4C:災王ルート(プレビュー版)その25
城壁の高台より投石器 を操作する工兵――ジグルドは、放物線を描いて投射される巨岩たちの行方を、固唾を呑んで見守っている。見晴らしの良い平原が広がる女王都正面に砂塵を巻き上げ、視界不良に貶めているのはコボルトやゴブリンの大群でなく、ただ一頭のサンドワームだった。
硬い岩盤も粘る草木の根も土も、まるで海原のように掻き分けて這い進むこの巨虫が災害級と呼ばれるのは、大軍を丸のみにし得る大口や巨体が理由ではない。侵攻によって地盤を乱された都市や村落が丸ごと崩落へ追い込まれた事例をもってそう呼ばれているのだ。ジグルドたち工兵が狙う投石器は砂塵を手掛かりにサンドワームの位置を推定し、そこへ偏差射撃を浴びせ続けている。サンドワームにとっては自身の周囲で間断なく崖崩れが発生しているようなものだ。
――さっさと失せろ化け物め!
ジグルドは焦燥した。女王都の地下には堅牢なミスリル鉱脈が広がっている。たとえ数頭のサンドワームが猛攻を加えようと簡単に削岩できはしないだろう。そしてサンドワーム自身も巨体に似合わず臆病であり、とくに崖崩れのたてる轟音を嫌う。故にこうして投石を続ければ程なく撤退するというのが工兵長の読みだった。
――なのに、なぜだ。
サンドワームは止まらなかった。砂塵の位置からして、そして極端な進行速度の鈍化からして、もうその牙はミスリル鉱に達している。投射精度の低さ故に命中の難しい投石も、流石にいまのサンドワームの頭上には当てられるし、当たっているはずだ。どこまで深く潜り込んでいるかは分からないが、音を頼りに進むこの巨虫にとっては巨岩の直撃よりも耐え難い痛みが感覚器を襲っているはずだ。しかも噛み付いた先がミスリル鉱とあれば、その牙さえ激しく損傷しているだろう。
――なのに、止まらない。……これが『災王』の仕業なのか。
そして、砂塵に血飛沫が紛れたのはこの瞬間だった。
リザードマンの大群後方を地中から爆ぜさせ、まるで間欠泉が噴き出るように飛び出してくる乳白色の巨体。地響きを立てながらもんどり打つと、無理な地中進行で損傷に塗れた外皮を癒すかのように、それは周囲のリザードマンたちを貪り食いながら地上で巨体をうねらせた。
まるで洞穴のような開いた大口にジグルドは腰を抜かしかけたが、「サンドワーム視認! 狙え撃て!」という工兵長の指示で辛うじて踏み止まる。リザードマンたちの血肉に汚れた大口に照準器を合わせてハンドサインを送った。
「投射準備完了! 鉤形外れます!」
風切り音と支柱のしなる音が混じ合い、巨岩の嵐が殺到した。
これまで牽制でしかなかった投石が初めてサンドワームに届くのだ。皆が全霊でその行方を見守り、そしてついに巨虫への着岩を捉えた。
「命中確認! サンドワーム出血しました! 効果確認! し、しかし地上進行を開始! リザードマンを捕食しながら地上進行を開始!」




