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4C:災王ルート(プレビュー版)その27

 女王都を守る堅牢な城壁の直上より、その流星は放たれていた。カシャカシャと滑車の変速音を鳴らしながら、まるで熟達したハープ奏者の如き運指によって大弓の引手を戻していく彼女。バリスタもカタパルトもヘルファイヤも、あらゆる攻城兵器による集中火力を歯牙にもかけなかった空の覇者ワイバーンを、ただの一矢で射落とした流星の主。


 それはかつて全てを魔物に奪われた少女だった。フレイトナーのゴブリン・スレイヤーを亡き父に持ち、幼少から雪兎を狩り続けた天性の狩人。その才能がいまここで開花し、飛竜落とし――流星として覚醒した。

魔物達と兵士達による驚愕の視線を小さな一身に受けた彼女は、フレイトナーの誇りを胸に声を張り上げる。


「メーガ・フレイトナーの娘、メーナ・フレイトナーがワイバーンを討ち取った!」 


 そしてメーナは次なる一矢を大弓に番えて、再び滑車を変速させていく。しかしなお動こうとしない兵士たちに檄を飛ばした。


「次の手柄もレディに掻っ攫われていいのかしら! 女王の騎士様たち! ドラゴン公がやってきたらもう出番なくなるわよ!」


 その声は広大な戦場には響かない。精々で傍の工兵が一部(はじ)を聞き取れた程度だ。しかし十分だった。城壁の少女が身の丈を超える大弓を担ぎ、一矢でワイバーンをしとめ、なお矢を番えて気を吐いている。そして気付けば、ただの案山子へと落ちぶれていた兵士(おのれ)に何かを叫んでいる。

これでなお、魔物に臆すような弱者など女王国軍にいはしない。


 まず、重装騎兵たちが返答とばかりに、一斉に地を踏み鳴らして地響きを立てた。


 その重厚な音色が意味するところを理解した戦場の兵士たちは一挙に奮い立つ。


 彼らの力強い足踏みが意味するのは絶対報復の決意だ。一度は魔物の決死の猛攻によって崩されたが、この誓いにも似た意思表示を打ち立てた以上、二度目の敗北はない。


 最初の重装騎兵ファーガスがかつて、敵騎馬隊による突撃を受けて致命傷を負った折、第二陣の突撃を前にこの踏み鳴らしをして自身を鼓舞した。そして彼は、自身の命と引き換えに騎馬軍を撃破した――この足踏みはその英雄譚にちなんでいる。


 ――我ら重装騎兵。故ファーガスに誓う。

 ――これより身も心も鋼の杭となり、万難をここに留める。


「弓兵! 槍兵! 態勢を整えよ! 我らここに難攻不落の要塞となる!」


 ハイペリオンの檄に、女王国軍が天を割らんばかりの咆哮をあげた。


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