第3話 フルドライバー(全力運転)を使いこなせ!
目を開けた瞬間、広がるのは果てしなく続く緑の草原だった。
柔らかな地面が背中に心地よく、穏やかな風が髪を撫でる。聞き慣れない小鳥のさえずりが耳に届き、目を細めて空を見上げると、そこには青く澄んだ空と、ふわりとした白い雲が舞っていた。
「ここは…どこだろう?」
自分の声が風に乗って消えていく。
まるで夢の中にいるような感覚だ。立ち上がろうとすると、体がスムーズに動かず、一瞬戸惑った。見慣れない服装、どこか軽やかな生地。心の奥に不安が広がるが、同時にワクワクする気持ちも湧き上がる。
周りを見渡すと、遠くには小さな山々が連なり、その向こうには煌めく湖が見える。
「異世界、だよね…?」
信じられない気持ちを抱えつつ、何かが自分を引き寄せているように感じた。心の底から冒険心がくすぐられる。この世界には何が待っているのだろうか。ワクワクが止まらない!
僕は、小川のほとりに立ち、水面に映る自分の姿をじっと見つめた。
「へー、これが僕か……」
年齢は13か14歳くらいだろうか?
スリムな体つきに、健康的な肌色、可愛らしい顔立ち。エメラルドブルーの瞳はキラキラと輝き、少し長いサラサラとしたシルバーの髪が光を反射している。
服装は……異世界……っと言うより、前世に近いデザインで、レース中に使用していたレーシングウェアとメカニックが着用していた作業着の中間といった所だろうか……
より動きやすい服装になっている。
見た目には文句なしだが……
「こ……これって……まさか……セリカ様?」
男の子の顔立ちを想定していたはずなのに、まさかセリカ様をベースにした姿だとは思わなかった。こんなにもナルシズム寄りで女の子みたいに仕上がるとは……自分でも驚きだ。
とはいえ、この身体に驚くべき相性の良さを感じる。試しに体を動かしてみた……
「か、体が軽い!」「足も速い!」「腕力も素晴らしい!」
前世の自分では到底得られなかった、信じられないほどの身体能力の高さに目を丸くする。
「ありがとうございます……セリカ様……」
思わず手を合わせて感謝の意を表す。心の奥深くから、彼女への感謝の念が湧き上がる。そして……
「さて、いよいよステータスの確認だ!」
その声には、まるで子供が玩具を手にしたときのような高揚感があふれている。彼は意気込んで腕を前にかざし、大きく息を吸い込み……そして叫んだ。
「ステータス・オン!」
その瞬間、目の前に幻想的な光のパネルが現れた。これが異世界転生の醍醐味、そして楽しみの一つだ。
「お!お!お!」
興味津々でパネルに目を近づけた。
カケル・クルマダ(14)
職業: パラディン Lv.1
生命力: 250
魔法力: 190
攻撃力: 100
防御力: 110
機動力: 95
■属性: 火・水・風・土・光
■攻撃系魔法:
ファイヤーランス(火)
ウォーターショット(水)
ウインドブーム(風)
ガードウォール(土)
スパイラルボルト(光)
■回復系魔法:
ハイヒール(完全回復)
クリアポイズン(毒消し)
ラテラル(麻痺除去)
■スキル:
トレース(読み込み)
マップ(地図)
フィールド(結界)
ゲート
■EXスキル:フルドライバー
■称号:女神の祝福・神々の加護
■アイテムガレージ:
短剣・ナイフ・バスターソード・アックス・レイピア・ポーション×10・賢者のローブ・布・タオル
■所持金:
金100枚・銀300枚・銅500枚
「おお!凄い!凄いけど……これって……強いのかな?」
せっかくもらった能力を覗き込んではみたものの、そのスペックに少し戸惑いを覚える。考えてみれば、この世界での強さの基準が全く分からなかったからだ。
確かに、これがゲームであれば、かなり強い方に分類されるだろうが、異世界フェルミオンワールドではどうなのだろう?思い悩む。
「でも、魔法……は、頼もしい存在だよね。五つの属性を使えるのは大きな武器だし、回復魔法も豊富だから、きっと助けになるはず。」
冷静な分析を装っているが、異世界に来て初めての魔法の力を試したくてたまらない。自分自身を抑えきれず、近くにあった大きな岩を的に定めて、呪文を唱えた。
「ファイヤーランス!!」
その瞬間、大きな炎の槍が生まれ、岩に向かって飛び出していく。「ドッカーン!!」という轟音とともに、岩は炎の矢に刺され、瞬時に爆散した。
「おお!この貫通力と破壊力は……すごい!!」
興奮が冷めやらず、次々と魔法を唱え続けた。
「ウォーターショット!!」
水の塊が複数現れ、ショットガンのように一斉に的を襲った。
「ウインドブーム!!」
風の刃が周囲を切り裂く。
「ガードウォール!!」
目の前に土の壁がそびえ立った。どうやら防御系の魔法のようだ。
「スパイラルボルト!!」
雷が網状に広がり、周囲をバチバチと放電する。
「すっ、すごい……どの魔法も破壊力が果てしない!」
ただ魔法のパワーを試す楽しさに浸っていると、女神セリカの「安全第一」の言葉が頭をよぎった。それが本当に意味するところを実感する瞬間だった。
「本当はスキルや武器も試してみたいけれど…周りには魔物もいないし……うーん、後で試してみることにしよう。」
ひとまず、能力の確認はここまでにして、次のステップに移る。
「次はアイテムと称号だ!!」
セリカ様が言っていた、アイテムガレージという収納スキルがある。
これを使えば大抵の物は収められるとのことだが……。
アイテムリストを開くと、目に飛び込んできたのは!!
■賢者のローブ(物理攻撃・魔法攻撃に耐性あり)
「おお、賢者のローブがある!!!」
興奮しながら内容を確認する。
「物理攻撃にも魔法攻撃にも耐性があるのか……」
その名前は、どこか中二病的でオタク心をくすぐる。これはすぐにでも装備したくなる一品だ!
早速、賢者のローブを選択してみた。
すると、触れた瞬間、白い繊細な生地が指の間を滑り、思わず息を飲んだ。その柔らかさと穏やかなキラキラ輝きは、まるで星の海をまとっているかのようだ。
「か、カッコいい…しかも、着心地も最高……」
思わず見とれてしまう。新たな力を得た感覚に、心が高鳴った。
更に、女神セリカ様から授かった称号・女神の祝福&神々の加護も侮れない!
■女神の祝福
所有者が致命的な攻撃を受けた際、一定の確率で死亡を回避できる。
■神々の加護
様々な神々の力が宿るとされている。火・水・風・土・光・の魔力を底上げする。
「……これ、ほぼ無敵なのでは?」
身体能力や魔法・称号・アイテムなど、既にチートレベルに達しているのではと改めて思ってしまうが、ここで、満足している場合ではない。
なぜなら……
「フッ、フッ、フッ……」
顔が薄ら笑いで浮かべながら……。
「いよいよ、エクストラスキル、フルドライバーだーッツ!!」
歓喜の声が周りをこだました!!
「フルコースで例えるなら、メインディッシュ!! 子供の頃に貰った【世界乗り物図鑑】の感動が再び蘇る!!」
「出でよ!! フルドライバー!!」
頭の中は感動1択のみであった。
そしてパネルに表示されている、フルドライバーの文字に触れた!!
しかし……
「ピローン♪」(効果音)
■EXスキル・フルドライバー
☆ 所有マシン(Lv.1)
スーパーカブ (50cc)
「あれ?えっと…バグかな?1台しかし出てこないや……?」
「と、とりあえず一旦閉じてみようかな……」
しかし…何度もスキルを開け閉めしても表示は変わらなかった……
その瞬間、肘からガクっと脱力感が出てしまい地面にうずくまってしまった……
「……なんで……なんで【カブ】だけなんだよ!!」
今までの、ステータスが絶賛だっただけに、その反動でフルドライバーのスキルに落胆してしまった……その時である!!
「女神セリカで〜す。突然ですが、今カケルさんの見ている【スーパーカブ】をご紹介いたします。」
「セリカサマ……ガンバッテ……」
落ち込んでいるカケルとは別の世界で女神セリカとタマちゃんでマシン紹介が始まった!!
「スーパーカブとは……
1958年に日本のバイクメーカーが、初代モデルを発売して以来、世界中で愛されているロングセラーモデルです。その人気の秘密は、燃費が良い、耐久性が高い、故障しにくい、荷物がたくさん積めるなど、実用性に優れている所です。主に、活躍の場は、郵便局や警察署・出前・デリバリー・新聞配達などなど !! 昭和・平成・令和を駆け抜けた大人気マシンです!!」
「セリカサマ……ノリノリデス……」
などと、タマちゃんのツッコミもありながら解説が終了した……
その頃、カケルは……
「は〜……カブは頑丈だし燃費もいいし、メリットのあるマシンだけど……」
未だに落ち込んでいた。
「だからって、カブだけなんて……確かにLv.1だから低い50ccマシンなのも理解は……ん?……ま、待てよ……」
この時、一つの仮説が頭に浮かんだ。
「もしかしたら、レベルが上がれば……他のマシンも現れる?」
「そうだよ、それなら所有マシンにレベルなんて記載しないはず……」
まだ、可能性の段階だが、一つの答えに行き着いたと、ブツブツ言いながら無理やり自分を納得させた……
「と、とりあえず、召喚してみよう……来い、スーパーカブ!!」
パネルに触れると、魔法陣からマシンが現れた。
「お、お!! 出た!! なんか懐かしいなぁ…」
文句を言いつつも、夢中でマシンを見つめている。
「昔、学生の頃アルバイトでよくお世話になったな〜。」
「これなら、初めは楽勝だな!!」
などと、乗った経験からか……慣れているからか……余裕の笑みを浮かべていた。しかし……この後、思いもよらない事態となる。
EXスキル・フルドライバー
☆ 所有マシン(Lv.1)
■ スーパーカブ (50cc)
❅異世界フェルミオンワールドでは、ガソリン・電気が存在しません。所有者の魔法力がエネルギー源となります。魔法力がゼロになるとマシンも走行不能・消失になるのでご注意ください。
パネルにマニュアルが表示された。
「ふむふむ、なるほど……魔法力の使用には注意しないとな…」
などと、マニュアルもとい説明書を読みながらマシンに跨ってみた。
「まぁ…50ccだし、そんなにパワーはでないかもしれないけど、とりあえず軽く……」
スロットルを軽く回してみた。その瞬間たった!!
「ブロロロロロローッ!!」
「えっ?」
「うおーーーーーッ」
僕は、軽くのつもりでスロットルを回したが、一瞬で風になった。マシンが勢い良く爆走したのである。
「い、息ができない……うぐ……」
その後、記憶が飛んだ……
数分後……
「あれ、?」
気が付くと、地面に寝ている自分がいた……どうやら、バイクから振り落とされ、そのまま気絶してしまったようだ……
「いてて…死ねかと思った……」
「しかし……なんなんだ、このパワー……?」
正直、フルドライバーのスペックを過信していたようだ。まさか、こんなハイパワーな原付きがあるとは思いもしなかった。
「これは、舐めてかかると大変な目に合うかも……だが、僕も前世はF1レーサーたった男!! カブ如きで遅れを取る訳にはいかない!! 乗れるまで付き合ってやる!!」
ここから、スーパーカブ、いや、フルドライバーとの戦いが始まった。
「ブロロロロロロー!!」
「うぉーーーッ!!」
「ブロロロロロロー!!」
「ぐはーーッ!」
スーパーカブを乗っては転びを繰り返した。まるで初めて子供が自転車に乗る練習をしているかの如く擦り傷を作りながら努力した!!
そして、数時間後……
「キキキーーーッ!!」
「はーっはーっ……なんとか、転ばずに走らせる事が、出来た……」
ようやく、まともに動かせるレベルまで到達したが…
「よ、よし……とりあえず、移動しよう……正直もうヘトヘトだよ……」
どうにか、スーパーカブを操る事に成功したものの、流石に体力の限界が近づいていた。
「何処か落ち着ける場所を探さないとな……」
再びカブに乗り、移動を始めた。
「しかし、こんな調子で……大丈夫だろうか?」
今後の行く末に不安を覚える僕であった……