3:シュルトルーズ家のファミリア:その4『モニカとイゾルデの死』
果たしてこれが、モニカ姫がイゾルデを監禁する前の話なのか、
それとも後の話なのか。それはまだ明らかではない。
しかしこの時、イゾルデとモニカ姫の二人は、シュルトルーズの地へと赴いたエマたちを追いかける形で、この街を訪れていたのだった。
そしてその滞在は、エマ達とは違って快適そのものであり、二人は十分に街を楽しんでいた。
最初の半日こそ、街の滞在に対して奇妙な居心地の悪さを感じていたが、
二人は外出時にはいつも欠かさず持ち歩いている『旅の友』のお蔭で、
居心地の悪さの正体に早々と気付けたのだ。
そしてたぶん、それなりに豊かなこの街に『これ』が一つもない理由こそ、
居心地の悪さの『秘密』を少しでも隠そうとする、
ライトドラゴンの仕業に違いないと確信していた。
もっとも、そのことに気付いてしまえば、
居心地よく過ごすために『合せられる』器用な二人であったのだ。
だから、今は極めて快適だ。
「もしかしたら、ライトドラゴンさんが最優と言われる理由がこれかもしれませんわね」
宿の一室。
イゾルデは、エイリスが何度も溢していたジョッキのジュースに口を付けると、
一滴も溢さずに飲んでいた。
一方のモニカ姫も、その複雑な編み込みの髪を手際よくまとめ上げ、
美しくもゴージャスなヘアスタイルを造り上げていた。
きっと、メープルが見れば目を瞬かせてしまうことだろう。
「そうね。エマたちが『これ』に気付いてくれたら良いのだけど。……あの子はこういうの好きかしら?」
モニカ姫は、居心地の悪さの正体を知るきっかけとなった『旅の友』を、
一つ取り出してイゾルデに見せてみる。
イゾルデは受け取ったそれに目を細めて、裏返し、
そして中身をちょっと見てから肩をすくめた。
「刺激が強いと思いますわ。お姉ちゃん、結構デリケートですから。でも、比較的優しめのものなら、お姉ちゃんは現実世界で毎日のように携帯していますわ」
イゾルデはそう答えると、ジョッキを置いてテーブルから離れる。
そしてモニカ姫のそばまで来ると、隣の鏡台の前に座って、同じように髪をとかし始めた。
彼女たちはますます確信を深めていく。
そして、街で見つけられない最優のドラゴンの秘密が『ここ』にあるのなら、
ライトドラゴンの由来も踏まえて、もうその居場所は一つしかなかった。
イゾルデは言う。
「お姉ちゃんたちが気付くまで時間がかかるかもしれませんわ。モニカさん、先に行きませんこと? ライトドラゴンの塒に。これが本当なら、ことは一刻を争いますわ」
モニカも「そうね」と同意する。
「あの四人だと、……サッコは一番縁がなさそう。メープルは置かれていた環境を考えたら無理ないのかしら。でもアイスドラゴンは大魔女だし、どうかしら?」
「お姉さまは天才肌タイプですから、逆に縁がないですわね。……となると、お姉ちゃんしか」
やはり時間はかかりそうだと互いに頷くと、先にライトドラゴンの塒へと向かうことにした。
二人は短剣を取り出して、その切っ先を自身の喉にあてる。
イゾルデが口端を吊り上げるように、モニカへ笑いかけた。
「ふふふ。私は黒魔法でこういうのは慣れてますけど? お姫様はどうかしら?」
モニカもまた、目を刃のように鋭くすると笑い返した。
「人になら再三してきたから、いまさら自分にだけできないなんて言えないわね。さて、どんな真相が待っているやら?」
ざくりと、二人の喉から音が鳴った。
互いに重なるよう倒れ伏したモニカとイゾルデ。その喉からは鮮血が溢れていた。




