第4話 ジャックナイフをキメろ!!
こんにちは、車田カケルです。
前世ではF1レーサーとして名を馳せていましたが、突如として事故死してしまいました。しかし、女神セリカ様のお力で異世界フェルミオンワールドに転生することに!!。加えて、負のエネルギー・アンチエレメンタルの回収も依頼されてしまいましたが……
転生後は、スキルやフルドライバーの能力を確認したけど、このフルドライバーはとても扱いが難しく、手強い存在でした。
どうにか、フルドライバーが所有するマシン「スーパーカブ」を乗りこなし、近くの町を目指して移動中でした……が……
「グルルル……」
「シャーーッ!!」
現在進行系で、魔物と戦闘を繰り広げております!!
「くっ……て、手強い……?」
これは30分ほど前の出来事である……
「ふーぅ…アイテムガレージにポーションがあって助かった……」
スーパーカブの練習で疲労困憊だった体を少しでも回復するため、ポーションを摂取。ちなみに、そのポーションはスポーツドリンク味だ。
「とりあえず、マップによると…このまま街道を真っ直ぐ進めば大丈夫みたいだな。」
今、見ているのは先ほど保留にしていたスキル【マップ】。
本来は世界地図だけど、ステータス内で画像化して見ることができ、自分がどこにいて、どこに向かっているのかを確認できる…要するに、カーナビゲーション的な存在なのだ。ただ、目的地を設定したり、地図以外の情報が検索できないという弱点はあるけど……とにかく迷うことはないので、これはかなり便利な機能である。
「後…1時間くらいかな?」
今、向かっているのは【トリーシティ】という名前の都市。異世界に来て初めての町なので、楽しみで仕方がない。そんな時だった……!!
「ビービービー!!」(効果音)
「警告!? アラート!?」
突如、ステータスから危機感を覚える警告音が鳴り響いた。
「トレースに反応?」
トレースとは、僕の周囲100メートル圏内で生体反応や魔力を検知してくれる便利な機能の一つ。これに引っかかると、反応した情報をリアルタイムで教えてくれる。ただし、反応直後は個体数や危険度などしか表示されないのが難点である・・・。
■トレース
人間種 6名(4名負傷)
魔物 10体
危険度 D−
「4名負傷?怪我人がいるのか?急がないと危険かも……よし、行くか!!」
6人中4人も負傷している状況を思うと、事態は深刻だ。僕はスーパーカブのエンジンを唸らせ、反応のある場所へと向かった。
そして、現場では……
「なんだよ、こいつらは!!」
「この街道で、ヘルドックとディープコブラが出るなんて……B級モンスターじゃないか!」
「まずは陣形を立て直せ!怪我人は俺の後ろに下がれ! ミラ!!怪我人に回復魔法を!!」
「あ、え、は、はい……」
状況はまさに激戦。必死に戦っているが、連携がうまくいっていないようだ。リーダーらしき人物が指示を出しているが、怪我人をかばいながらの戦闘は厳しい。しかも、ミラと呼ばれる魔法使いも恐怖で思うように動けないようだ…
「くっ、クソ……せめて依頼人を安全な場所に連れて行かねば……」
その瞬間、馬車を確認した隙を突いて、ヘルドックが襲いかかってきた。
「危ない!!」
「何!!ぐはぁ!!」
右肩を噛まれ動きを封じられ、絶体絶命の状況に陥った。
「クソ……離せ!!」
しかし、ヘルドックの牙はただ食い込んでいく。仲間たちは助けようとするが、魔物に囲まれて動けない。そして、次第に意識が薄れてゆく……
「う、もう駄目か……」
絶望が胸を締めつけ、死を覚悟したその瞬間だった。
「ギャワー!!」
突然、ヘルドックの体が水の弾丸で貫通力し、そのまま消滅してしまった!
「な、なんだ?」
同時に、他の魔物たちは炎に包まれていく。
しかし数匹が難を逃れ、その中のヘルドックがメンバーの一人ミラと呼ばれる少女に猛突進してきた。
「キャー!」
状況が飲み込めないまま、襲われてしまった。
しかし!!
「ブロロロローーッ」
「行っけーー!!」
スピードが増すにつれ、僕は一瞬の隙を狙って減速し、急加速する。バイクのリアタイヤが滑り、まるで獲物に急接近する狩猟者のように、僕は魔物の首元を狙った。
一瞬の静寂の後、スーパーカブがその素晴らしい動作を決める。右手がハンドルを強く握り、左手がブレーキを引く。バイクが斜めに傾き、まさにジャックナイフのポーズに突入。彼の体が空中に浮き、重力に引かれることなく、間近のヘルドックに向かって滑らかに迫っていく。
「今だ!」僕の声が空気を割る。バイクの流線形を持った曲線が、まるで矢のように魔物の体を貫く
「バキッ!!」(効果音)
「ギヤワーーッ」
「よ、良し!! 上手く言った。」
ぶっつけ本番だったが、上手くヒットしてくれた。実は、ここに来る前に少し練習していたが、岩や木で練習だったので、魔物相手に通用するか少し不安だった……
「大丈夫ですか?」
「あ…はい……あなたは? それに今のは……?」
「えっと…通りすがりのドライバーです。ちなみに、今の攻撃は“ジャックナイフ”という技でして……」
「ド、ドライバー? ジャックナイフ?」
僕はスーパーカブに跨り、目の前の少女を助けるために立ち塞がったが、どうやら彼女はドライバーとジャックナイフを僕の名前だと勘違いしている様子だ。
「いや、今のは忘れてください。とにかく、間に合って良かったです。危ないので、僕の前に出ないようにお願いします。」
「え、はい……でも……」
彼女の顔には不安が浮かんでいる。状況を把握できていないのか、恐怖で体が動かないのか。言葉を返しながらも、動き出す気配はない。
「大丈夫です、落ち着いてください。」
それが一番大切だ。幸いにも、魔法攻撃とジャックナイフで魔物にダメージを与えられた。これなら何とかなると僕は確信した……ならば…
「ハイヒール!!」
僕は、ヘルドックに噛まれたリーダーに近づき、回復魔法“ハイヒール”を唱えた。すると、みるみるうちに傷が癒えていく。
「き、傷が消えていく…!」
「ミラージュさん!! 僕が囮になるので、その隙に皆さんの治療をお願いします。」
リーダーの治療を終えると、僕は彼女に仲間の治療に専念するよう伝え、戦闘に集中することにした。
「で、でも……あなたは……」
彼女の心配する視線が僕に向いている。恐る恐る尋ねていた。
「僕は大丈夫です。それでは、お願いします。」
「ブロロローーーッ!!!」(エンジン音)
「あ…!」
そう言い残し、僕はマシンで魔物に特攻をかけた!!
「行くぞ!!」
とはいえ、先ほどは不意をついて攻撃できたが、今度はそうはいかない……魔物は魔法攻撃を警戒しているのか、攻撃対象が僕に向けられている。
「くっ……て、手強い……!」
最初の攻撃で数を減らせたが、さすがはB級モンスター。油断はできない。ヘルドックは、先ほど装備したバスターソードをひらりと避け、ディープコブラは魔法攻撃の範囲を巧みに外れて間合いを詰める。隙を突かれそうになると、ジリジリと近づいてくる。魔物のクセに賢い……
「なんの!まだまだ!!」
焦りが募るが、それでも少しずつ、確実に迎撃できているのを感じた。
そして…
「これで、ラストだーーっ!!」
「シャーー!!」
最後の魔物、ディープコブラを倒して、討伐は無事完了した。
「はーっ、はーっ……ふぅ…」
「ピローン」(効果音)
「ん? 効果音? なんだろう?」
画面にスキルの新たな情報が表示される。
■スキル
剣技(Lv.1) 魔法操作(Lv.1)
ジャックナイフ(Lv.1)
「新しいスキル?」
「まさか…レベルアップ?」
と思ったが、よく見るとどうやらスキルアップだけで、パラディンのレベルは依然としてレベル1のままだった。残念……。しかし、剣技や魔法操作、さらにはジャックナイフもスキルに追加されたとは。今後の冒険で役立ちそうだけど……。
とりあえず、ステータスの確認は一旦置いて、怪我人がいる場所に移動することにした。
どうやら、パーティーメンバーの治療は無事に完了しているようだ。これで討伐が成功したことに安堵したのも束の間、予想外の反応をされてしまった。
「き、君は何者なんだ……?」
「え? えっと…僕は旅をしている一般人ですが…」
「一般人が無演唱でハイヒールなんて、聞いたことがない!? それに、あの剣の太刀筋も只者ではない!」
「しかも、貴方が乗っているのは一体なんなんですか?」
しまった、スーパーカブを隠すのを忘れていた……しかも、調子に乗って、ジャックナイフナイフまで披露してしまったし……中二病が全快で出てしまった瞬間だった……あ、あ…穴があったら入りたい……
そんな心の声とは裏腹に、リーダーとミラージュによる質問攻めが始まった……どうやら、この世界では魔法を使うには演唱が必要らしい。そして、スーパーカブもこの世界ではあり得ない物のようだ。剣の使い方も身体能力のお陰だし……
やはり、隠し通すことは難しいのかもしれない。このままでは、そのうちボロが出てしまうかも……こうなったら……
「え、えっと…僕は他の大陸から来た旅の者です。故郷では、魔法や剣技が少し特殊でして……旅に出る前にも鍛えてきたんです。それと、僕が乗っているのは趣味で作った魔道具です。」
生前に読んでいたライトノベルの知識をフル活用することにした!
「それにしても…いや、すまない……助けてもらっておいて、詮索ばかりしてしまって……」
彼らの好奇心に押されつつも、いや、何かを察したのだろう……それ以上は詮索はやめてくれた…とりあえず、なんとかその場をしのぐ事は出来たが…
ミラと呼ばれている魔法使いは、もう一つの疑問を投げかけてきた。
「あの……なんで私の名前を知っているのですか?」
そうだった! 緊急事態とはいえ、名前を呼んでいたことをすっかり忘れていた。実は、名前を知っていたのには理由がある。僕の持つスキル「トレース」は、遠くにいると人数程度しか表示されないが、本人の前でトレースすると、詳細な情報が表示される仕組みなのだ。つまり、個人情報がダダ漏れというわけだ。
「いや、皆があなたの名前を呼んでいたのを聞いて…つい…」
「確かに呼んではいましたが、ミラージュの本名ではなく、愛称のミラです。」
「え、えと…そうでしたっけ…何かの間違いでは……」
「誤魔化さないでください!!」
ミラは容赦なく疑問を投げかけてくる。
「ミラ!! いい加減にしろ!!」
「はっ!す、すみません…つい……」
「申し訳ない……彼女は悪気がないのだが、気になることがあるといつもこんな感じでな。改めてだが、私はここのパーティーのリーダー、ラック・スターだ。」
ナイスです! ラックさん!! なんとか誤魔化しきれました。ちなみに、ラックさんもステータスで確認済みである。
「わ、私は……ミラージュ・リニア……です……」
彼女は、まだ腑に落ちないのか、それとも……ラックに怒られたからか……少しオドオドした感じで自己紹介を始めた。綺麗な金髪のロングヘアーで可愛い女の子だが、大きな帽子で顔と髪を隠してしまっている……少し残念だ……
「えっと……カケル・クルマダです。」
とりあえず、僕も自己紹介をすることにした。
「よろしくな、カケル。」
「よ、よろしくお願いします……」
「はい!!」
ラックとミラの挨拶もほどほどに、他のメンバーと、馬車に避難していた依頼人にも軽く挨拶を済ませたが、どうしてこんな事態になったのかを、依頼人とラックたちが説明してくれた。
「お、お!! ありがとうございます。私はトリーシティで商店を営んでおります、レグザ・ジーナスと言います。この度は本当に感謝の念が尽きません……謝礼は町に着いたら必ず!」
「そんな、気にしないでください。たまたま通りかかっただけですから。」
「いえいえ、恩人を蔑ろにするわけにはいきません。どうか……」
ミラに負けず、このレグザ氏もなかなか積極的だ。
「わ、分かりました……とりあえず、その件は後ほど……まずは、この状況をご説明いただければと思います。」
「そうでしたな、分かりました。それでは、ラック殿とミラ殿から説明していただくのがよいでしょう……」
「うむ、我々は、商業ギルドに雇われた冒険者で、王都ジャイロスから物資を護衛していたのだが、先ほど魔物に遭遇してしまった……」
「本来ならこの地域はD級以下の魔物しかいないハズなんです……」
「でもB級に遭遇してしまったと……」
「はい……」
「これは冒険者ギルドに報告しないといけません…」
「そうだな……」
大体の経緯は理解したが…想定以上の魔物が現れるのは、やはりアンチ・エレメンタルの影響? いや、憶測の域だけで判断するのは軽率かな……まだ遭遇もしていないし、とりあえず今回は犠牲者が出なかった事で良しとしよう……
「ところで、カケル殿は、この後どうさらるのですかな?」
レグザ氏が質問をしてきた。
「僕もトリーシティを目指しているので、そこで宿を取ろうかと思っています。」
「なるほど!! それなら我々と一緒に護衛として、ご同行していただけないでしょうか?」
「護衛ですか?」
「はい。街道を抜ければ、トリーシティに着きますが、まだ油断もできません…なので護衛として雇いたいと考えております。もちろん、先ほどの謝礼もいたしますので、いかがでしょうか?」
確かに、危機は去ったけど、まだ油断はできない……遠足も帰宅してまでが遠足とも言うし…
「分かりました。その依頼受けました。」
「おお!! ありがとうございます。」
こうして僕は、臨時ではあるが、警護の依頼を受ける事になった。
その後は、スーパーカブを解除・収納した。
「スーパーカブ……お疲れ様……」
スーパーカブに挨拶を交わした後、ラックやミラ達と同じ馬車に乗り込み同行する事となった。