第八話「無数の穴」
第八話です
「おい、そんな急に話変えるなよ。しんみりしてたのにさ。それに、普通それに変えるか?」
「……すまん。確かにそうだ」
「はぁ………たく」
………話すことも無くなり、俺達は完全に沈黙してしまった。
到着まで寝ようにも、こんな激しい揺れじゃ全然眠れない。もっと揺れないやつはなかったのかよ………。
「……おかしいですね……」
馭者の人が、タクシーの運転手がささいな会話をスタートさせるような切り口で言う。
「何がおかしいんですか?」
俺が馭者に尋ねる。気になり、ベンもこちらを見る。
「いやね?ここら辺の地帯、前まではただの平原で走りやすかったんですよ。でも、今ではほら、見てくださいよ」
この馬車には窓がなく、馭者の方から後ろまで吹き抜けになっているので、俺は後ろから外の様子を見る。
「な、なんだこりゃ!?」
馬車で移動するように見える地面には、数多の窪みができていた。まるででかいアリが何匹も住んでいるような大きな穴だ。
ベンも、馬車の後ろへ顔を覗かせ、その光景を見る。
「これは……俺はここを前に通ったが、その時はこんな穴凹なんてなかったぞ…どうりでこんなに揺れるわけだ」
いや、町から出てすぐの時からずっとめちゃくちゃ揺れていたんだが……。
「あの、ベンさん。依頼引き受けてないんですか?こんな風になった地面の整地とか」
「いや、そういう整地とか伐採などの依頼が来た時には、専門の方にその依頼を丸ごと投げるんだ。もっとも、最初からそんな依頼なんて今まで一度も来なかったがな。だが、その依頼にモンスターや悪党が関与していたなら、話は別だ」
するといきなり、馬車がガコンと揺れた。何か大きな物にしたからどつかれたような………。
「あの………馭者さん、その二頭の馬、全然驚かないんですね」
「まあ、一応訓練とかはしていますから」
「アカギ………来るぞ!!」
「え、何が?」と、後ろのベンの方へ振り返ると、そこには象もびっくりもびっくりするほどの大きさの蟻が俺達の乗っている馬車を同じくらいのスピードで追いかけて来ていた!
「どわ!!なんだこいつ!!」
その巨大蟻の口を見ると、クワガタよりもでかいハサミがカリカリと音を立て、その奥では……うげっ!気持ち悪い。のこぎりが上と下にあるような、生物を切って削って食べる感じだろうか………。
それに、こいつの足の動きを見ると、馬車の車輪の部分に当たってる!このままじゃあ、壊れるんじゃないのか!?いやそれ以前に、俺たちのことを食おうとしているんじゃ………!!
「知らん!俺もこんなでかいやつは初めて見た……名前を付けるとしたら『ジャイ「アント」』………」
「寒いダジャレなんか言ってる場合か!!どうすんだよこの状況!!」
「どれくらい強いのかは分からんが……仕方ない、ここで倒すぞ!!」
そう言い放ったベンは、俺の足がすくむのと、馭者が冷や汗をかきながら馬に鞭を打つのと同じように、自らの両手剣を腰の柄から抜いた手は、震えていた。
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