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ティーンズ・ショーンズ〜光の人〜  作者: わたなべみゆき
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本屋

『ティーンズ・ショーンズ』は、私が40年前に見た夢をもとに書いた児童小説です。

20才の時に、何の前触れもなく(夢に前触れなんてないとは思いますが、、)

世界的に影響力のある雑誌【ティーンズ・ショーンズ】それは謎の人物、ティーンズ・ショーンズをリスペクトした雑誌で、そのほとんどが謎に包まれていました。

しかし、世界各地で彼に出会い、命を救われたり、心を救われたりした人々は、彼の事が忘れられず、彼の存在に支えられて生きている人が世界各地にいて、彼の幻影を追い求めていたのでした。

また、自然を大切にする生き方を徹底し、自然の中で生きることの素晴らしさを伝えていました。

謎の存在でありながら、眩しいほどの光を放つ人。人々の希望の光となって輝く人。

そんな不思議な夢を物語にしたいと思い続け、20年前に形にしました。

それから少しずつ推敲を重ねて今に至ります。

 何もかもが普通の本屋と違っていた。

古い木の看板に彫られたかすれかけた店名。赤レンガの壁。入口のドアには彫刻がほどこされ、そこにはめ込まれたステンドグラスといい感じに調和している。

「えっ、今週も入ってないんだ。まいったなぁ」

 

 神谷たかしは小学六年生。『夢売屋書店』という一風変わったこの本屋のおなじみの客である。

 少年漫画を買いに来たたかしは、店主の気まぐれで今週もおめあての本が入ってないことを知り、がっかりしていた。少し腹立たしささえ感じながら、店の外に出た時だった。


「ねぇねぇ、『ティーンズ・ショーンズ』の夏号読んだぁ?」

「ううん。今から買うつもり」

「そう。もう大感動! 私ね、実は『風になる会』に入っちゃたのー。へへへ…」

「えー、ほんとー。すごーい! 

 でも『ティーンズ・ショーンズ』って現代のメシアよねー」

 

 あまりにも弾みのあるその声に、たかしは耳をうばわれた。店のドアから出てきた高校生ぐらいの女の人が、ちょうど本屋の前を通りかかった友だちと、大きな声で立ち話を始めたのだ。

 まだ小学生のたかしには『ティーンズ・ショーンズ』とか『メシア』とか聞きなれない言葉が耳に新しかった。話している女子学生が妙に大人っぽく感じる。ころころと良く変わる女子学生の表情に、胸のあたりをくすぐられているようだ。

 たかしは、その場にいるのが恥ずかしくなり、あわてて店内に入りなおした。 

 

 中に入ると、壁に掛けられた何枚もの絵が目に飛び込んできた。さらに見回すと、驚くほど美術品が目につく。

 店内の角には数か所、女性をかたどった大きな彫刻が置かれている。店の奥のほうにはガラスのショーケースがあり、年代を感じさせる木彫りの人形や陶器・絵皿・ガラス製の置物などがずらりと並んでいる。

 たかしは、あらためて『本屋らしくない本屋』の店内を注意深く見回した。さっきの高校生が話していた『ティーンズ・ショーンズ』はすぐに見つかった。

「へぇー、こんなところにこんな本が置いてあるなんて、今までちっとも気がつかなかった」

 そんなたかしを本棚のかげから嬉しそうに見ているのは、この店の主人。

 

 たかしは、雑誌を一冊手にとってみた。真っ先に飛び込んできたのは、男の人が風に舞っている絵。半透明の柔らかそうな布を身につけている。

 表紙は全体に白っぽく、なんとなく神秘的な感じである。題名の下には~走ればあなたも風になる~というキャッチフレーズ。

 誘われるように表紙をめくった。たかしの目は釘付けとなり、背筋がしびれるようにぞくぞくした。

 そこには、上半身が裸で二人の子ども抱いて座っている男の人の絵があった。子どもを見つめる男の人のまなざし。後ろでゆるくしばった長い髪が風にゆれている。しなやかで柔らかいその表情。全体から放たれる透明感のある輝き。

 たかしは、胸の奥のほうから湧いてくる不思議な気持ちの高ぶりを感じていた。

 レジの横に座っていた店の主人は、よほど気になるのか、めがね越しに何度もたかしのほうを見た。

 

 たかしは、しばらくその絵に見入っていた。そして本を持ったままレジの所へ行った。

「これ」

「ほぉ、ぼうず。感心だな。小さいのに『ティーンズ・ショーンズ』を買って帰るとは」

「この本てそんなに面白いの? さっき高校生のお姉さんたちも話してたけど」

「さぁな。早く帰って自分で読んでみな」

 たかしは本屋を出ると、自転車にまたがるのももどかしいほどの気持ちで、さっそうとペダルをふみこんだ。ところが、本屋を出てすぐのこと。

「おー、たかし」

 突然、声をかけられて急ブレーキをかけた。

 

 ふりかえって、たかしは一瞬息をのんだ。声をかけたのは六年生で、漫才同好会の岡村だった。

「や、やあ岡村。練習はもう終わったの?」「よくぞ聞いてくれやした」

 岡村は、首を人形のようにふりながらふざけた。しかし、すぐにまじめな顔で答えた。

「今日はな、早めに終わったんや。坂元も休みだったしね」

「坂元、今日も休みだったのか。どうしたんだろ。このごろずっと休みが続いているよね。あ、ぼくも人のこと言えないけど」

 たかしは、坂元も休みだったと聞いて内心少しほっとした。しかし、岡村は坂元の話題にはふれず、思い出したように言った。

「たかし、おまえ、おかあさんと出かけるんじゃなかったのか?」

「え? ああ。用事、思ったより早くおわっちゃって…」

「そう…。ほなら、ぼく急いでるさかい。

 あ、そや。新しい台本作ってみたんや。今度聞いてな」

 岡村は尊敬する漫才師の真似をして、時どき変な関西弁を使う。

 

 たかしは、家に帰るとすぐに自分の部屋へ行き、袋から乱暴に本を取り出した。

開いてみると、たくさんの写真。

子どもや大人、笑った顔や真剣なまなざし。

 色の黒い人、白い人。色鮮やかな民族衣装を身にまとっている人。

ぼろ布を体にまきつけているだけの人もいる。

 動物や花、昆虫なども生き生きと映し出されていた。

 世界のいろんな国の様子やいろんな人々が載っていて、国際的な感じがする。

そして、そのあと地球の自然が破壊されたり、汚染されたりしていることについての記事があった。

 

 読んでいるうちに、今こうしている時も地球が壊されているようで、どこかへ逃げ出したくなる衝動を覚え、すぐにページをめくった。

 しかし、そのあとのページは、さらにたかしの心に強く刺さった。

 祖国が内戦や内乱で戦場となり、荒れ果てた土地で、うつろな目をして写っている子どもたちの写真。

 そして、体や頭から血を流し倒れている兵士たち。恐怖におびえる女の人や、子どもたちの泣き叫ぶ姿。 

 たかしは直視することが辛く、少し落ち込んだ心持ちで新しいページをめくった。 

 そこからは、『まだ日本に残っている美しい川』という特集だった。澄みきった水。水辺に咲いた小さな白い花。水の流れにゆらゆらとゆれる緑の草は、踊っているかのようだ。

 たかしの心はいくぶんか和んだ。その他にも、食べ物のことや水のこと。薬や洗剤などが人間の体や自然環境に与える問題など、初めて知る事がたくさん載っていた。

 読みすすむうちに、なぜこんな大切なことを知らされずにきたんだろうと、怖いような腹立たしいような、言いようのない気持ちに襲われた。

 

 そして、最後のほうに「読者からのおたより」の欄があり、そこに同じ小学六年生の女の子の文章を見つけた。特に興味をもって活字をおった。 

「私は毎回『ティーンズ・ショーンズ』が出るのを楽しみにしています。『ティーンズ・ショーンズ』は、はじめお母さんが読んでいて、いろいろな話を聞くうちに私も大ファンになったのです。

『風になる会』にも入っています。毎日走れるだけ走っています。その時、本当に身も心も風になったような気持ちになります。

 ティーンズ・ショーンズという人は、今どこにいるんでしょうね。

 動物たちと一緒に自然の中で生きている。山や川や海を大切にして、そこに神様がいると言って、そういう自然のものたちと共に生きている。 

 車とか物を使わなくて、自分の足を使って跳んだりはねたり走ったりすることの大切さを、私も少しずつ感じています。

 これからも走るたびにきれいな心になって、地球や家族や友だちを大切にできる人になりたいと思います」

 

 たかしは、この時初めて「ティーンズ・ショーンズ」というのが、人の名前であることを知った。

(あっ、もしかして)

 すぐに一番最初のページを開きなおした。

(ああ、きっとこの人だ。とてもまぶしく輝いて見える人。この人は、いったいどういう人なんだろう)


「あら、たかし。帰ってたの?」

 突然、おかあさんの声がした。

「ねぇ、おかあさん。『ティーンズ・ショ―ンズ』って知ってる?」

「ええ、知ってるわよ。今、評判になってる本でしょう・“走ればあなたも風になる”っていうキャッチフレーズで。その、なんとか会っていう…」

「『風になる会』でしょう」

「そうそう。その『風になる会』の会員もすごい数ですってね。そういえば確か、早瀬のおじさまのお友だちが編集長をしてるって聞いたけど」

「ほ、ほんとに?」

 たかしの声は、ひっくり返りそうになった。

「まあ、何その声! あはは。そんなに驚いたの? この間、おじさまがいらした時に、そんな話してらしたわよ」

「その『ティーンズ・ショーンズ』っていう本を、さっき買ってきて読んでんだけどすごいの。その編集長の人に会いたいなぁ」

「まぁ、たかしったら何にでもすぐ夢中になるんだから。今度、おじさまの家に遊びに行った時にでも聞いてみたら?」

「今度なんて言ってたら、いつになるかわかんないよ。次の日曜日、行きたいな。ねぇ、行ってもいいかな」

「まぁ、おそれいりました! その行動力に敬意を表して、おじさまには、おかあさんから連絡してあげるわ」

「本当! ありがとう、おかあさん」

 

 夕食後、おかあさんはすぐに電話を入れてくれた。返事が気になってたまらないたかしは、おかあさんの言葉や表情を注意深くみつめた。

 おかあさんは、そんなたかしが、さもおかしそうに、電話のの途中で受話器をおさえると、

「たかし。おじさん用事ないから、いつでもおいでって」

と、うれしそうにウィンクしながら言った。

 たかしは、何か新しいことが始まる予感に胸をドキドキさせた。


 翌日、学校に行っても、たかしの気持ちは落ち着かなかった。授業中もいつの間にか、心は次の日曜日へと飛んでしまう。

 そんなたかしの所へ岡村がやってきた。今日の同好会で大切な打合せをするから、必ず来てほしいということだった。

 放課後、たかしは約束通り漫才同好会の部室へ行った。メンバーは全部で五人。同好会を結束した中心である岡村と坂元。それに、たかしとまだ五年生の藤木と東堂である。

 たかしが行った時には、すでに岡村と五年生に二人は来ていた、三人は、岡村が作った漫才のテープを聞きながら、熱心に練習をしていた。

「あ、待たせてごめん。坂元は?」

「坂元は休み。しかし、内容はちゃんと伝えてある。心配ご無用!」

 岡村はいつもの調子でふざけて目玉をグルグルとまわしながら答えた。

 

 たかしは、今日も坂元が休んでいることを不審に思いながらも、そのことには触れなかった。

「実は今度の日曜日のことだけど」

 岡村は三人の顔を見ながらきりだした。

 なんだか嫌な予感。

「今度の日曜日、渋谷のRRMスタジオで漫才の収録があるんや。今、人気の『怪盗ダンナ』もくるし、ベテランの『おはなこはな』も入るんやで。

 入場券がちょうど五枚手に入ったさかい、ぜひみんなで行きたいと思うねんけど。 なかなか生で見れへんでー。いい勉強になるさかい、どないでっしゃろ」

 たかしの予感は的中した。五年の藤木と東堂はテレビ番組の収録に入れることが嬉しいようで、すぐに参加を決めた。

「たかしもええやろ」

 たかしは、岡村に念をおされて心臓がドキリとなった。

「ごめん。ぼく、今度の日曜日は大切な約束があって…」

「えー、なんで、なんで、なんでやねん。そんな、つれないやんかぁ。何とかならへんのか」

「ごめん。どうしてもだめなんだ」

 たかしはキッと唇を結んだまま、黙りこんだ。

 岡村は、一つため息をつくと

「まぁ、いいや。急な話やったからな。あとで、僕らの実演を交えながら報告するわ。

 だけど、たかしには話したいことがあるんや。今日は、ぼくはちょっと用事があるさかい、来週の月曜日はどうや?」

「ああ、わかった。必ず来るよ」

 不愛想な表情とは裏腹に、たかしの心は軽かった。

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