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2:ヴァニーユ家の白魔法:その17『幕は降ろされ、そして新たな幕へ』

「やめ、やめさせろエマ。サッコに肉球ふにふにやめさせろ、エマ。夫が困っているぞ」


 現実世界。

 今日もエマの部屋に遊びに来たのは、もちろんバイト帰りのサッコだった。

 彼女はエマの作った野菜炒めをたらふく食べると、

 いつものように猫のエイリスを捕まえて前足をもんでいた。


「良いではないか良いではないかエイリスたん。本当はもっとしてほしいんでしょ?」


「や、め! ……ふっふっふ! や」


 そんな仲の良い様子の二人をエマは微笑ましく見てから、彼女はサッコが連れてきた黒猫を膝上に乗せつつスマートフォンに目を戻した。

 黒猫はエマを見あげて


「お姉ちゃん、なにそれ? 私もみたい~」


 と甘えたような声をあげた。言うまでもなく、この黒猫はただのネコであろうはずもない。

 イゾルデが現実世界に転生した姿なのだ。

 いまはサッコの家に居候しているとのこと。

 エマは


「はいイゾルデちゃん」


 とスマートフォンを下げて彼女にも見れるようにした。

 そこに記されているのは、エマたちがゲームの世界で活躍してきた物語。

 マイスター・レイヴンが『ヴァニーユ家の白魔法』という題で記した戦史だった。

 あのあと、エマはエイリスとイゾルデとモニカ、

 そしてシードラゴンことメープルと、ガルボことサッコを王国に連れ帰った。

 果たした功績はやはり大きかった。

 ヴァニーユ家の災厄を取り除いただけでなく、さらに新たなドラゴンであるシードラゴンと和平を結び、そして配下に置いたのだから。

 その功績に対する褒章はと言えば。


「……竜の支配者『ドラゴン・ルーラー』か。完全に名前負けしている」


 そう、エマは三頭ものドラゴンを支配するかつてない騎士として、ドラゴン・ルーラーという役職をマイスター・レイヴンから提案され、評議会で喝さいをもって承認されたのだ。

 ちなみに、シードラゴンことメープルは彼女の弟となり、海の監視が主な仕事になっている。

 密告者の長でもあるモニカ姫いわく『かゆいところに手が届きます』とのことだった。

 そして、あの『リヴァイアサン』の力は健在だったが、もちろんもう無暗に船を襲うことはないらしい。

 彼女、否、彼曰くは


『姉上のご要望とあらばいつでも』と、


 エマたちに『リヴァース』をかける前に、可愛く笑いながら怖いことを言っていた。

 また、現実世界の問題としては『女子高生の連続殺人事件の犯人』であるが、

 これは迷宮入りになるとエマは思っていた。

 真犯人がカイン・ブルクレールというゲーム世界の住人だなんて、警察に話しても混乱させるだけだと思って話していない。

 今も彼はあの地下牢に閉じ込められているのだろう。

 それについてエマが気になることと言えば、

 彼に下された終身刑という罰に対して、

 あれほど激怒していたエイリスとイゾルデが何も抗議しなかったことだ。

 ただ、エイリスに何か耳打ちされたイゾルデが、

 あまり宜しくない笑みと共に頷いたのが妙に印象に残っている。


 ――聞かないでおこう。


 と思いながら、イゾルデの顎下を撫でるエマだった。


「ねえエマちん。次はいつ行くの?」


 というサッコの問いは、第三章を始めるタイミングの話しだ。

 自分たちの都合で言うなら、もうゲームの世界に戻る必要はない。

 でも、第二章で王国の人たちは、自分が元の世界に戻るために全力を尽くしてくれたのだ。

 もしもあの世界を守ることでその恩返しができるなら、エマはそうしたかった。


「今すぐだって良いよ。力になれるなら、助けてあげたい」


 言いながら、エマはスマートフォンをしまいかけて、ふと第三章のタイトルを見てしまい、顔面が蒼白になった。


『第3章:王殺しの法、再び。血塗られし偽王:ハイペリオンの反逆』


* 


 第2章『ヴァニーユ家の白魔法(正式版:裏ルート)』クリア


 3章に続く! 

第2章のクリアおめでとうございます。


また、拙作へのお付き合いありがとうございました。


そして、ブクマ・いいね・評価ありがとうございます。

全部一つ一つチェックして、作品制作の養分にしています。


続編になる第3章の前に、いまは2.2章を書いています。

スマホのゲームにありがちな『限定イベント』的なものです。


良い意味で、予想を裏切れたらと思っています。


完成したらまた順次に投稿予定です。


それではまたお会いしましょう。 翁海月

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