3:シュルトルーズ家のファミリア:その10『最大魔法クロックと静止世界』
「突撃!」
ライトドラゴンは我に返った。
なんだ。
さっき消し飛ばしたはずの『廃棄物』がまた殺到してきたのだ。
気の迷いか、と再び光の禁断魔法『ワルキューレ』を放った。
「突撃!」
ライトドラゴンは我に返った。
まただ。
またこの瞬間が『繰り返し』ている。
確かに焼き滅ぼしたはずだ。
――そうか。
ライトドラゴンの眉間に皺が寄る。
――これは、そういう仕掛けなのか。
自分が『鏡世界』の支配者だからこそ分かるのだ。
何者かがあの2千の中に紛れていて、
そして『ワルキューレ』で死ぬたびに、死の直前に戻すよう『繰り返し』ている。
――いいだろう……根競べか。何度でも焼いてやる!
ライトドラゴンはまたも『ワルキューレ』を放ち、大地を緑炎で焼いた。
「突撃!」
ライトドラゴンは我に返った。
かぶりを振ってまたも『ワルキューレ』を放つ。
「突撃!」
ライトドラゴンは我に返り、そして『ワルキューレ』で薙ぎ払う。
「突撃!」
終わりが見えなかった。
何度でも何度でも、彼らは蘇り、「突撃!」と自分に刃向かってきた。
戦乱とは無縁だったライトドラゴンは、
そのたびに深い傷を心に負っていることに、しかし気付けなかった。
「突撃!」
何度目だろうか。
もう分からない。
そして終わりがない。
だから彼女は決めた。
一体だれが、この『繰り返し』を行使しているのかを突き止め、ソイツ以外を仕留めてやると。
殺到してくる王、そして守護騎士。
大本命はコイツらだ。
迫り来た王の一撃が振り下ろされる瞬間、時間は唐突に『静止』し、大ぶりの刃はピタリと首筋で止まる。
*
クロック:光の最大魔法の一つ。
自分を除く世界の時間を停止・再開させる。
彼女はこれを『静止』と呼び、また触れた者の時間のみを自在に『再開』させることができる。
光と時間が無関係でないのは、
遥か未来に偉人によって解明されるものの、
その操作を許したのはライトドラゴンが最初で最後である。
その初歩は『光と同速で思考・行動する』ことなのだ。




