第19話 セナ先生!!
「きゃあああああッ!!」
「だ、誰か! 早く! 警護兵を呼んで!!」
メイドたちの悲鳴が、屋敷中にこだまし、廊下から慌ただしい足音が迫ってくる。
誰もが混乱し、慌てふためく中――私はただ必死でした。
「セフィーちゃん! 絶対に手を離しちゃダメだよ!」
「ミラージュ様……こわい……こわいよぉ……!」
私は――今にもベランダから落ちそうなセフィーちゃんの腕を、全力で掴んでいました。
小さな手は汗で滑りそうになり、私の両腕はすでに限界を迎えつつ……。
それでも……絶対に離せない!!
――事の始まりは、ほんの数十分前。
少し退屈そうなセフィーちゃんのために、屋敷内を案内していました。
最初はおとなしくついてきていたのに――
ほんの一瞬、目を離した隙に……
「セフィーちゃん、危ない!!」
彼女はベランダの手すりによじ登り、そのまま――
「キャーッ!」
バランスを崩し、落ちかけました!
〈パシッ!!〉
咄嗟に飛び込み、その腕を掴み……ですが、それが限界でした。
体重を支えきれず、私の体も半分ベランダから乗り出してしまい――
「でも……このままじゃ私も……!」
遠くに見える地面。
強風が髪を乱し、視界が滲む。
腕が痺れ、もう限界が近い。
それでも――離さない。
「誰か……早く……!」
祈るように叫ぶしかありませんでした……
そして――
「キャーーーーッ!!」
支えていた力がついに尽き、私とセフィーちゃんは宙へと投げ出され……
「ダメ……落ちる……!」
せめて彼女だけでも――!
私はセフィーちゃんを抱きしめ、その衝撃を和らげようと全身で覆い込み……
(ごめんなさい……お父様……お母様……アン……セナさん……)
大切な人たちの顔が、走馬灯のように浮かびました。
――ああ……私、もう――
その瞬間でした!!
〈パシッ!!〉
(……え?)
衝撃が――止まり……
包み込まれるような柔らかな感触と、ふわりとした浮遊感。
「ミラージュ様!!セフィーちゃん!!」
聞き慣れた、少し乱暴な声。
「え……な、なに……?」
「大丈夫ですか!? ケガは!? どこか痛くないですか!」
「セ、セナさん……!?」
私を抱きとめていたのは――あのセナさんでした。
しかも、その足元には見たことのない奇妙な乗り物。
馬車の車輪を二つ縦に並べたような……魔道具? いや、それにしても異様で……
混乱する私をよそに、セナさんは――
「ペタペタペタペタペタ……」
「へっ?」
私の体を……手のひらで隅々まで触ってる!?
「ひぃ~!! ちょ、ちょっと……セナさん!? な、なにしてるんですか!?」
「何って、ケガの確認ですよ! もし骨でも折れてたら大変でしょ!」
〈や、やめて~~~ッ!〉
「しぇ、しぇなしぇんしぇい(セナ先生)……」
セフィーちゃんも触診され、落ちた恐怖からパニック寸前。プルプル震えて声にならないようです。
「よし……二人とも異常なし。……はぁ、本当に良かった……」
その瞬間、セフィーちゃんは感情が切れたように――
「うわぁぁぁん!!」と大泣きしました。
「セフィーちゃん、怪我がなくて本当に良かった。でもベランダで遊ぶのは危ないですよ」
「先生……ヒック……ごめんなさい……」
口調がすっかり優しくなり、頭をなでるセナさん。
……でも、私にはわかる。
(……女性として…女の子として扱ってない……)
「セフィーちゃん、もう泣かないで……」
なでなでなでなで……。
「いい子いい子……」
泣きじゃくるセフィーちゃんは次第に落ち着き、「ありがとう先生!」と笑顔で友達のもとへ。
その姿を見て――私は少しムスッとしました。
(なによ……私だって助けたのに……扱いが雑すぎない?)
そんなふてくされモードの私に――
「ミラージュ様……」
「ん?」
テョイテョイ……と手招きするセナさん。つられて……近づくと……
「えい!!」
ヒョイ!!
「きゃっ!?」
次の瞬間、強引にお姫様抱っこされ、中庭のベンチに座らされ……顔が近づき……
(え、え、え!? これってもしかして――キス!?)
心臓が暴走する中――すると……
なでなでなでなで……。
「……???」
膝枕の体勢になり、頭を子猫のように撫でられました。
「あ、あの……セ、セナさん?こ、これは……?」
「ミラージュお嬢様、ほんと頑張りましたね……」
「そ、そう……ですか? えっと……ありがとうございます……?」
(……セフィーちゃんばかりズルいって思ってたけど……この状況は……はわわ!)
状況がよくわからないまま……真っ赤になりながらも、なすがままにされる私……でもこの時、ふと思いついた事がありました………
「あ、あの……私的には……撫でられるだけでは、足りないです……」
「足りないですか?」
「は、はい……」
「撫でる以上のご褒美……う〜ん……」
「……えっと……撫でる代わりに魔法を教えてくれませんか!」
「!!!」
「子供たちは皆スキルを見つけて頑張ってるから……私も何か出来るようになりたいんです」
そう――私が今欲しいのは、自分を守れるチカラ。
もしスキルや能力があれば……セフィーちゃんを自分で助けられたかもしれない。
そして、セナさんの力にもなれるかもしれない――
守られている私ではなく……戦える……守れるチカラ……
これは……本心……胸の奥深く……心からそう思ったのです……
「ご指導のほど、宜しくお願いします!!セナ先生!!」
これは……私の新しい道が誕生する瞬間でした!!