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2.2:【幕間イベント】私立学園エイリス・その1


「サッコ。これもスマホゲームの宿命ね。ついに集金イベントが来ちゃいました」


「エマちん。私はこれほどヴァレンタインが恐ろしいと思った日はないよ。性転換も辞さないなんて」



 僕の名前は吉原絵馬。

 私立エイリス学園に通う二年生だ。

 今日までの人生は平々凡々。

 大きな事故も悲劇もなく過ごしてきた。

 こういうと幸せな人生のように聞こえるけど、不幸でないことと幸福なこととは別だと、思春期な僕は思ってしまう。

 なぜなら、僕にはこの年になるまで彼女ができたことがないのだ。

 でも、出会いがないなんていう言い訳の余地がないのは、今日一日のうちに出会う彼女たちのことを知れば分かってもらえるはず。


 ピピピ ピピピ ピピピ(スマホのアラーム)


「……ふわう」


 午前7時、起床。

 当然のように眠い。

 頭にかかったこのモヤを落とさないと、牛乳の一口さえ喉を通らないので、僕はベッドから起きると必ず洗面台に直行して顔を洗うのだ。

 寝ぐせもそのままに寝室を出て階段をトントンと降りていく。

 スマホで適当なニュースを見ていたら、今日がヴァレンタインであることを知る。

 もしも1年のうち1日だけを消して良いと神様に言われたら、僕は間違いなく今日を選ぶだろう。

 そのぐらい、昨年の同日はトラウマだったのだ。

 そう、誰のせいかと言われたら一番はモテナイ僕本人のせいだけど、

 2番手は間違いなく幼馴染のエイリスのせいだ。

 ガラリと洗面台への扉を開けると暖かな湯気を感じる。

 そしてそこに、シャワーからあがりたての彼女はいた。正確にはバスタオルを手に固まっていた。


「ふえ?」


 ほらな、言わんこっちゃない。

 その初めてキャラメルかじってショック受けたネコみたいな目やめて欲しい。

 そうだよ。

 悪いのは僕だよ。

 昨日から実家都合で泊まりに来てたし、昨晩も『朝はシャワー使うから絶対に入って来るな』って言ってたもんね。

 忘れてたんやって(関西弁)。

 それにしても北欧を思わせる色白の肌にちょっと湯上りの朱色がさしてセクシーなこと、相変わらず整った顔立ちと大きな目に弓なりの眉には、ああどうして僕には君みたいな彼女がいないのかと


「……なにか、私に言うべきことはないか? 朝から大層なことをやらかしているエマよ」


 落ち着こうエマくん。

 幼馴染の裸を見ただけだ。

 別にドラゴンの逆鱗を踏んだとかじゃないんだ。

 死にはしない。

 クールに対処しよう。


「おはようございますエイリスさん。ところで小麦からみる東アジアの歴史にはとても興味深――」


 僕はいま牛乳パックを頬に当てて冷やしています。

 言うまでもなくシバかれて、一緒に登校するはずの予定も白紙になりました。

 今更紹介すると、

 さっき僕に弁明の機会もあたえず平手打ちをして半泣きになって登校していった女の子は、

 幼馴染のエイリスさんです。

 容姿端麗・頭脳明晰。

 ただし性格は凶悪の一言。

 そして学級委員長。僕の通うエイリス学園と名前が一緒なのは無関係ではなく、彼女はそこの理事長の孫娘でもあるのだ。


「紹介終わります」


 スマホに向けて無意味に呟いたとき、インターフォンが鳴った。

 時刻は午前7時半。紹介の順序的にも次は彼女――サッコになるだろう。

 僕は溜息を一つ付くと、制定カバンを手に玄関を出て行った。



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