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エレン  作者: 蛍野霞穂
2/17

プロローグ

「朝だよ」

「あさぁ!?」


 夜明けの空に、澄んだ声が響く。ひとつは落ち着いて深く、もう一つは素っ頓狂に明るく。

 

「これが!?今真っ暗だよまだ!」


 赤く紅潮した頬をぶるんっとふって、少女は目をまん丸に見開いた。


「俺たちにとって、朝はこんなもん。いっつも日が昇る頃にはもう施設の中にいるし」


 少年はちょっと笑ってぽすんと少女の頭に手を乗せる。ほとんど変わらない背丈の彼を見上げて、少女は眉をしかめた。


「なんでエレンたちだけ」

「は?」


 漆黒の瞳に不満をありありとのせて、小さな手が少年を抱きしめる。


「こんな朝早くから起きなきゃいけないなんて、だめだよ」

「リア」


 リアと呼ばれた少女はますます力を込めて少年にしがみつく。


「べつになんかひどいことされてるわけじゃないよ」

「でも嫌なの!だってエレン、まだじゅっさいなのに!」

「リアに言われてもなあ」

「わたしはじゅういっさいだもん!エレンよりお姉さんだもん!」


 お姉さんはトシシタを守るシメイがある、と片言で叫んだリアをじっと見て、少年―――エレンは苦笑した。


 いつでも気づけば傍にいて、エレン、エレンと澄んだ声で呼んでくれる。それだけでエレンがどれほど救われているか、リアは知らないだろう。


 ただ、純粋に好きだと言ってくれることが。


「エレン!」

「なあに?」

「ずうっと、大好きだよ!」


 そう言って太陽のように笑ってくれることが、どれだけ彼の心を明るくしてくれるか。


 エレンのたった一つのよりどころはリアで。


「だからエレン、」


 いったん言葉を切ってリアはふっと表情を緩める。小さな唇がふるりと揺れて、言葉を紡いだ。


「ずうっと、ずっと、一緒にいてね」


 リアのたった一つのよりどころもまた、エレン以外ではありえなかった。


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