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2:ヴァニーユ家の白魔法:その2『いざ、ヴァニーユの地へ』

 城ではすぐに評議会が始まり、エマは王たちの前で自分とエイリスの身に起きたことを説明した。

 王は眉間に皺をよせ、マイスター・レイヴンは唸り、ハイペリオンは拳を固める。

 モニカ姫は涙を拭っていた。


「でも、お姉さまもお姉ちゃんも本当に殺されたのか、今の私ではわかりませんの。蘇生魔法『リヴァース』は、もうこの世界では黒魔法ではないので、私には使うこともその対象者かどうかも……わかりません」


 イゾルデはうな垂れる。

 別世界の住人であるエマには事情がよく分かっている。

 イゾルデの言う通り、『リヴァース』は元々黒魔法ではないのだが、彼女たちがいたゲームの試作版の世界では、誤って黒魔法に組み込まれていたのだ。

 だから以前なら、イゾルデは『リヴァース』を使用できて、エマとエイリスを現実世界へ転生できた。

 しかし、いまエマ達がいるこの世界は『正式版』の世界であるため、黒魔法の魔女であるイゾルデは転生魔法を使うことができない。

 マイスター・レイヴンはそれを見越して、ここと現実世界が往復できるよう、スマートフォンのアプリに『リヴァース』を仕込んでおいたのだ。

 今更、『すごいことしてないマイスター?』とエマは思う。


 ――でも。


 と、エマは項垂れる。

 こうしてスマートフォンが手元にないところを見ると、現実世界で壊されたのかもしれない。

 それなら、ここから現実世界に戻る手段がない。


「マイスター・レイヴンよ。その『リヴァース』という魔法は、どんな魔法使いなら扱えるのだ?」


 王に問われて、王の相談役ことマイスター・レイヴンは「王陛下」と会釈してから話始める。


「過去の戦史を調べてみましたが、リヴァースを使用したのは白魔法を治めたヴァニーユ家の者のようです。しかし、ヴァニーユ家は王国から遥か南の、大いなる海を越えた先にあります。伝書鳩ではとても海を越えられません。使いの者をやりたいのですが、そこに住まうドラゴンの脅威を考えると……」


 次に口を開いたのはモニカ姫だった。


「密偵からの報告によりますと、ヴァニーユ家の近くに住むドラゴンとは、その海を塒としたシードラゴンとのことです。ヴァニーユ家は代々その怒りがもたらす災厄に悩まされていて、それを鎮めるためや、あるいは海を渡るために乙女を生贄に捧げているそうです」


 評議会がざわついた。


「陛下、そのシードラゴンの逆鱗が何なのかはお分かりですか?」


 問うたのはキングズ・キーパーの長、ハイペリオンだった。

 そして彼は続ける。


「私の知る限り、ヴァニーユ家は高潔な名家です。シードラゴンの逆鱗にたびたび触れてその災厄に悩まされているとしても、それは悪意あってのことではないと信じられます。やむにやまれぬ事情があるのか、意図せず触れてしまっているのか」


「サー・ハイペリオン。残念ですが、密偵はまだそこまでの情報を持っていないようです。今分かっているのは、迂闊に海を渡るのは危険だということです」


 沈黙が流れた。

 彼女の危険という言葉が重くのしかかっているのだ。

 しかし、エマに選択の余地はない。

 ヴァニーユ家のもとに向かい、白魔法を治めた何者かに自分とエイリスが『リヴァース』の対象者か、すなわち、『死んでいるか』を見極めてもらい、そうであれば『リヴァース』を使って助けてもらう。

 もし『死んでいない』なら、それでも『リヴァース』で現実世界に戻れることは確認している。

 とにかく、二人が生きて戻る方法はこれしかない。

 もちろん、『リヴァース』で転生した現実世界が、安全であるという保証はない。

 以前は事故の直前に戻されたように、今度も酷い目にあっている瞬間に戻ってしまう、と言うことは十分にありえる。


 ――でも、やっぱりそれしかない。


 エマは覚悟を決めた。


「海が危険なら空から行けば良いではないか? それに、王国に忠実なヴァニーユ家が悩んでいるというなら、それを解決してやるのが王の務めと言うものだ。ついでにドラゴンとの和平にも繋がるというのなら、一石三鳥だろう?」


 沈黙を破ったのはエイリスだった。

 そしてイゾルデも頷いて不遜に笑う。


「お姉さまの仰る通りですわ。外の世界には疎いのでシードラゴンのことは存じませんが、氷と死の災厄――二頭のドラゴンを相手に荒事を望む様な愚竜であれば、この世界に居場所がないことを教育してやりますわ」


 会議室がざわめく。

 エマもまた、二人に励まされるように頷くと、立ち上がって発言した。


「王陛下。私達にヴァニーユ家のもとに向かい、彼らを救い、そしてシードラゴンと和平を結ぶようご命令ください。そしてその褒美として、白魔法の『リヴァース』を頂戴したく思います」


 エマは力強い目で、王マーカスの目を真正面から見て言った。

 王国の最高戦力と言われる二人のドラゴンを国から離すというのだ。

 簡単には許されないことだろう。

 しかし王は迷わずに言った。


「キングズ・キーパーの副長にして王国最高顧問・サー・エマ・フレイトナーよ。王国の誇る二頭のドラゴンを率いてヴァニーユ家に向かい、シードラゴンと和平を結んでこい。褒美は望むものをとらす。ただし」


 王は厳かな口調と目付きで、エマに念を押すように言った。


「無事に帰って来い。三人ともだ。お前たちは王国の至宝。死ぬことはならんぞ」


 エマが力強く「仰せのままに」と応えると、王は笑みを返した。


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