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【戦闘】

「あーあ、残念。気づいちゃったか」

 

 智景は片手に忍ばせていたサバイバルナイフでバクフウを襲った。狙ったのは心臓の位置だ。けれどバクフウは間一髪でそれを躱す。

 智景の乾いた舌打ちが小さく響く。

 それから智景が身を潜めていた後ろの暗闇で、蠢く他の気配に声をかけた。

 仲間がいるのだと、この時わたしははじめて知った。


「ここは強そうなのが多い。自信がない奴は城の方へ加勢しろ。できるだけ多く掃除しておきたい」

「分かった」

 

 暗闇から返答があった。中性的な若い声だ。

 建物に潜んでいたいくつもの黒い影が、身軽に跳ねあがって屋根へ着地する。暴風なんてものともせず、そのまま屋根を伝って城の方へ消えて行った。

 智景の後ろからは、ぞろぞろと六人の姿が現れた。


「どういうことだ、智景」

「見たままですよ」

 

 間合いを読み合う、じりじりとした緊張感。

 わたしはスミに手首を握られた。耳元で「走るぞ」と囁く声には焦燥が混じる。

 わたしたちが駆け出すのと、智景たちが襲い掛かって来るのは同時だった。


「今は何も考えずに走ってくれ。小町、それからハクジも」

「分かりましたわ」

 

 スミは真っすぐに城とは反対方向に走った。複数人の侵入者がいると分かった以上、どこが安全か分からない。けれど、智景が城へ人員を割いたのを聞いた。彼らが大門に入ってから城めがけて進んでいると仮定するなら、大通りを下った辺りが今は安全だと言えそうだ。


「そんなちんたら走っても意味ないぞ」

 

 真横から声がした。

 わたしは恐怖でガクガクと動く首を無理矢理動かした。

 そこには、いつもと変わらない愛嬌のある笑顔を浮かべた智景がいた。


「よう、小町。ハクジ姫もこんにちは。俺が城に向かう手間が省けたんで有難いです」

 

 ハクジに狙いを定めた智景がサバイバルナイフを振りかざす。スミが掴んでいたハクジの手を引くが間に合わない。スミは咄嗟に叫んだ。


「おいバクフウ!」

「うるせえ、聞こえてる」

 

 シュン、と風を切る軽い音がした。

 不思議そうな顔をしてバクフウを振り返った智景が口を開く。

 あまりに近くにいるバクフウへ感嘆をもらす。


「へえ、けっこう動くの速いですね」

「俺を無視した挙句、姫様一直線に殺意を向ける。とても残念だ、智景」

 

 バクフウは、赤い血が付く短刀を鞘に収めた。

 どさりと重量感のある何かが地面に落ちる音がしたから、わたしは反射的に目で追った。


「あ、手が」

 

 サバイバルナイフを握った手が地面に落ちていた。

 智景も同じものを見ている。それから、ようやく自分の手首から先が無いことに気付いたみたいだ。笑みを作り損ねた顔をしてバクフウを見る。


「容赦ないね、バクフウさん」

「当たり前だろ」

 

 智景の体が、ようやく切られたことを自覚したらしい。手首から噴水のように飛び出す赤い血が辺りを染めた。

 智景は虚ろな目をハクジに向けた。


「これから始まる。俺たち人間による地底界への復讐が」

 

 ハクジはふるふると弱々しく首を振った。


「そんな、あたくしが統べるアンダーランドが何をしたって言うの」

 

 智景は、蛍石が休んだ真っ暗な天井を見上げた。


「アンダーランドは人間から技術奪い、最も栄えたコロニーだ。犠牲者がいなかったとは言えないはずだ」

 

 ハクジは愕然として声を失っている。

 その間に、ずるずると智景の体勢が崩れていく。やがて地面にしゃがみ込むような形になったその肩をバクフウが揺する。


「死んだ」

 

 小さな声で報告するバクフウ。ほとんど暴風に持っていかれたけれど、何とかわたしの耳には届いた。

 スミがわたしたちに声をかける。


「追手が来ないうちに、ここから逃げよう」

 

 わたしたちは無言のまま、ひたすら足だけ動かした。


 大門の前に倒れている門番を見つけた。

 すぐにバクフウが駆け寄って脈を測るが、結果はよくなかった。

 開け放された門の向こう側を手持ちのライトで照らすと、ドレスなどの華やかな衣服が地面に転がっていた。


「祭りに紛れて、門番を突破しようとしたのかもしれない」

 

 バクフウが辺りを警戒しながらそう零す。スミも同じように視線を周囲に走らせながら頷いた。


「だろうな。不審な集団についての情報なんて入ってきていなかったのに」

「推測に過ぎないが、少人数で行動し、どこかで全員が落ち合う手はずになっていたのかもしれない。少人数の商人や観光人がアンダーランドに訪れることは多いから、そう目立たないと思う」

「門番の情報網に引っかからなかったということを考えると、じゅうぶんあり得る」

 

 わたしは落ちたドレスのもっと先を照らす。

 この先は糖木が管理されている広大な土地だ。さらに先は濃霧の山に続いている。


「あの山に潜んでいたんだと思う」

 

 スミが言っていた。以前より霧が少ないと。バクフウが言っていた。それは山が疲れているせいだと。

 もしも、ただ人々の往来が激しくて疲れているだけではないのだとしたら。

 多くの人が山中に隠れていて、山の許容量を超えてしまったことが原因であるとするならば。

 そう考えてもおかしくないと思った。

 案の定、スミとバクフウから否定はなかった。

本日中にもう一話投稿予定です(*'▽')

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