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3:シュルトルーズ家のファミリア:その7『マイスター・レイヴンの死』

「ああああ!!! あああああ!!!」


 『鏡世界』の外。

 いま、マイスター・レイヴンは奇声をあげながら頭を掻き毟っていた。

 王国では血塗られた新王が誕生した最中のことだった。

 彼はエマの放っていた伝書鳩から手紙を受け取り、

 その内容を知って居ても立っても居られず、

 西のシュルトルーズ家の地へ、自ら早馬を駆って赴いてきたのだ。


 ――お願いマイスター・レイヴン。王を、守って。ここに来てはダメ。


「ああ……神よ。そんな…ああ!!! ああああ」


 シュルトルーズには温暖な気候も牧草も風車も平和も何もかもありはしなかった。

 そこには、ただ目を覆うような虐殺の後が広がるばかりであったのだ。

 凍てつき枯れ切った土地に点在する、廃墟のように崩落した風車たち。

 その合間で徘徊するアンデッドと化した住民たち。

 彼らには無数の斬られ傷や、拳で破壊されたような跡がある。

 そして今、

 マイスター・レイヴンのすぐ前では、

 ザク……。ザグ。ぐりぐり……ざぐ。

 嗜虐に歪んだ顔を血染めにしたエマが、

 横たわるエイリスの胸に繰り返し剣を突き立てていた。

 エイリスは最後までエマを信じ切っていたのか、

 その目に涙の跡はあっても、抵抗の色は何一つなかった。


「っはははははは!! もろいもろい!! もろいなお前らはよお!!!」


 狂ったような雄たけびをあげているのはサッコだった。

 彼女は暴力の化身となり、

 いまだアンデッドと化していない街人を見つけては、

 頭や胴が弾け飛ぶほどの打撃を浴びせ、手足を血染めにしていた。

 彼女は逃げる最中に倒れ伏した子供をギョロリと見つけると、飢えた狼のように飛び掛かる。

 そして子供の首の付け根を押さえつけて、メリメリと音がなるほど力を込め始めた。

 痛い痛い痛いという悲鳴に我に返ったレイヴンは、

 サッコに駆け出し、その老体をもって全力で体当たりをした。


「っげふ」


 と、不意をつかれて転倒するサッコ。

 レイヴンは素早く少年を助け起こし、その泣きはらした目を見て叱咤するように言った。


「泣くな坊や! いますぐあの馬に乗って逃げるんだ! そして、そして王国へ助けを」


 どん、とレイヴンの身体が震えたと同時、彼の夥しい吐血が少年を深紅に染めた。


「破城槌……。もろ過ぎて貫通してやんの。戦利品はジジイのハートかよ」


 どしゃっと、マイスター・レイヴンが崩れ落ちると、

 その背後には右手で何かを握りつぶす、

 狂戦士と化したサッコが、顔相が崩れる程の笑みを浮かべていた。

 ギョロリと、その目が子供の目を捕える。


「あ、あ、あ」


 強張った少年の喉で悲鳴が潰れる。


「すぐ母ちゃんに合わせてやるよ」


「あああああ。あああああ!!!!」


 少年の断末魔はすぐさま拳の衝撃で砕かれた。

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