2:ヴァニーユ家の白魔法:その5『魔法の毒を乗り越えて』
「シードラゴン、否、リヴァイアサンか。その水のウロコが、もしも海で出来ているなら……お前の身体とて例外ではないぞ?」
バキバキバキと、
シードラゴンもとい水の禁断魔法『リヴァイアサン』の凍っていく音でエマは我に返る。
美しくも恐ろしい大海原で、彼女はアイスドラゴンに騎乗していた。
「やれるかイゾルデ?」
「もちろんですわお姉さま。あのマイスターの腕前、感服ですわ」
眼下の幽霊艦隊は水圧カッターの攻撃で4割ほどが沈んでいる。
しかし残りの艦隊は健在で、彼らはイゾルデの瞳が赤く灯ると次々に、再びその砲をリヴァイアサンに向けていく。
砲撃準備が整うと、ブラックドラゴンは『にぃっ』と犬歯を見せて笑った。
「お姉さま、あまり固くなさってないでしょうね?」
「大丈夫だ。壊し頃だぞ、妹」
怖い姉妹だとエマが思った時、
豪雨のような弾幕がリヴァイアサンに叩きつけられた。
火竜のマシンガンのような連射。
バリスタの豪快な斉射。
大砲による必殺の一撃。
見る見るうちに『リヴァイアサン』に蜘蛛の巣のような罅が走っていく。
イゾルデは「的中的中」とハシャいでいる。
エマは耳を両手でふさぎ、この轟音に耐えた。
本当にすさまじい勢いで、油断すれば自分が飲み込まれてしまうような気がした。
やがて、フ、と沈黙。
艦隊が斉射を終えたのだ。
しかし、リヴァイアサンはまだ姿を保っていた。
エマとイゾルデが2人そろって『あ』と絶望の声をもらす。
そして未来を象徴するかのように、中途半端に入れたヒビの隙間から水圧カッターの煌めきが流星群のように見えた。
直後、リヴァイアサンの真上から、
まるで塔のように巨大な氷槍が現れたかと思うと一瞬でブチ抜き、
全身を木端微塵に打ち砕いた。エイリスの氷魔法だった。
一瞬のできごとに唖然とするエマとイゾルデに、エイリスはほくそ笑んだ。
「こいつは私が殺すと決めていたのだ。美味しいところをサラって悪かったな。さ、いくぞ」
まだ二人が茫然としているの叩き起こすかのように、アイスドラゴンは、どん、と加速。
二つの絶叫と一つの歓声が水平線に消えた。
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