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第21話 紅蓮の魔法少女と影を抱く師

「炎を統べる赤き王よ――我が掌に降り立ち、敵を灰へと変えよ!」


両手を前にかざし、的に向かって呪文を唱えると……


「ファイヤーボール!!」


ボワッ――!


手のひらの前に、真紅の火球が生まれて、ぐるぐると空気を巻き込みながら膨らみ、拳ほどの大きさに育っていき……そして……


「シュート!!」


ドッカーーーン!!


「や、やったーーー!!」


轟音とともに火球は的へ直撃。木製の的は一瞬で爆ぜ、粉々に砕け散りました!!


「見事です、ミラージュ様!!」


ここは、兵士が訓練をする練習場……そこの一角を借りて私は、セナ先生と魔法の訓練をしていました……


「ここ数日で、これだけ威力を上げるとは……正直ビックリです。」


「でへぇへへ……」


魔法を習い始めて、まだ三日ほど。最初は火を出すだけで四苦八苦していたのに――。


「集中だけなら、炎を出すのは可能ですが……それを加えて、呪文……つまり言葉を追加することで、より精度の高いファイヤーボールが完成します。」


「じゃ、じゃぁ……先生!!」


「はい、合格です。」


「や、やったーーー!!ありがとう先生!!」


ギュ!!


私は、嬉しさのあまり……思わず先生を抱きしめてしまいました!!


〈アンには申し訳ないけど、たまには先生を一人占め♪〉


少し調子に乗ってました……でも……


「本当に……凄いです……」


「先生……?」


セナ先生の横顔は、どこか複雑でした。喜んでいるような……けれど、寂しそうな……説明できない感情が滲んでいて。そんな先生を見て……思わず、聞かずにはいられませんでした。


「あの……先生……もしかして……あまり嬉しくないですか?…」


「い、いえ、そんな事はないです!!もしかして、酷い顔をしていましたか?それなら、申し訳ありません!!」


「こちらこそ……ごめんなさい!!先生の顔が淋しいような感じがしたので……」


「…………そうですね……でも……ミラージュ様の言う通りかもしれまそんね……」


「え?」


「今日は、ここまでにしましょう……」


「あ、……先生……」


そう言うと、セナ先生はまるで逃げるようにその場を離れていきました。


「う〜ん……先生……少し疲れているのかな?」


最近……セナ先生の様子が少し変だったように思えました……子供達との魔法教室やお屋敷の料理や掃除など……少なくなったような……


「料理……掃除…………」


「メイドか!!」


などと、先生のスキルにいささか疑問があるものの……やはり、行動に変化があるように思い……代わりに屋敷の警備や近辺のパトロールが多くなったように感じました………


「やっぱり……襲撃が近いのかな……」


この時の私は、襲撃で襲われる恐ろしさよりも……セナ先生との一緒の時間がなくなってくる寂しさが増していました。


廊下を歩きながら、そんな事を……ふと考えていると……


「ダメです!!許可できません!!」


通路の奥から、聞き慣れた先生の声が響いていました。ですが、その声音はいつもの落ち着いた先生ではなく――怒鳴り声……。


「なんでですか!」


「君はまだ戦闘の経験がないでしょう!」


「だからこそ、先生に教わって、少しでも強く――!」


言い争いの声が高ぶり、胸がざわつき……。


「とにかく……この話は終わりです」


そう吐き捨てるように言うと、セナ先生は立ち去っていきました。


「せ、先生っ!」


取り残された声が響き……


〈……なんだろう。やっぱり、先生らしくない〉


違和感を抱えたまま、私は先生を追いかけようと足を踏み出そうとした、その時――!!


「あれ? ミラージュ様……?」


背後から声をかけられて、足を止めたのでした……。


それは……先ほどまで、先生と話していた少年……


「あれ?……リキッド君?」


彼は屋敷の警護兵【リキッド君】……

彼は、現在お父様の護衛をしているお兄さんに憧れて、入隊してきた少年……最年少の13歳で、私と歳も近いので最近よくお話もするようになった友達的な存在です。


「先生と話していたの?」


「はい……でも……その……」


先ほどのやり取りを見ている限りだとあまり良くない状態なのは明らかでしたが……


「何か先生と揉めていたみたいだけど……」


「はい……実は外の巡回もしたくて……先生にアドバイスをもらえたらと話をしたのですが……」


それから詳しい経緯を聞くと散々な結果だったようで……


「う〜ん……やっぱり……何か先生らしくないような……」


……っと言うより、リキッド君には特に厳しいような……他の人達とは違う対応に思えました……


「でも、俺、諦めませんよ!!」


「そ、そうだね!!私も応援するよ。頑張ってね!!」


「え…?」


リキッド君は何故か驚いていました……


「え?……なに?」


「あ、いえ……なんか……ミラージュ様お優しいなって……」


「や、や、優しいって!!」


「今までなら、兵士に……そんなに気に掛けないかなって……そう思っていたので……」


〈カーーーー!!〉(赤面)


「そ、そんな事ないよ!!」


優しいって……そんな事を言われた私は顔が真っ赤になり……


「そ、そう!!みんなが……ダメダメだから、もっと頑張って欲しいって意味だから!!」


変な誤魔化し方をしてしまいました……でも……

確かに以前の私では……兵士……いえ……周りの人間自体に興味が無かったのかも……

でも、盗賊に襲われて……セナ先生に助けられてからは違っていた……

色々な人達の表情や仕草・楽しくお喋りしたり笑ったり……それに、大変だけど一生懸命に頑張って努力する人が、とても素敵だって思い始めて……

怖い思いもしたけど……

もっと早く……その事に気付ければ……よかったのにって……後悔するばかりでした。


「と、とにかく頑張って私達を守ってね、リキッド君!!」


「はい! 頑張ります! では失礼します!」


そう言って、リキッド君は笑顔で去っていきました。


「よし、私も……」


私も廊下を駆け、セナ先生を追いかけるのでした!! 


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