九話
「これぞ迷宮名物である遺物ニャ! 何故か移動も出来ず、物凄く固い設置物なんだそうだニャ」
「こんな物があるのね。これは一体何なのかしら?」
「よくわかってないニャ。迷宮の柱とか、古代の者達が作った遺物とかいろんな憶測ばかりで真相は未だに不明なのニャ!」
なるほどねー……アレだ。
前世の記憶で言う所のモアイとかストーンヘンジに該当する謎の物体って事なのかもしれない。
なんて思っていると……ブウン! っとカプセルみたいな設置物が光り始め、ガラスの部分がスライドして収納された。
「こんな仕掛けがあるのね。確かに凄いわ。これはどんな事が起こるの?」
何だろう。
ここに乗ったら地上に送り届けてくれるとか素敵な仕掛けでもあるのかしら?
便利と言えば便利よね。
「知らないニャ……少なくともこんな話聞いた事ないニャ」
メイもよくわからないのね。
……。
それからしばらく待ったけど、何の変化も起こらない?
そう思っているとぼんやりとベアリング……じゃないリングベアから貰った腕輪が淡く発光している事に気付いた。
もしかして私が来たから何か反応してるって事?
うーん……。
「これは帰った方がいいかニャ?」
メイが怯えの顔を見せて様子を見ている。
猫みたいで非常に可愛らしいわぁ。
心が癒される。
その怯えながらも好奇心を抑えられない表情をずっと見ていたい。
けど、そうも言ってられないわね。
「メイ、ちょっと実験したいの。少しだけ離れていて」
「え? アーマリア様? 何をするつもりですかニャ?」
「こういう時、私が前に出ると決めていたでしょ? 実験に入ってみるのよ」
「危険だニャ!」
「大丈夫。何やらパ――お父様から頂いた腕輪が光っているの。きっと何かあるのよ」
パピィじゃねえ!
ともかく、何かあるなら試して損は無い。
「ですが……」
「大丈夫よ。この家宝の鎧を信じなさい」
ここまでの道のりを全て圧勝してきたのだから、例えこのカプセルみたいな物が爆発したって平気なはず!
「アーマリア様……わかりましたニャ。ですが危険だと思ったらすぐに戻って来るのニャ!」
「当然よ。私の為にここまでがんばってくれているメイを悲しませる様な事はしないわ」
私は親指を立てて、カプセルの中に家宝の鎧ごと入る。
そしてカプセルの真ん中に立ったその時、家宝の鎧と腕輪が淡い光を放ち始める。
稲光と共にカプセルに雷の様な物が走ってモクモクと煙が立ったわね。
「アーマリア様!」
「大丈夫よ」
全く怪我とかした感じはしない。
むしろこの家宝の鎧って電撃とかの耐性とかどうなっているのかしら?
検証はしたいけれど、仮に通ったら私が痛いし……うーん。
なんて思っていると煙が晴れる。
「これは……」
私は何が起こったのかを改めて確認。
すると家宝の鎧の足の裏部分にローラーが追加されていたわ。
カプセルから降りると、勝手にローラーが作動してギュイーンという音と共に少しだけ加速する。
おお……これはすごいわ。
やがて、すぐに加速が止まった。
また出来るのかしら?
そう考えた途端、ローラーが動き始める。
どうやら私の意のままに足がローラーで動けるようになったみたいね。
「鎧に車輪が付いてるのニャ! どうなっているのニャ?」
「わからないわ。ただ……このカプセルは私の鎧を強化する機能があるみたいね」
これだけ強い家宝の鎧が更なるパワーアップをするとは……なんとも面白い要素があるみたい。
であると同時に迷宮にある謎の設置物の使用方法がわかったともいえるわね。
こう言ったカプセルの目撃場所が他にもあるのなら巡ってみるのも良いかも!
「とにかく大収穫ね。魔石なんかも色々と手に入れたし、帰りましょう!」
「ハイですニャー!」
メイが敬礼をしたので私も合わせてポーズを取る。
それから私はメイを乗せてローラーをフル使用して来た道を戻ったわ。
ああ、途中で同じような冒険者には会わなかったわね。
あんまり人気無いって話だし、しょうがないのかもしれないわ。
「今日はアーマリア様のお陰でホクホクですニャ!」
メイが沢山の魔石や素材が入った袋を持って言った。
迷宮を出た所で警備の兵士に再度カードを提出して見せる。
どうやら私が所属しているパーティーの場合は入手した金目の物は全て一旦預かってギルドに届ける事になるみたい。
とりあえず大収穫ね。
で、私達が入手した物資はその日の夕方にギルドへと宅配されるそうで、私達は宅配される物資隊に着いて行き、ギルドに到着して会計を行う。
査定はすぐに行われた。
「メイとアーマリアパーティ」
そう受付に呼ばれて私達はわくわくした気持ちを抑えて会計口に向かう。
「本日の迷宮で入手した物資の売却金額はこのような結果になりました。受け取りください」
で……出てきたのは銅貨が40枚程。
それと何故かパンと水。
「ニャ? これだけ? 幾らなんでもおかしいニャ。あんなにいっぱい魔石と薬草を持ってきたニャ」
メイがここで買い取り額の少なさに抗議の声を会計員に言う。
すると会計員はゴミを見る様な眼で私を見た後答える。
「貴方のパーティーには犯罪服役者が所属しております。なので報酬は犯罪服役者の罪に合わせて一部献上する決まりとなっております」
ああ、その話ね。
確かに耳にしていたわ。
だから取られる事を前提にしていたけれど、かなりの量の魔石を持ってきたはずよね。
どれだけ取られるのかしら?
「貴方のパーティーに所属しているアーマリアは報酬の9割を被害者への賠償金として定められておりますので」
九割……ほぼすべてじゃない。
残り一割はこっちの報酬ですわね。
「そんニャ……」
「もちろん最低限のノルマを達成したアーマリア犯罪服役者には食料としてパンと水が支給されています。以上です」
これ以上の会話をする気はないとばかりに会計員は席を立つ。
……これは完全に殺しに来てますね。間違いない。
ノルマ分働けば最低限の食事としてパンと水を支給って……これで一日危険な迷宮に挑んで戦えとは身が持たない。
「メイ、この銅貨40枚で何が出来るの? いえ、メイと半分だから銅貨20枚ね」
アーマリアは貴族なので金銭感覚は疎い。
これまで金はあって当たり前の物だったのだ。
だからこの辺りは知っているメイに尋ねる。
「ご飯は食べる事は出来ますが宿に泊まるのは厳しいニャ……」
うわぁ……これは相当、働かないとまともに生活する事すらままならないだろうなぁ。
「そう……」
「でも安心してほしいニャ。アーマリア様の為にメイは仮宿を確保済みニャ。だから野宿は絶対にさせないニャ」
「メイ……ありがとう」
私はメイを精一杯撫でる。
とてもいい子ね。
良い子過ぎて思わず涙が出ちゃいそう。
「うにゃ~ん……」
「それじゃあこのお金で、食べられるだけご飯を食べましょう。お腹が空いたわ」
パンを手に取り確認する。
……固いし古くなったパンなのが分かる。
これは食べるのも苦労しそうね。
「はいですニャ」
家宝の鎧で楽をしていたけれど、死線を潜り抜けてこれでは割に合わない。
しかも物資の着服も出来ない。
けど逃げる事も出来ないんじゃ……と本来だったら嘆くしかないのね。
魔物の肉も食べられる魔物は限られているし、そう言った物資を入手したら持ち帰らないと罰せられるのが分かるわ。
完全に詰んだ状況よね。
「アーマリア様、ごめんなさいですニャ……本当ならお屋敷にいた頃の様なお食事が食べたいでしょうに」
メイが申し訳なさそうに言うので、私はメイにやさしく手を添えて微笑む。
「気にしないで……わかっていた事でもあるし、今の私には過ぎた贅沢よ」
「ニャー……」
アーマリアとしての記憶からすると貧相だとは思えるけれど、前世の記憶を混ぜると……豪華過ぎて困る。
何だかんだ前世は庶民だったからね。特に気にならない。
そもそも前世の記憶を思い出した辺りから、食事は常に質素だし……パンと水、具の少ないスープで何日目だったかしら?
だから今日の稼ぎで食べられる食事でも十分な物よ。
「それに、メイと一緒ならどんな料理だって美味しいわ」
これはアーマリア自身の本心でもある。
お前は本当にリープッド族の事が、メイが好きなんだなと感心してしまう。