、ミュー先輩が目を輝かせる。
「これが……あなたの魔導具?」
「はい。スーパーカブです」
「どうやって動かすの?」
「まず跨って、その後ハンドルを握って……」
「うんうん!」
「それで――回すと!!」
ブォォン!!
エンジン音が響く。
「おおーーー!!」
「私も、こんな近くで見るのは初めてです……」
ミラージュも興味津々だ。
しかし……ただ、エンジンを吹かすだけでは面白くない。
〈それなら――〉
ブォンッ!!
「きゃっ!?」
ウィリー状態で急発進。
二人が目を見開く。
〈ふふふ……驚くのはこれからだ〉
ブロロロ………
距離を取り、一気に接近。
「え、なになに?」
――急ブレーキ。
「行くぞ……ジャックナイフ!!」
前輪を軸に、後輪が跳ねる。
ブワァァッ!!
強烈な風圧。
――しかし……ここでミスをしてしまった……
「……しまった」
完全にやりすぎた。
スカートが、ヒラリ――
いや、ヒラヒラどころじゃない〈これ、完全に……神〇の術だ……〉
昔アニメで、忍者が風の術を使った時に女の子のスカートをめくる技だったが………
「カ、カケルさん……むむむ……」
ミラージュはスカートを押さえ、顔を真っ赤にして睨んでくる。
〈ち、違う!誤解です!!ただの曲芸です!!〉
……そう心の中で叫び続けた……
一方で……。
「おおおーーー!!凄い!! 凄すぎる!!」
ミュー先輩は、完全に遊園地のパレードを見る子供だった。
……ならば、気を取り直して!!
「最後に、もう一つ」
キキィィ――!
前輪を固定し、後輪を全開。
機体が円を描く。
地面に残る、黒い円弧。
「よし……完成だ!!」
ドッドッド……
僕は、エンジンをかけたままバイクから降りた。
「この模様……魔法陣ですか?」
「いえ。【マックスターン】っていう、ただの曲芸です。なので、魔法の効果はありません」
■ マックスターン
昔の映画やバイク好きな連中で流行った技である。道路にタイヤを擦り付けてマークのような跡を付ける……そんな流行った時期があった……それがマックスターンだ。
「マックスターン……へぇ……」
「これで、走行会は終了っと……」
説明を終え、これで満足しただろう――
そう思った、その瞬間。
「おお!! これがスーパーカブか!!」
「ミ、ミュー先輩!?」
――いつの間にか、乗ってる!?
「降りてください!!これ、初心者が触ると危ないんです!!」
「大丈夫♪見て覚えたから問題なし!私は風になる!!」
カチッ。
ブワァァ!!
「――え?」
次の瞬間……ミュー先輩は、本当に風になった。
「ミュー先輩ーーーッ!!」
■ 数分後……
「はぁ……はぁ……」
約50メートルくらいだろうか……ようやく追いついた先。
そこには――
カラカラカラ……
無残な姿のスーパーカブ。
完全にひっくり返りタイヤは空回りしていた……
そして……
「……う〜ん……」
ミュー先輩の姿は……頭から地面に打ち付け……そして……下半身は頭より上になり……逆立ちしているような状態になっていた……しかも、その状態でスカートが全開でめくられてしまい……下着が……丸見えになっていたのだ!!
僕は……咄嗟に両手で目を隠した……
「ぼ、僕は……何も……」
「カケルさん?なんで目を手で隠して……」
ようやく、追いついたミラージュが、事態に気づき――
「ぶ……っ!!せ、先輩大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫……でもこれは……とんでもない代物だね……」
「やっぱり……カケルさんの言う通り、もう乗らないほうが……」
「そうだね……いや〜この世にこんなのがあるとは……ん……?」
「………」
「カケルちゃん?なんで目を隠してるの?」
「ボクハ……ナニモ……ミテイマセン……」
僕は……とにかくこの場を誤魔化したかったが、動揺の方が勝っていて、上手く話せず……そして……
「せ、先輩……実はカケルさんは……ゴニョゴニョ……」
ミラージュが耳元で僕の事を説明しだした……
「え?男の子?いや〜まさか、こんなカワイイ顔の男の子なんて、いるわけ……」
コクコク……
「マジ……?」
ミラージュは首を縦に振り返事をした……
「…………」
この瞬間……三人に時が止まったかのような間ができた……
「……見た?」
「い、いえ……ピンクの……ウサギさんなんて……」
「…………見てるじゃない」
――しまった。心の声が!!
沈黙……そして……
「……ちょっと、待っててね」
ミュー先輩は疑似空間から立ち去り――
■ 数分後……
戻ってきた。
しかも、巨大なハンマーを持って……
「ミ、ミュー先輩……?」
「これはね……《バーニング・ハンマー》って言うの……」
ビクッ!!
身震いがした……加えて嫌な予感しかしない。そう思った、次の瞬間だった!!
「どりゃーー!!」
「うわーーー!!」
突然、ハンマーを僕に向けて降りかかってきたのだ!!
ドッカーーーン!!
「へぇ……?」
間一髪……回避し避けたが……突然床に当たった瞬間……爆発した……
「チッ……外したか……」
「ミ、ミ、ミュー先輩……それは……」
僕は……恐る恐る尋ねた……
「ねぇ知ってる?記憶を消すには、強い衝撃が効果的なんだって♪」
「そんな民間療法知りません!!」
「安心して。最初から――頭ごと潰すつもりだから」
――ああ…ここのままでは……どうしたら……そうだ……もはや頼みの綱はミラージュしかいない!!
「ミラさん!!助けて……」
〈ミラさんなら……止められるかも……付き合いも長いし説得してくれれば……〉
しかし……それは……甘かった……
「はわわわ……」
ガクガクガクガク……
ベタン………
「ミ、ミラさん……」
助けを求めた僕ではあったが……彼女は恐ろしさのあまり、腰が抜けて床にペタンと落ちていた……
「さぁ……覚悟はいい?」
「ないです!!」
「問答無用!!」
「うわあああ!!」
――こうして僕は、魔核が尽きるまで、必死に逃げ回ることになった。
そして、この時……ミラージュは……。
〈あの時……私も乗りたいなんて言わなくて良かった……〉
心からそう思ったそうな。




