2:ヴァニーユ家の白魔法:その15『エマとサッコ』
「はぁ……はぁ。終わったねエマ」
「ひぃ……ひぃ。もう無理サッコ。主に経済的な意味で」
晩餐の間。
ロイヤルガードたち30人を辛くも倒したエマとサッコは、崩れるように倒れていた。
エマは大の字で、サッコは胡坐をかいている。
「それにしても……ゲームの世界に行けちゃうなんて信じられない。エマちんが課金した、っていうから、何かあるんだろうな、って思ってたら。こんなことなってたんだね」
「命掛かってるしね。……バイト代も突っ込みますとも」
「バイト先は選ぼうねエマちん。むしろ私が紹介――」
「ねえ、サッコ」
と、エマは割り込むように言って、身体を起こす。
「サッコはどうやってここに来たの? それから、今までどうやって過ごしていたの?」
それはとても重要なことだった。
エマは聞きたいと思ったし、聞いてあげたいとも思った。
しかし、それは興味や好奇心からではない。
自分は体験者だからよくわかるのだ。
最初は、右も左も分からないことだらけで、あるのは絶望と恐怖ばかりだった。
なにせ、エマはこれまで平和で平凡に暮らしていた普通の女子高生なのだ。
それが急に、戦争やモンスターや魔法や剣や、なんて世界に飛ばされて、
時には死んだりしながら、ゲームを進行してきたのだ。
サッコもそうだろう。酷い目にあって、たくさん傷ついたに違いない。
「……辛かったでしょ?」
エマに悲痛な面持ちでそう言われて、
サッコは何かを言いかけたが、
それより先にとばかりに胴着の懐からあるものを取り出す。
「はい、エマちん」
とエマが手渡されたのは、紛失していた彼女のスマートフォンだった。
「わああ! ありがとうサッコ! 本当にありがとう!! ……え、でもなんて!?」
と歓声をあげている親友に、サッコは肩をすくめてこう語った。
エマ達が襲われたあの日、
バイト帰りのサッコはいつも通りエマにメッセージアプリで連絡してから、彼女の住むアパートに行ってみた。
そしたら、玄関扉が半開きの状態になっていておかしいと感じたらしい。
そのまま飛び込んだら(飛び込んだ!)、
そこに失神したエマと、彼女の首を絞める真っ赤なフードの不審者がいたこと。
声をかけ、振り返ったソイツにすかさず顔面に正拳を叩き込んで昏倒させたこと。
そしてエイリスの様態を確かめつつ、
手近なところに見つけたエマのスマートフォンで救急車を呼ぼうと画面に触れたら。
「ヴァニーユ家でなぜだかマイスター・ガルボになっていたと。……なるほど」
「2章は結構やり混んでたシナリオだったし、ガルボ自体が緑のカツラとカラコンでコスプレ好きな痛いキャラでしょ? 実際、地下牢ではカインに『今日も一段と悪趣味な出で立ちだな』って言われたし。へへ。だから私はガルボに成り済ましつつ、この世界からの脱出とエマちん&エイリスたんを助ける方法を探してたわけよ。お城を探検したり、海岸を散策したり、衛兵に「む、これはこれはご苦労」とかやったりね。そんな感じで馴染んで二日ぐらいかな? そこに皆さんがアイスドラゴンに載ってご到着と。いや~ビビったよ。だってキングズ・キーパーにめっちゃ見覚えあったんだもん」
――……もしかして、どこかでお会いしましたか? ここでない、遠い世界で?
あれって、そういう意味?
いや、というか、サッコ、かなり楽しんでない?
エマは目を丸くした。
この世界に初めて来たときの自分と大違いだ。
もちろんスタート地点は大きく違うが、それを差し引いてもメンタルが強過ぎる。
不安とか恐怖とかないのかこの子。
しばらく茫然とした後、思わず
「あはははは」
とエマは笑ってしまった。
彼女は自分が考えている以上に、サッコだったのだ。
「な!? 笑う事ないでしょエマちん! 私これでも必死だったんだから!」
「だって、サッコってばさらっとすごいことしてるんだもん! っはははは!」
エマに大笑いをされて、サッコは照れたように自白する。
「……まぁ、ちょっと楽しかったのは否めないけど、でもエマちんとエイリスたん何とかしなきゃって頑張ってたのはさ? ほんとだよ?」
「もう大好き!」
エマはサッコへ飛びついた。
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