表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/78

2:ヴァニーユ家の白魔法:その10『無間地獄』

「では、改めて。無事に帰って来い。三人ともだ。お前たちは王国の至宝。死ぬことはならんぞ……。ん? なんだエマよ?」


 我に返ったエマは周囲を見渡す。

 エイリスとイゾルデ、サー・ハイペリオンやマイスター・レイヴンたちも、自分を見ている。

 エマは頭を掻く。


 えっと、なんだっけ?


 何か忘れているような。

 とても重要な……いや、大丈夫……なのか。


「すいません。緊張していたようです」


「大丈夫です。サー・エマ殿。薬の効果はこのマイスター・レイヴンが保証します」


 自信満々に頷かれ、不安が消える。

 エイリスも背伸びをして頭を撫でてくれた。

 そう、心配し過ぎなのだ。

 リヴァイアサンの毒にやられて戻って来て、今こうして対策が出来たじゃないか。

 その後のことは、またそのとき考えたらいい。

 たとえ、また戻ってくることがあっても。



「っあ……は……が」


 ゆっくりと、喉を引き裂かれている感覚がある。

 テーブルに押し付けられた頭。

 隣には蒼白になったエイリスの顔があり、

 彼女の喉は三日月みたいにぱっくり開き、

 テーブルクロスを深紅に染めていた。

 イゾルデは右目にナイフを突き立てられて絶命している。

 そしてやはり、喉は裂かれていた。

 エマは思い出した。

 そう、晩餐で殺された。

 毒を盛られて自由を奪われ、そしてナイフで殺されるのだ。

 それも初めてじゃない。

 何度目だ。

 2度か、3度か。

 否、もっとだ! 

 何度目だ!! 

 どうして! 

 どうして覚えていられない!? 

 どうして忘れてしまうのだ!? 

 コイツの顔も!! 

 このワインのことも!!


 ――おや? これだけ失血してまだ意識があるのか? 

 ――せっかくだ、教えてやろう。

 ――この痺れ毒の副作用にはな、記憶を損失させる副作用がある。

 ――どうだ、言った傍からそのことも、私の姿も、声も、覚えていられないだろう? 

 ――っふふふけけけ。


 目を血走らせながら、

 エマは憎悪の心を燃やしてそいつを睨め付けるが、

 もはや怒りの理由さえ忘れていた。

 何故、私はいま死のうとしているのか。


 ――さぁ、『鮮血のローブ』よ。乙女の血はうまいか?


 意識はかすみ、消えていく。

 エマはいま凍えそうなほど寒く、眠かった。

 だから何も考えずに眠ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ