4C:災王ルート(プレビュー版)その2
マイスター・クロウから秘密裏の連絡を受けて、
ブラッドリー城の中枢クィンズガーデンでは評議会が招集された。
女王モニカ、守護騎士長ハイペリオン、
竜騎士エマ、財務大臣トリスタン、
クィンダムにおける序列第五位までの五人が、
戦王の愛用していた円卓に着席している。
彼らは、声を震わせながらも報告を正確に伝えるクロウの様子を、強張った表情で見守っていた。
「そして、フレイトナー地方は一帯をゴブリンの大軍に襲われ、兵は自警の狩猟者に至るまで壊滅。民衆は弄ばれた上に虐殺され、一部は食料に。首や肢体が街の至る所に晒されているとのことです」
「シュルトルーズ地方ではハーピーによる襲撃を受けました。ここの民衆は自警団のみで軍を持っていません。民衆の多くは風車より高く抱え飛ばされ、墜落死させられたとのことです。助命を懇願したシュルトルーズ家の当主は数匹のハーピーに弄ばれ、空中で八つ裂き。孤児院も焼き払われたとのことです」
「ブルクレール地方は南岸から侵攻してきたリザードマンの大軍に襲われ、ブルクレール家の兵士達は民衆を城内に避難させつつ勇敢に戦うも全滅。当主も先陣を切り、生きながらに腹から食い破られ……」
クロウは手に持った報告書を震わせ、そこに涙を溢しながら、
嗚咽で声を詰まらせてしまった。
声をあげて泣き叫びたい衝動を抑えるだけで彼女は精一杯だった。
「ありがとうクロウ。下がって休んでいなさいって言ってあげたいけれど、まだ貴方の知恵が必要なの。聞かせてマイスター・クロウ。この惨事をどう分析した?」
円卓の玉座に座り、
亡き戦王の威厳と密告者の長たる権謀を兼ね備えた女王モニカは、
優しくも是非を許さない声で、そうクロウに呼びかける。
彼女は涙をローブの袖で拭うと、洟をすすって頷いた。
「すいません女王陛下。はい、クロウは分析いたします。コボルト、ゴブリン、ハーピー、リザードマンによる統率の取れた各主要地方への同時襲撃ですが、彼らの知性と習性を考慮すればあり得ないことです」
「それが有りえてしまった、つまり?」
「はい、女王陛下。クロウはここに魔物を統率できる災王出現を想定したく存します」
災王――その言葉が評議会を大きく動揺させた。
それは『賢者の書』に現れた一つの予言だ。
人による秩序を破壊し、魔物による混沌を導く災いの王の現界。
女王モニカと対をなす存在であり、彼女が光ならば災王は闇であり、世界の終焉と言われている。
「クロウはさらに分析いたします。この災王に知性はなく、圧倒的な暴力のみがあると考えます」
その言葉に眉を潜めたのは、序列三位の席に腰かけたハイペリオンだ。
装飾の見事な金色の鎧をまとった彼は女王国軍の最高指揮官にして、モニカの守護騎士である。
「失礼、マイスター。繰り返すようですが、知性ではなく圧倒的暴力のみですか。知性なくして、このような同時攻撃を魔物へ指示できるものでしょうか?」
「はい、サー・ハイペリオン。報告のあった魔物たちの知性はみな低く、ゆえにむしろ意思疎通で彼らを支配することは困難です。ですが、それでも知性ある指揮者ならばそれに頼ってしまうものです。故にクロウは分析いたします。圧倒的な暴力のみを用いた恐怖による本能的支配。これが異種族の魔物をまとめ上げた最も現実的な方法であり、災王の本質です」
それも道理かと、ハイペリオンは頷いた。
確かに過去の戦争で魔物たちと戦った経験からして、
ゴブリンもコボルトも獣と何ら変わりはない。
武器を手に群れで戦える程度の知性はあったが、
基本はやはり本能で動いている。
それを支配するならやはり暴力か、と。
「だから、クロウは分析します。……災王へは言葉による交渉は通じません。『賢者の書』に従い、人は彼を滅ぼすか、または滅ぼされるか、のみです」
クロウはそこまで言い切ると、また小さく嗚咽を始めた。
モニカは「ありがとう」と頷いてから、序列第二位の席で沈黙している女騎士の方を向いた。
彼女の目に浮かんでいるのは憤怒だった。
艶のある黒髪の下には、クロウとそう変わらない幼さの残る顔が怒りと悲しみに歪んでいる。
「こんな惨い事……許せないです。絶対に」
拳を固めたクィンダムの最高戦力指揮官に、女王は命を下す。
「竜騎士・サー・エマ・フレイトナー。女王モニカ・ブラッドリーの名に置いて命じます。クィンダムに忠誠を誓った名家達と、彼らが良君として治めた民達を虐殺し、土地を汚し、その名誉を辱めた魔物どもを誅戮なさい。各地へ災厄認定魔女を差し向け、骨の髄が乾くまで野辺に晒すのです」
エマは短く「……分かりました女王陛下」と答えて、席を立った。




