処理
深夜
建物の屋根の上に腰かけ、腕に仕込んだスリングショットに弾を装填する
標的は向かいの建物2階、窓際のベッド
長い夜更かしを終えてようやく就寝したようだが、厄介なことに女が1人同じベッドにいる
『二元素』の三級魔術師、魔法適性は火と風
火の元素生成、炎の混合魔法が使用できるため、真っ向から対峙するのは得策ではない
とはいえ男に覆いかぶさるように寝ているため、無視することもできなさそうだ
そして標的の男
「……男性への軽度思考阻害、認識阻害能力、女性への認識改変能力、身体強化能力、反応速度加速能力、軽度回復能力、各種魔法適正あり……」
調査資料の記載事項を確認してゆく
「……スキル『眷属召喚』」
眷属召喚
手をかざして特定の呪文を詠唱することで、任意の異能を持った人型個体を生成する
数の上限、能力の上限は無制限
これまでに確認された個体は4種
①天使を模した個体
飛行能力、物体切断能力、金属に似た羽を射出する能力
②獣人を模した個体
物体切断能力、周辺5キロ程度の索敵能力
③人間を模した個体
1~2秒で触れた個所を消滅させる能力、物体精製能力
④人間を模した個体
高度回復能力
何でもあり、という訳だ
ただ幸いなのは、スキルが任意発動と思しき点
ONとOFFを自分で操作する、ということは、就寝中のような無意識下では意味を成さない力であるということ
「……行こう」
立ち上がり、再度手持ちの装備を確認する
右腕のスリングショット、中型剣一振り、ベルトに仕込んだ投擲鋲6つ、小型ナイフ2、大型ナイフ1、鞘に仕込んだ毒液、煙幕弾1
問題ない
大型ナイフに毒を塗布し、抜き身のまま右手に握る
同様に左手には毒を塗布した小型ナイフを一振り
屋根の淵まで下がり、助走距離を確保する
毎度のことだがチャンスは一度きり
必ずここで処理しなければならない
屋根を走り、跳躍、標的のいる2階の窓に飛び込んだ
窓枠が吹っ飛び、砕けた硝子が宙に舞う
飛び込んだ勢いで女を蹴り飛ばし、男の腹に大型ナイフを突き立ててブレーキをかけ、ベッドに着地
音と痛みで目を覚ました男の喉を小型のナイフで裂き、声と呼吸を封じる
思考する暇を与えないまま、右手で抜剣、断頭
男の頭を窓の外に捨て、首のなくなった身体の心臓に小型のナイフを突き立てた
「……ッ!!貴様!!!」
床に転がり落ちて呻いていた女が、こちらに顔を向けて叫ぶ
室内で魔法を打たれると厄介だ
煙幕弾を投擲、窓から捨てた男の頭目掛けて飛び降り、勢いを利用して着地と同時に剣を頭に貫通させる
剣が頭蓋を砕き、脳は完全に破壊された
ひとまず処理は完了
あとは逃走するだけが……
刹那、俺の隣に裸の女が飛び降りてきた
先程の蹴りであばらを折った筈だが、想像以上に気骨があるようだ
「『炎弾』!!!」
こちらに向けた彼女の手掌に、眩い紅の魔法陣が浮かび上がる
炎弾
火と風の混合魔法
炎の塊を手掌から射出、着弾と同時に対象を炎で包み即座に焼失させる
着弾までの距離に応じて威力は減衰するが、これだけの至近距離、当たれば1秒も経たずに消し炭にされるだろう
当たれば、の話だが
「『開』」
女の手から炎弾が放たれる前に地面に手をつき、彼女の足元に魔法陣を出現させる
刹那、さながら地面に大穴が開いたかのように、彼女の体は魔法陣の中に向かって落下を始めた
「何―――?!」
バランスを崩した女の手から、形成されかけた炎弾が空の彼方に向かって飛んで行く
「悪いな」
女の身体が完全に消えると同時に、俺は魔法陣を跡形もなく消し去った