取材旅行への誘い
それから一週間後、夏休みを目前に控えた日曜日の午後、たかしの家に二人のお客があった。たかしのおじさんと編集部の柳さんである。
今度、雑誌「ティーンズ・ショーンズ」の編集部で、ある島のことを調査するために取材旅行に行くというのだ。そこには、ティーンズ・ショーンズが住んでいたらしという情報もあるので、時期的にも夏休みだし、たかしも一緒に行かないかという誘いの話だった。
たかしのあまりの熱狂ぶりに柳さんが声をかけてくれたらしいのだ。たかしは一も二もなく「行きます」と返事をした。
しかし、たかしの両親は、不安を隠しきれず、
「柳さんのお仕事の邪魔になるのでは」
「今まで一人でよそに泊まったことがないから」
とあまり乗り気ではなかった。
たかしは一生懸命、両親を説得した。おじさんも「こんなチャンスはめったにないから」と後押しをしてくれた。
たかしの必死さに、おかあさんはだいぶ心が傾きかけた。しかし最後までおとうさんは許可を出してくれなかった。
「柳さん。今日は本当にありがとうございます。たかしにこんないい機会を与えてくださって、とても感謝しています。
しかし、今日、結論を出すのは早すぎるように思います。もう少し考える時間をいただいてよろしいでしょうか。二、三日後にこちらから連絡させていただきます」
その日は結局それで話は終わった。
たかしは不満でならなかった。その夜はおとうさんとは口も利かず、自分の部屋に閉じこもった。
夜が更けても居間の電気は遅くまでついており、たかしの旅行について両親の話し合いは続いた。
翌日の夜、たかしはおとうさんに呼ばれ、ソファに座った。
「たかし。おまえはなぜ取材旅行に行きたいんだ?」
「なぜって。そりゃあ、ティーンズ・ショーンズが住んでいたかもしれない島だよ。ティーンズ・ショーンズのことをもっと知れるし、もしかしたら……」
「会えるかもしれない……か」
「うん。そんなに簡単に会えるとは思っていないけど。だけど、どんな人なのか知りたいんだ」
「しかし、たかし。柳さんたちは仕事で取材に行くんだ。いつもおまえのペースに合わせられるとは限らない。
こんなことなら、おまえをもっと一人旅に出しておくんだったな。かあさんにいつも頼っているおまえが、大人の中でやっていけるか心配だよ」
「大丈夫だよ、おとうさん。そんなこと言ってるから、いつも僕が一人じゃ何もできなくなるんだよ。今回はいいチャンスじゃないか。ねぇ、おかあさん。おかあさんなら賛成してくれるよね」
哀願するような顔で、おかあさんの方を向いた。
「そうねぇ。またとないチャンスであることには間違いないけれど、その島がどんな所かもわからないしねぇ」
「なんだよ。いつものおかあさんらしくないじゃん。何でもやってみないとわからない。『あたってくだけろよ』なんて言ってるじゃない」
「たかし。なぜ、柳さんはおまえに声をかけてくれたんだろう。自分ではどう思う?」
お父さんが、真剣な顔でたずねた。
「なぜって…。そりゃあ、ぼくがティーンズ・ショーンズに夢中になって、おじさんや柳さんのところまで話を聞きに行ったりしたからじゃないかな」
「それだけかな。おとうさんなら正直言って、仕事に小学生を連れていきたいとはあまり思わないけどな。
とにかく大人の仕事に同行するってことは、おまえが考えている以上に大変だってことだ。
おまえが行くことで、柳さんの仕事に差し支えがでるんじゃないかと心配してるんだよ、それにほかの方だって一緒にいくんだろ」
「そうねぇ。たかしは一人っ子だからすぐに人に頼るところもあるし。スタッフの方の足をひっぱることになるとねぇ」
いつもは決断が速く、歯切れのいいしゃべり方をするおかあさんまでもが、なんだか頼りない。しばらく居間に沈黙が続いた。
たかしは、雲行きがあやしくなった今回の話し合いに、取材旅行がだんだん遠のいて行くような絶望感を感じ始めていた。
その時、下を向いて考えていたおとうさんが顔を上げ、たかしの方を向いた。
「たかし。おまえ、どうしても行きたいか?」
「うん」
それ以上しゃべると涙がこぼれそうだった。
「行くって決めたら、途中で帰りたいなんて絶対に言えないんだぞ。
それから、自分のことは自分でする。柳さんの仕事の邪魔になるようなことはしない。
そして、どうせ行くのならティーンズ・ショーンズのことをいっぱい聞いて、どんな人だったかということを、しっかり見てこい」
たかしの心臓は爆発しそうな勢いで打ち始めた。