第10話 偽りの冒険者
ギルドとは……
冒険、商業、または特定の技能や職業に関連した場所であり、例えば冒険者がクエストを受けたり、仲間を募るための拠点となる。
ギルドには多くの会員が存在し、メンバーは共通の目的に向かって協力し合う。また、メンバー同士は「クエスト」や「ミッション」を提供することが一般的で、これらの活動からはお金や経験値、アイテムなどの報酬を得ることができる。
さらに、ギルド内では情報が頻繁に共有され、メンバー同士が助け合ったり情報交換を行うことで、成長を促している。
簡潔に言えば、ギルドとは人々が共通の目的を持って集い、協力しながら活動するための組織や施設なのだ。
しかし、冒険者もまた人間であり、ルールを破る者も少なくない。
良心的でない者や、協調性を欠く者も存在する。
その典型的な例が先ほどのインプだ。
僕は、嫌がるミラを助けようとインプの腕を掴み、骨を粉々に砕いた。
さらに、壁に投げ飛ばし、最後に腹を蹴り飛ばして気絶させてしまった。
思い返せば、これはあくまでライトノベルやRPGゲームの知識から来る行動だったが、少なくとも間違いではないだろう。まあ、インプをボコボコにしたことで、僕もルールを破った側かもしれない。出禁も覚悟したが、ミラを守れたのだから、これで良かったと思っている。
ところが、これから予想だにしない事が起こる事となる!!
「ミラさん、大丈夫ですか?」
「………………なさい……」
「???……ミラさん?……」
「…………………いや……」
ミラは床に崩れ落ちており、その表情は明らかにおかしい。さっきインプに腕を掴まれた時、どこか怪我でもしたのだろうか?
もしそうなら、回復魔法を使わなければ…。
心配になった僕は、ミラに触れようとしたその瞬間…
「いやーーーーーッ!!」
バシッ!!
ミラは悲鳴を上げ、拒絶するかのように僕の手を叩いた。
「ミ、ミラさん……」
「ごめんなさい、ごめんなさい…………」
「どうしたのですか、ミラさん!!」
「叩かないで、お願い……ごめんなさい……」
「なんなんだ……これ……」
彼女の怯えようは尋常ではない。もはや、僕の声も届かないようだ。
周囲も何が起こっているのかわからず、人が集まり始め、ざわざわとした雰囲気が漂い始める。
「ミラ!!」
「ミラさん!!」
その時、騒ぎに気づいたラックとカリーナが、ミラの元に駆けつけた。
「ミラ!! 俺だ!! ラックだ!!」
「…………ラ、ラックさん?」
「もう大丈夫だ……安心しろ……」
「ラック……さ……ん……」
ラックに気づいた瞬間、緊張の糸が切れたのか、ミラはそのまま気絶してしまった。
ラックは気絶した彼女を抱きかかえ、言った。
「カケル殿……すまないが、俺はこれで失礼する……ミラを医師に見せたい……」
状況を把握したラックは、ミラを抱えたままその場を去ろうとしたが ……
「なら、僕も行きます。」
「しかし、君はまだ……」
「この状況になったのも、僕が原因かもしれません……」
「カケル殿……」
「お願いします!!」
僕は頭を下げ、懇願した。
「…………分かった……ならついてこい!!」
「は、はい!! ありがとうございます。カリーナさん……申し訳ありませんが……」
「え?…あ、は、はい……今はミラさんの容体が最優先です。後のことは任せてください。」
カリーナは周囲の状況を見て理解したのか、ラックとの同行を許可してくれた。
ラックも一瞬僕を睨み付けたが、最終的には同行を認められ、その後ギルドを後にした。
宿屋【旅人の宿り木】
僕たちはギルドを離れ、ラックたちが宿泊している宿に着いた。2階の部屋にミラを寝かせてから、約30分が経った。ラックが連れてきた医師も到着し、僕は宿の広場の椅子に座り、待つことにした。
「なんなんだ……あのミラさんの変貌……」
僕は考えていた。急な混乱や発狂……前世でも精神的に壊れている人物を見かけたことはあった。しかし、彼女の場合、元からそうだったとは思えない。突発的な発作のような状態だった。でなければ、馬車で優しく接してくれた彼女は存在しないはずだ。
「発作……混乱……発狂……もしかしたら……」
考えを巡らせるうちに、彼女の発作の原因が分かったかもしれないと思い始めた。だが、それでも情報は不足している。ラックたちから詳しく聞けたらと思うが、第三者の僕に話してくれる保証はない。そう考えていると、ラックが階段を降りて、僕の元へ近づいてきた。
「すまない……待たせてしまったな……」
「いいえ……それで……ミラさんは?」
「大丈夫だ。医師の話では、ストレスから来た軽い発作だそうだ。今は目を覚まして、医師と話をしている。」
安心した僕は、ホッと胸を撫で下ろす。
その瞬間、思わず言葉が口をついて出た。
「大変申し訳ありませんでした!!」
僕は深々と頭を下げて謝罪した。
「カ、カケル殿!?」
「僕の軽率な行動が……ミラさんにあんなことが起きてしまって……」
「カケル殿……頭を上げてくれ。先ほど、ギルドの関係者が来てくれてな、君がミラを助けてくれたことは聞いている。だから、君に非は無い。」
「でも……」
「ありがとう。君がいなければ、もっと酷い状態になっていたかもしれない。」
ラックは逆に僕に頭を下げた。
「や、やめてください……」
「本来は、俺が彼女を守らなければならない立場なのに……情けない……もし非があるとすれば、それは俺だろうな。」
「ラックさん……」
ラックは、自らの不甲斐なさを嘆きながら、後悔の念に囚われている様子だった。
「そうだ……ここの宿は食堂も兼ねていてな、ここの食事は美味しいんだ。すぐに用意させるから、楽しみにしていてくれ。先ほども言ったが、俺のおごりだから安心してくれ!」
ラックは、僕の気持ちを気遣ってくれたのか、お礼のつもりなのか、食事に招待してくれた。
しかし……
「あの……ラックさん……食事の前に、少し確認したいことがあります。」
「なんだね?俺で答えられることなら、何でも聞いてみてくれ。」
彼を見つめながら、思い切って問い詰めた。
「ラックさん……あなたは、何者ですか?」
「何!!」
驚きを隠せないラックの反応を見て、私は続けた。
「あなたは、他の冒険者たちとは違って、ミラさんに過保護なように思います。馬車の移動中も常に彼女の傍にいて、戦闘中も彼女を気にかけている素振りが見られました……」
その言葉に、彼の表情は一瞬硬直した。しかし、すぐに沈黙が訪れた。
「もしかして、あなたはミラさんの近親者、もしくはそれに近い関係の方なのではないですか?」
僕の推測は、あくまで仮説の域を出ない。しかし、今までの彼らの行動を振り返ると、信頼し合っている関係に思えてならない……兄妹か、あるいは恋人? その想像をすると、全てが繋がるような気がした。
もしそうであれば、ミラの発作の糸口を掴むためには、彼らの正体を知ることが必要だ。僕は必死でラックに語りかけた。
「僕は、ミラさんの症状について心当たりがあります。でも、それを解決するためには情報が足りません……」
「な、何!!!」
彼の驚愕を目の当たりにし、さらに続けた。
「そのためにも……あなたたちのことを教えてもらえませんか?」
ラックは一瞬を置いて、静かに息を吐いた。
「…………なるほどな……分かった。君になら話しても良いだろう。」
「ラックさん……」
「ただし、このことは他言無用に頼む。」
「もちろんです!!」
これまで何も語らなかったラックが、一歩踏み出してくれた。その表情には、決意と少しの不安が混ざり合っていた。
「俺は……王都ジャイロスの大臣、ジョージ・リニア様の護衛騎士として仕えている【ラックス・ジョースター】だ。」
「お、王都ジャイロスの大臣……ラックス・ジョースター……」
予想はしていたが、まさか王国の護衛兵という身分の人が目の前にいるとは驚愕だ。しかも、彼のステータスには確かに【ラック・スター】と記されていたのに、一体どういうことなのか?
その実態を知って困惑する僕には、次の言葉が待っていた。
「おそらく、君には真実を知る資格がある。だが、それに対する責任も負わなければならない。」
彼の言葉から、ミラの秘密に近づく予感がした。