第13話 パニック症候群
パニック症候群とは……
突然、激しい不安や恐怖に襲われる病気で、多くの場合「死んでしまうのでは」「このままおかしくなるのでは」というような強い恐怖感と一緒に、体にもさまざまな症状が現れる。
発作のトリガーも様々で、事故・暴力・病気・死別・などがあるが……全てにおいて共通している点がある。
それは……心に大きな精神的ダメージを受けてしまう事だ……
僕が前世で、レーサーになってから1年くらいだろうか……
当時、フォーミュラレーシングの登竜門【F3】と呼ばれるレースに参戦していた……
この時の僕もレースでは、好成績を残し【F1】デビューも間違いないと噂されていた……そんな中、僕と同成績を叩き出したレーサーがいた。
彼は、僕の所属している、セカンドチームのドライバーだ……
気のいい奴で、何より負けず嫌いな性格、一緒のレースの時はよくバトルを繰り広げた。
それでも、僕が年輩者と言う事もあり、よくアドバイスをしたり、一緒に食事などして……割と仲の良い仲間だった事を思い出す。彼となら……きっと良きライバルになってくれるだろうと思っていた……
しかし……
F3決勝戦……そこで、悲劇が起こった……
レースも終盤、ストレートに入りその先の最終コーナー……そこで、敵対チームを抜きゴールすれば優勝。
まさにクライマックスだ!!
だが……彼には焦りがあったのか……全然落ち着きがない……走りを見れば一目瞭然だ……僕はピットのモニターを見ながら嫌な予感しか感じられなかった……
そして、その予感は的中してしまった……
〈キキーーッ!!ガッシャーン!!〉
マシンは、ストレートでスピードを出しすぎ……コーナーを曲がりきれず、そのままクラッシュしてしまった……マシンはほぼ大破、ドライバーだった彼も全身を強く打ってしまい意識不明の重体に……幸いにも一命は取り留めたが……
1年後……
「おい!! レーサーを辞めるって……どいう言う事だ!!」
「カケルさん…………すみません……」
彼はレーサーを引退すると言い出したのだ!! だが僕は納得いかず説得を続けた……
「なぁ……レース復帰の為にリハビリを頑張ってきたんだろ!!体だってほら…前ほどではないにしろ、かなり回復して問題はないハズだ!!」
そうだ!!事故から1年……懸命なリハビリをしていたのは、僕も知っていた……だからこそ、彼には辞めてほしくなかった……
「体は……確かにそうですね……」
「だろう!!なぁ……考え直さないか?」
「……カケルさんは、恐怖を知っていますか?」
「恐怖?」
突然、彼は何を言い出すのか………僕に質問を問い詰めてきた……
「僕もリハビリで完治した体なら復帰ができると思っていました……」
「なら!!」
「でも……そうではなかった……コックピットに座った瞬間……頭の中に悲鳴が聞こえてきたんです。」
「ひ、悲鳴……」
「恐怖……なんですかね……急に恐ろしくなって……目の前がグルグル回って……スタッフは、僕が悲鳴を上げてすぐに気絶したと言っていました……」
「お前……何を言っているんだ……」
僕は彼がそんな状態になっているとは思いもよらなかった……
彼の話では、精密検査もしたが身体は特に異常は見られなかったそうだ……
つまり……事故を起こした時の恐怖がトラウマとして残り……同じ状況になった際、スイッチが入ったかのようにフラッシュバックする……
結局…様々な療法を取ったが、克服できなかったそうだ……
最後は、レースに戻ってくる事はなく
、ドライバーとしての人生を終わらせてしまった……
これが……パニック障害の正体なのだ……
日本の現代医学では、薬物療法やカウンセラーなどもあるが、彼には通用しなかった……
それに……この異世界では、話を聞く限り治療法は、恐らく獲得していない……
加えて、時間が経過するほど完治の確率が低くなる難しい病気だ。
彼女は……ミラは、1年どころか……10年近く経過している……
正直……絶望的だ。
僕は、医者でもなければカウンセラーでもない……ただのドライバーだ……
僕では治す術を知らない……
〈何か……方法は無いのか……打開策が思いつかない……せめて、セナの事が分かれば……〉
そう……今までの節々にも【セナ】が登場している……ミラやラックが探している彼なら……いや、例え、セナの事が分かっても可能性は……ほとんどゼロかもしれない……だけど……
「ミラさん、セナの事を教えてほしい……」
「え?……」
「分かる範囲で構いので……」
僕は、藁にも縋る気持ちで、ミラにセナの事を問い詰めてみた……