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ティーンズ・ショーンズ〜光の人〜  作者: わたなべみゆき
17/19

別離

 たかしは帰ってくるなり、坂元のおばさんのことが気になり、岡村に電話した。しかし、岡村の家は留守だった。

 気になったたかしは、夜になり再び電話をかけた。岡村のお母さんがでた。

「慎吾は、親戚の家に遊びに行っていないのよ」

「え、いつ帰りますか?」

「あさって帰ってくる予定だけど」

 たかしは、なんだか肩透かしをくったような気がしたが、ひとまず安心した。

 

 家に戻ってからはまた今まで通りの生活が待っていた。時折、取材旅行での様々な出来事を思い出したりしたが、何となく平凡に過ぎてゆく時間に心地よさを感じていた。

(柳さんやスタッフのみんなは何してるかな。帰って来てからも、やっぱり忙しいんだろうな。あ、本屋のおじさんにも島でのこと報告しなくっちゃ)

 頭の中では、様々なことが思い浮かぶのだが、あまりにもいろんなことが起きた取材旅行。夢の中の出来事のような気さえする。

 結局、わずかに残っていた夏休みも宿題の仕上げに追われ、あっという間に過ぎていった。


 新学期が始まるその日、通いなれた通学路を歩いていた。時おり吹く風は心地よく、夏の終わりを感じさせた。

 たかしが学校の手前にある踏切に差し掛かった時、ちょうど警報機がなりだした。いつもなら走り抜けていたかもしれないタイミングだったが、そんな気にもなれず、遮断機が下りるのを待った。

 電車を待ちながら、たかしは坂元のことを思い出していた。そして、何気なく電車のやってくる方に目をやると、カーブを描いた線路に電車の姿が見えた。

 そのすぐあとの一瞬の出来事だった。

 線路に降りてこようとしたのか、二羽の鳩が、バタバタと電車に近づいたかと思うと、「チッ」という接触音と共に、何枚もの羽が宙に舞った。

 たかしは、一瞬何が起こったのかわからなかった。すぐに事態を飲み込むと、あたりを見回した。

「ああ、良かった。羽が触っただけだったんだ」

 ほっとして歩き出したたかしは、もう一度、後ろを振り返って「あっ」とつぶやいた。

 しばらくその場に立ち止まり、もう動かなくなった鳥の姿を見つめた。

 やがて重い足どりで学校へ向かった。それからずっと、胸騒ぎを感じて仕方なかった。


 たかしは始業式が終わるとすぐに漫才同好会の部屋へ向かった。

 ドアを開けると、背中を向けた岡村がいた。

校庭を見ているようだった。たかしに気づいたのか、振り向くと寂しそうに笑った。

「なんだ、たかしか。そうだよな。坂元が来るわけないか……」

「えっ」

 たかしは驚きの声をあげた。

「なんや、たかし。知らんやったんか。坂元は、もう居ないんや。坂元のおばさん、たかしが旅行に行って何日かして急に悪うなってな。それからすぐ亡くなったんや。 ごめんな。連絡もせんと。

 お葬式が終わったら、坂元のおじさん休みがとれへん言うて、すぐに行ってしもうたんや。

 それで、坂元たちは、大阪のおばあちゃんのところに引き取られることになってん」

「えっ、そんなことになってたなんて…」

 たかしは一瞬、頭が真っ白になる感じがした。そんなたかしに構わず、岡村はしゃべる。

「そしたら、俺の方もちょっとゴタゴタあってな。おふくろともめたんや。

 おふくろ、ずっと親父から手紙が来てたことも、俺たちに会いたいと言うてたことも黙ってたんや。

 それで、おれ、親父に連絡取って、三日間、親父のとこに行ってたんや。問題はそれからやで。驚くなよ」

 岡村はたかしの顔をしっかり見て、一呼吸おいてしゃべりだした。

「おれの親父、坂元のおばあさんの隣町に住んどったんやで。びっくりしたやろ。大人はみんな、坂元のおばさんが導いてくれはったんやって言うてたわ。

 ほいでな、大阪で坂元に二回おうた。いっぺんは、おれの親父と坂元の妹と一緒に遊園地にも行ったんや。

 ごっつ楽しかったで。坂元もだいぶ元気になっとった。これでおれも時どき、大阪行けるようになったし、坂元おらんようになったんは寂しいけど、なんや大阪に一歩近づいたって感じで、良かったかもかも知れへんわ」

「そうだったのか。いろいろあったんだね……。

 坂元、大阪に行ってしまったのか」

 たかしは、病室での坂元の辛そうな顔を思い出しながら、しんみりと言った。


「たかし、坂元は覚悟できてみたいで、最後までしっかりとしてたで。だから、俺たちもメソメソしたらあかんとちゃうか。

 俺たち、絶対プロの漫才師になろうなって堅い約束を交わしたんや。俺と坂元なら、ええコンビになれると思うんや」

「うん。僕もそう思うよ。君と坂元ならきっといい漫才師になれると思う」

 たかしは、自分でも意外なほど力強く発した言葉に驚いた。

「うん」

 岡村は涙が込み上げてきたのか、顔をゆがめながらうなずいた。しかし、すぐに笑顔に戻ると、いつもの調子でふざけて言った。

「じゃあ、たかし。もうしばらくこの同好会におってな。頼むさかい。

 坂元もいなくなって、たかしまでいてへんようになったら、三人きりになってしまうわ。それだけは、勘弁してえなぁ」

「わかってる。そう言うだろうと思ってたよ。それより、岡村、ずいぶん大阪弁が上達したよね。やっぱり、大阪に言ったのが影響してんの?」

「そうかぁ。そんなにうまなった?」

「うん。なんか、すっごく自然な感じ」

「なんやそれ、今までの大阪弁、そんなにおかしかったんか?」

「ちょっと…。とってつけたって言う感じあったかな。でも不自然な岡村の大阪弁も、ぼく好きやったでー」

「わっ、めちゃめちゃ、いけずやなぁ」

 二人は顔を見合せて笑った。

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