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第11話 音速の貴公子

私は、大臣ジョージ・リニア様の護衛騎士【ラックス・ジョースター】……

ミラ……いや……ミラージュお嬢様はジョージ様の御息女になる……

っと言っても、今は、騎士ではなく、ミラージュお嬢様の護衛をしている、ただの冒険者だがな……


「護衛騎士……ラックス・ジョースター……」


「今まで隠していて済まない……色々と訳ありでな……」


「ラックさん……では、ラック・スターと言う名前は……」


「ああ……素性を隠す為の偽名だ。単に略しただけだがな…俺のスキル【隠密】で隠していた……」


「スキル?…お、隠密……?」


「俺は、スキル持ちで……この能力を見込まれ、護衛騎士としてスカウトされたんだ……クラスもA級だ……」


そんな、能力があったとは……しかもAクラス……僕は初めて見る上位ランカーに驚愕した……

後で知ることになるが……スキル持ちとは…この世界では特殊な能力とされていて、A級以上の冒険者にしか確認ができていないらしい……故に神からの贈り物【ギフト】などとも呼ぼれているそうだ……


「まぁ……戦闘能力までは誤魔化せくてな……戦士としてはCランクだな……」


ラックは、バツの悪い顔で話してくれた……


「しかし……そんな人がなぜ……冒険者を……ミラさんを守っているのですか………大臣の御息女なら……その…貴族ですよね?」


僕はラックに問いかけてみると……


「そうだな……それを踏まえて、そろそろ本題に入るか……だがその前に……カケル殿……」


ラックは僕に改めて聞いてきた。


「先ほども話したが……聞いたら最後、君は責任を負わなければならい。その覚悟はあるか!?」


「覚悟……ですか。」


正直、聞くのが怖くない……っと言うのも嘘だ。彼女は……ミラは……どんな深い闇を持っているのか……聞くのが怖いくらいだ……


だが……彼女を見放したくない……見て見ぬふりもしたくない。なんでこんな気持ちになるのか? 僕自身、不思議でならない。

余程のお人好しなのか馬鹿なのか……

いや……違う……ミラのあの優しい顔をまた見てみたい……ただ……それだけだ……


「ラックさん、そんなの今更ですよ……僕はミラさんの笑顔が見たいだけです!!」


「フッ…そんな顔もするんだな君は……」


そんなセリフを吐いた僕をみて、ラックは少し羨ましそうだった……


そして……ついに語り始めた……ミラの過去を……


「俺とミラージュお嬢様は……ある冒険者を探している。」


「ある冒険者?」


「ああ……それを説明するには……十年前にさかのぼる……あの夜のことを――俺は、今でも忘れられない」


そう語るのは、王都ジャイロスの大臣ジョージ・リニアに仕える若き騎士、ラックス・ジョースター。彼が今、ふと過去を振り返る。


「当時、まだ19歳だった私は、大臣ジョージ様の護衛として、魔法都市ハーミットレインへ向かっていた。各国の魔導士や貴族たちが一堂に会する重要な会合だ。副団長の任に就いていたが、まだ若輩者の私は……責任の重さを肌で感じていた。」


だがその裏で、王都ではもうひとつの出来事が進行していた。それは……女王セシリーの娘、セラ姫の……2歳の誕生日パーティーだ。本来は、コチラも大事な行事なのだが……


大臣であるジョージは、会合を選択し、ラックスは命令でジョージの護衛として共に旅立った……

誕生日パーティーには、代わりに10人もの護衛兵士と妻のセレーヌ。

そして……当時8歳だった娘のミラージュが王宮へ向かうこととなった。


パーティーは盛大に催され、王都の貴族たちがこぞって祝いの言葉を贈る。


だが、災厄はその帰り道に待ち受けていた。


カキーーン!!


「ぐっはっ!!」


「くっ、なんて数だ……!? 野盗、三十……いや、それ以上か!」


雨の中……警護に当たっていた十人ほどの兵士たちは応戦するも、数と奇襲に押され、次々に倒れていく。剣戟の音、怒号、血の匂い。混乱の中、馬車に取り残されたセレーヌとミラージュ。


「ミラージュ、下がっていて!」


「お、お母さま……怖いよ……」


母セレーヌは剣を構える。その目は母であると同時に、リニア家の誇り高き令夫人のそれだった。


だが――。


「う……ッ!」


扉をこじ開けた盗賊の一人に斬りかかるも、その攻撃は一瞬の隙を突かれ、逆にセレーヌの腹部を切り裂いた。悲鳴とともに血飛沫が舞う。


「お母さまっ!!」


泣き叫ぶミラージュ。恐怖と悲しみで脚が動かない。そんな彼女に、盗賊の手が伸びる。


「ひゃっ……い、痛い!! や、やめて……」


銀髪の綺麗なロングヘアーを乱暴に掴まれ、引きずり出されるミラージュ。必死に抵抗するも、まだ幼い彼女に為す術はなかった。


「暴れるな!! このガキ!!」


バキ゚ッ!!


「あぐっ……」


やがて野盗の拳が彼女を襲い――意識が闇に沈んでいく。もはや、絶体絶命の瞬間だった……


だが……その時である……。


ブシャーーーッ!!


「ギャーーッ!!」


「な、何!?……誰だッ!?」


突如、黒い影が宙を舞った。


全身を黒いマントに包んだ謎の人物。気づけば、盗賊の一人が空中で肉片となって崩れ落ちていた。


「たった一人だと!? 怯むな!! やっちまえ!!」


盗賊たちが一斉に襲いかかる。

しかし……それが彼らの最期だった。


剣か、魔法か。それすら判別できないほどの速さと力で、次々と斃れていく盗賊たち。わずか数十秒で、三十を超える野盗の軍勢が殲滅されていた。


そして……


黒衣の冒険者は、倒れた兵士たち、血を流すセレーヌ、そして殴られ怪我をしたミラージュへと手をかざす。


その瞬間……大きな魔法陣が広がり、そして……淡い光がその掌から溢れた――。

すると、瀕死だった母親セレーヌと既に死亡していたと思われていた兵士達……そして……怪我をしたミラージュが……


「あ……れ……? 痛く……ない……?……なんで……?」


ミラージュが目を覚ました時、そこには優しい微笑みを浮かべる“黒衣の冒険者”がいた。


そして……何事もなかったかのように、全員の傷が癒えたのである……


あの夜、リニア家は、確かに“奇跡”によって救われた瞬間だった……。


僕は、この話を、聞いて唖然としてしまった……一瞬で野盗数十人を殲滅し、ミラやその母親……しかも負傷した兵士達を瞬時に回復させるなんて……僕では……到底できる芸当では無い……正直その冒険者は化け物かとも思った……


しかも……話はそれだけでは終わらなかった。


その冒険者は、こう告げたのだ。


「――次の襲撃がある」と。


そして数日後、彼の予言通り、盗賊たちは再びリニア邸を襲撃した。


だが――彼はその襲撃すら完璧に防ぎきった。圧倒的な力で敵を蹴散らし、最後の戦いの夜に勝利を収め、そして……姿を消した。


まるで幻のように。


……その後、ミラは恐怖に囚われた。あの時、野盗に殴られた恐怖心からか……人、特に男性を前にすると怯えるようになってしまったのだ。


それでも、数年が掛かったが、彼女は必死にリハビリを繰り返し、ようやく笑顔を取り戻した……。しかし、完治したわけではなかったらしい。


「……そんな事が……」


やはり原因はあの盗賊に違いない。小さな女の子を殴るなんて……どれだけ前の出来事でも、怒りが込み上げてくる……。


「後日、大臣と俺がリニア邸に着いたのは、その冒険者が姿を消して数日後のことだ……これが、俺の知っている全てだ……」


話し終えたラックの表情は複雑だった。糸口の見えない苦渋の選択……。笑顔を取り戻していたミラに、突然の発作……動揺と苦しみ、そして……後悔を抑えられないのだろう……

自分ではどうすることのできない悔しさ……だから、それほど僕に期待しているのか、それとも……(ワラ)にもすがる思いなのか。


そこまで話してくれたラックの期待に、僕は応えなければならない。


「ラックさん……ミラさんを襲った野盗に、心当たりはありますか?」


僕は改めて尋ねた。


「いや……当時の野盗の生き残りを尋問したが、誰も口を割らなかった……」


「そう……ですか……」


「ただ、あの冒険者の名前だけは当時の兵士から聞いていたな……名は、確か……セナ……」


「セ、セナ……!? だって……!」


「カ、カケル殿!?」


その名を聞いて、僕は言葉を失った。セナ……あの名前……アイルトン・セナ……! 前世で実在した伝説のF1レーサー……。


数々の伝説を残し、F1界に名を刻んだ【音速の貴公子】。レーサーをしていて、彼を知らないなんてありえない!!


「ラックさん! 本当にその冒険者はセナと名乗ったんですね!?」


興奮のあまり、僕はラックを問い詰めてしまった。


「あ、ああ。間違いない。だが、どうしたんだ急に!? ま、まさか……!」


「はっ……し、しまった……」


つい著名人の名を聞いて、我を忘れてしまった……。


「カケル殿……もしや、心当たりがあるのか……?」


ラックも興奮気味に詰め寄ってくる。だが……僕の知っている【セナ】は冒険者ではない。F1レーサーだ。こんな事、説明できるわけがない……!


前世の有名ドライバーだったなんて……どう語れば……。


そんなことを考えていると――それを聞いていたのはラックだけではなかった。


「ほ、本当なんですか……?」


かすれた声が、横から聞こえてきた。今にも崩れそうな……衰弱しきった声が……。それでもすぐに分かった。――その声の主が。


「ミ、ミラさん……!」


僕とラックは話に夢中で、彼女が近づいていたことに気づかなかったのだ――。


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