第38話 魔道具モニター
「それでは、こちらになります」
レグザ氏の隣にいた秘書が、丁寧な所作で二つのアイテムを僕の前へと差し出した。
テーブルに置かれたのは――
光沢のある黒革のブーツ。
そして、細かな装飾が施された漆黒の片手剣。
「これは……ブーツと剣?」
思わず身を乗り出す僕に、レグザ氏が頷く。
「この二つは、少々特殊でしてな。どちらも魔力を使用して発動する《魔道具》になります」
「ま、魔道具!?」
僕とミラージュは同時に声を上げた。
特にミラージュは目を輝かせ、今にも手を伸ばしそうな勢いだ。
「まずはこちら。《ブーストブーツ》です。靴底に魔核を装備することで、履いた者の機動力を三割向上させます」
「三割向上!?」
思わず大声が出てしまった。
三割って……ほぼ別人レベルだ。
「続いてこちら。《バーストソード》。柄に魔核を装備することで、属性効果が付与されます」
「属性?」
「はい。赤い魔核なら炎、青なら水、緑なら風……といった具合に、様々な特性を持つ剣へと変化するようです」
淡々と説明しているが、内容がとんでもない。
『魔道具って、こんなに高性能なのか……?』
気になった僕は、おそるおそる黒い剣を手に取った。
その瞬間――
視界の前に、淡く光るステータスパネルが開いた。
-------------------------------
◆ アイテム情報
■ ブーストブーツ〈ランクA+〉
魔核付与により機動力30%上昇
使用制限なし
※使用後、魔核は消失
■ バーストソード〈ランクA+〉
魔核により属性攻撃が可能
使用制限なし
※使用後、魔核は消失
対応魔核
赤:炎
青:水
緑:風
金:気
---------------------------------
「……アイテムにもトレースできるのか(しかも自動で……)」
思わず息を飲む。
今までは人間のパラメータしか見えなかったのに。
僕のスキル《ステータス》、想像以上に便利かもしれない。
横を見ると、ミラージュもブーツを手に取り、真剣な表情で見つめていた。
「こ、これって……まさか……」
さっきまでの笑顔が嘘のように消え、鋭い視線へと変わる。
「ミラさん?」
「この魔道具を作った人……どんな方ですか?」
秘書が申し訳なさそうに頭を下げる。
「まだ公表前でして、お教えできません」
「そう、ですか……」
ミラージュは一瞬だけ悔しそうに目を伏せた。
ただ事ではない――そんな空気が漂う。
レグザ氏が続ける。
「実は、この二つを試した冒険者がおりましてな。しかし……性能の一割も引き出せず、発動すらしなかったのです」
「発動してない……?」
魔道具の暴走は危険だ。
けれど、それ以前に起動すらできないとなれば――
「おそらく、魔道具と冒険者のスペックが釣り合っていなかったのでしょう」
なるほど……装備が使い手を選ぶタイプか。
ならば――僕に扱える可能性は?
自分で言うのもなんだけど……そこそこレベルは高い。
ただ、暴走したら笑えない。
「一応クライアントの要望で身体耐久魔法が使える方が……」
っと……説明を聞きながら悩んでいると――
「カケルさん、受けてみてもいいと思いますよ」
ミラージュが静かに言った。
「それに、この魔道具……おすすめです。きっと」
根拠は分からないが、妙に説得力がある声だった。
彼女がそこまで言うなら――
「分かりました。この依頼、お受けします」
「おおっ……ありがとうございます!」
こうして僕は、魔道具モニターとして依頼を受けることになった。
結果報告は週に一度、ホームセンター・ジーナスへ。
書類にサインを終え、店を出ようとしたその時――
「カケルさん!!」
「は、はい!?」
突然ミラージュが声を上げ、勢いよく詰め寄ってきた。
「これから時間ありますか!? 急遽、行きたいところができました! 付き合ってください!!」
普段とは違う、どこか焦ったような表情。
僕の手を掴むと、そのまま小走りで引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと!? どこへ!?」
彼女は振り返らずに答えた。
「いいから!!」
――こうして、僕はミラージュに連れられていくのだった。




