第41話 魔力供給動力炉【マテリアルドライブ】
――三年前 ルージュ魔導女学院
コンコン。
「ミュー先輩!入りますよ!」
返事を待たず、ミラージュは勢いよく扉を開けた。
ガチャ――。
「――うわっ!!」
思わず声が漏れる。
部屋の中は、ひと言で言えば惨状だった。
机の上も床も、魔導書と設計図、研究資料が雪崩のように積み上がっている。
そして、その“書類の山”の下敷きになっている少女が一人。
「……う〜ん……」
「ミュー先輩!! 起きてください!!」
ミラージュが肩を掴んで揺さぶると、書類がバサバサと崩れ落ちた。
「ふわぁ〜……ありがと、ミラちゃん……」
大きなあくびをしながら、ようやく顔を出したのがミューだった。
「また徹夜ですか? これ、何日目です?」
「学会が近くてね〜。気付いたら朝だったよ」
「“気付いたら”で済ませないでください!」
呆れ顔のミラージュをよそに、ミューは黒板へ視線を移す。
そこには、複雑な魔法陣と配線図がびっしり描かれていた。
「……それで、この“マテリアルなんとか”って……」
「魔力供給動力炉だよ」
「……本当に完成するんですか?」
疑念を隠さない声。
ミューは黒板を見つめながら、静かに答えた。
「今はまだ理論段階。でも――数年あれば、現実にできる……ハズ……」
「本当ですか……?」
「うん…でもね…これが完成すれば―」
ミューは振り返り、少しだけ真剣な目をした。
「魔力を持たない人間でも、魔法が使えるようになる」
「……!」
ミラージュは息を呑む。
「夢みたいな話ですね……」
「かもね?」
そう言って笑うが――。
ぐぅ〜〜……
不意に鳴ったお腹の音に、ミラージュはため息をついた。
「……先輩。とりあえず、ご飯です」
「おお……ありがと♪命拾いしたよ……」
こうして、研究と実験の日々は続き――
そして月日は流れた。
■ 現在
「――そして、半年前。ようやく完成したのが、このシステムなのよ!!」
疑似空間で、ミュー先輩は誇らしげに胸を張る。
……うん、ドヤ顔がすごい。
「ミュー先生、質問です!」
「なんだね、カケルくん」
「普通の魔導具と、その…魔導具に組み込んだマテリアルドライブの違いが、よく分からなくて……」
市販の魔導具にも魔核は使われている。
なら、魔力がなくても動くのでは――そう思っていた。そう……ここに来るまでは……
「いい質問だね」
ミュー先輩は満足そうに頷き――突然。
「はい! ミラージュくん! 説明を!」
「わ、私ですか!?」
「さぁ、どうぞ!」
「え、えっと……」
ミラージュは一度深呼吸し、説明を始める。
「従来の魔導具は、使い手の魔力を魔核に流して発動します」
「つまり……」
「魔力を持たない人は、起動すらできません」
やはり、そういうことか。
〈例えるなら……人間が“鍵”、魔核が“エンジン”なんだ〉
「えっと……つまり……鍵……魔力持ちの人間がいなければ、魔導具は動かない……」
「その通り!」
パチン!!
ミュー先輩が指を鳴らす。
「マテリアルドライブは、その“鍵”の役割を代行する装置なのだよ!!」
「魔核の力を……鍵に……」
「人間の代わりに、強制起動させるのが魔力供給動力炉なんだ!!」
「なるほど……」
「ちなみに……この疑似空間も大型の魔力供給動力炉で機動しているんだよね……これが……」
だから、魔力ゼロでも使える。
「ちなみに、カケルちゃんの場合は――」
「?」
「リミッターを解除して、通常の魔導具仕様に切り替えたよ」
「だから……あの出力に……」
「ブーツも同様。問題なし!」
ビシッ、とVサイン。
〈……確かに、これは革命的だ〉
「でも、まだ試作品……だから〜」
「モニター役、ですよね?」
「その通り!」
僕は一歩前に出た。
「わかりました!!引き続き、モニターを継続します」
「ありがとう、カケルちゃん!」
〈ふぅ…やれやれ…〉
……と、思った次の瞬間。
ギュッ。
「へ?」
突然、両手を掴まれる。
「ところで、カ・ケ・ル・ちゃん♪」
目の前には、小悪魔のような笑顔で囁いてきた……。
ニヤ〜
「次は……君の“魔導具”、見せてほしいかな?」
――ああ、これは……
間違いなく、面倒な展開の予感しかしない。
そう……確信した。




