第四話「謎多き世界」
四話です。
俺は、その女の子に連れられて、中央に噴水やベンチがある広場にやって来た。町並みは、やっぱり洋風だ。一度旅行気分でスマホアプリで見たことのある、オーストリアのハルシュタットという所によく似た感じだ。
「あの、どこまで行くんですか?」
「……………ここでいい」
そう言って、掴んでいた俺の腕を離す。いてて、結構強い力で握られてたからなー、赤くはなっていないみたいだが。
「なあ、なんでここまで連れてきたんだ?それに、あんな些細なことで起こる必要なかっただろ?」
「アカギくん。君には関係ないから!はい、これ」
流石にあのイケメンが可哀想だったんで聞いてみたが、予想通り答えるはずはなかった。
「……………ん?なんですか?これ」
渡されたのは、手のひらにのるほどの小さな布袋。
「お金。取り敢えず、宿に泊まれるくらいの分は入ってるから、それでミシードでも作って仕事見つけたりでもしなよ。じゃあね」
「はあ………ありがとうございます………」
女の子は、さっきまで俺のことをこの町に歓迎するような目で見ていたが、さっきの男との喧嘩で不機嫌になったのだろうか、今はムスッとしている。
袋の中を見てみると、金貨が四十、いや、五十枚ほど入っていた。この世界での硬貨だろうか。さっき、宿に泊まれるくらいの量だと言っていたが………。
「あの、俺、お金貰ったりして頂く義理なんて……………」
「いいの!とにかく、どっか行って!」
怒られた。そして、彼女はさっきの病院の方向とは真逆の方向へ行ってしまった。
助けてもらったのは凄くありがたいけど………なんなんだ………?
その後、俺はこの町の役場に行き、身分証明カード、通称ミシード(「み」ぶん「し」ょうめい「かーど」)を作り、建物の壁の工事をするアルバイトに就き、小さな宿で俺の名前で部屋を借りた。
そんで、一日バイトして宿で寝るという生活を一週間ほど送るのだが、その間にこの世界のあれやこれやを
知る。
まず第一に、この世界には「魔法」なるものが存在しているとのことだ。どうやったら使えるようになるのかは知らんが、そのことを宿を切り盛りしているおっちゃんに聞いたところ、「はぇ?パパイヤ?」だった。
第二に、この町が壁で囲われているということ。大体五メートルくらいの高さなんだが、コンクリート?違うよーな………みたいな感じで、何でできているかまでは分からなかった。そのことを例のおっちゃんに聞いたところ、「はぇ?焼酎?」だった。
第三に、まあこれが最後になるんだが、王国についてだ。宿の近所のおばさん方が、「また、クラピウス王国んとこ、黒い噂が立ってるのよ」「ホントに?どんなの?聞かせて頂戴」といった感じで話していたため、どうやらそのクラピウス王国とやらは、この町の住民からは嫌われているらしい。どんな内容を話すのか気になって聞き耳を立てていたら、どうやらバレバレだったらしく、お玉を投げられた。そのことを例のおっちゃんに聞いたところ、「はぇ?びちぐそ?」だった。
いろいろ知れたって言えばそうなんだが、逆に疑問も多くなる。『どうやったら魔法が使えるようになるのか』『どんな素材で、そして何のために壁があるのか』『クラピウス王国の黒い噂とは』といった具合に、聞きたいことだらけになっていくだけである。
それにもう一つ、重大な謎があった。『なぜこの世界の言語が日本語なのか』だ。異世界であるなら、言語だって普通は違うはずだ。文明というものは、独自の文化で育っていくものだ。それなのに、全く同じなのだ。一切の齟齬がない。
だが、これを誰かに聞くことは、これからの人生の中で一度もないのだろう。
因みに、今までずっとスーツでやってきたわけではない、働くときは作業着を貸してもらったし、寝るときはそれ相応の格好を気前のいい宿のおっちゃんに貸してもらった。………あれ、なんであの時だけ聞こえてたんだ?
そんなこんなで、あの日あの可愛い女の子と別れてから一週間が過ぎる頃、俺は、あのクールビューティなイケメン男に出会う。だが、その近くにあの日の女の子の姿はいなかった。
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