八話
「……」
……。
…………。
………………嫌な沈黙が流れた気がするわ。
鎧の腕に生々しい血が付いていたので思わず拭うように腕を振るうとピッと血を綺麗に飛ばす事が出来た。
鎧の腕には血の跡すら残っていない。
どれだけ良い金属使っているの?
血糊とかを弾く塗装でも施してあるのだろうか?
「……」
メイと私は無言で、オパールピンクドッグだった物の残骸を見ていた。
気まずい空気が支配している気がする。
家宝の鎧さん。
貴方、強過ぎますわよ?
牽制に軽く殴っただけなんですよ?
「や、やったニャ! 快勝だニャ!」
「そ、そうね!」
メイも私も気にしない事にした。
なんとも恐ろしい性能ね。
絶対にメイにこの拳を振るう事が無い様にしないといけないわ。
メイのミンチとか想像しただけでも死にたくなる。
「お肉どころか骨まで粉々になってしまっているニャ……あ、魔石はどうにか残されていたからよかったニャ」
メイがヒョイッと魔石と呼ばれる淀んだ石をオパールピンクドッグだった物から拾い上げる。
「これをギルドに持っていけば買い取ってくれるのニャ」
「そうなのね。ランプの燃料とかで見た覚えがあるわ」
前世の知識で言う所の石炭に該当する資源みたいな代物のようだ。
これを買い取ってもらうことでお金を稼げる。
うん、確かにそうよね。
「ともかく武器を持つ必要すらなかったわね。行ける所まで行ってみましょう。メイ、危なかったら私の事を気にせず逃げなさい」
「そんな事は出来ないですニャ! ですけどアーマリア様がとてもお強いのは嬉しいですニャ!」
本当、メイは良い子よね。
この子が死ぬような事が無いように守らねばならないわ。
これはアーマリアとしての私の意思も同じ。
悪人でねじくれた性格をしていても変わらない。
本当、面倒な性格をしているよ、アーマリアは。
猫好き過ぎ。
メイはかわいいけどさ。
「じゃあどんどん行くわよー! ところでこの迷宮の中がどうなっているのかメイはわかっているのかしら?」
「当然だニャ! 下調べは十分ニャ!」
メイが地図を取り出して行くべき道を指差してくれる。
それは助かるわね。
「じゃあ早速行きましょう! どんどん魔物を倒して稼ぐわよー!」
「はいですニャー!」
と言う訳で私達はサクサクとサーチアンドデストロイをして行った。
魔物と遭遇したら私が殴りかかりに行き、ほぼ一撃で倒す。
メイは時々魔法で援護をしつつ、基本は地図を見て行くべき道を指差す係。
「迷宮と言ったら宝が見つかると思ったけれど、思ったより無いのね」
「階層が浅いからですニャ。でも見つかる物も多いですニャ」
薬草などをメイは採取してくれている。
なんて思っていると壁に……なんで剣先が壁から生えているの?
「あ、アーマリア様! 宝ニャ! あれが迷宮で時々見つかる宝ニャよ」
これが?
宝箱とかに入っているかと思ったけれど、壁から剣先が生えている様にしか見えない。
どうやって取るの?
壁を砕いて取り出すの?
まあいいわ。
「アルミュール・パンチ!」
ボゴッと壁を殴りつけて砕いて剣を取り出してみる。
本当、酷い絵面ね。
「アーマリア様、豪快ですニャー」
メイが私のボケをスルーしてしまった。
パンチを突っ込んでほしかったわ。
「面倒だったからですわ。これ……随分と安物ね」
鉄の剣じゃないわね。
錆びた銅の剣よ。
安物安物。
グニーっと曲げて手でボールにしてやるわ。
「アーマリア様、幾ら怪力だからと言っても、物は大事にしないとダメだと思うのニャ」
「あら……これはごめんなさい」
確かに今の行動はアーマリアの度合いが高かった。
アーマリアは悪役な令嬢みたいな奴だけあって高価な物に目利きがあるのだ。
所謂審美眼って奴だな。
ちなみに貧乏な者や貧相な物を見つける能力も高い。
どういう用途で使われていた能力かは……考えるまでもないだろう。
「せっかくのアーマリア様が初めて見つけた宝ニャのに……綺麗に丸くなっているニャ」
「銅の玉って感じで良いんじゃないかしら?」
思いっきりギューッと固めたのでなんか純度が上がっている様な気もするわ。
心なしかピカピカしているし。
「確かに……下手に剣と言い張るよりも良いかもしれないですニャ」
と言った様子で私はメイに銅の剣だったモノを渡しておいた。
ともかく順調ね。
そのまま私達は……迷宮って次の階に行く時には階段で下りる。
二階……三階……四階……と、順調に進んで行けたわ。
「快進撃だニャ! 魔物との戦闘が短いからそのぶん進むのが早いのニャね」
「ええ」
魔石を沢山拾って気持ちほくほくよ。
「ただ、アーマリア様、加減は出来ないのかニャ? 毛皮とか素材に出来る物が全部取れないニャ」
これまで魔物をほぼ殴りと蹴りで倒してきた。
その全てがミンチと化してしまっているのだから言い訳一つも言えない。
だって加減が凄く難しいんのだもの。
さっきなんてグリーンパイソンという、メイを一口で食べれるくらい胴の大きな蛇を相手に殴りかかったらやっぱりミンチになってしまった。
魔石が採れる分だけ良いとしますわ。
それで……さすがにメイに聞かなくても魔物がどこから湧いてくるのか、アーマリアは理解している。
何でも魔物という存在は邪神が迷宮を介して生成しているとかなんとか。
そう信じられているそうで、迷宮内では魔素が集まって自然発生するそうだ。
魔石というのは魔素の結晶だとかなんとか。
「確かに食用に向く肉とか使える素材は一部ですニャが、この調子だと魔物からの採取は魔石だけになってしまいますニャ」
「私に釣り合う魔物がいないのが悪いのですわ」
何と言う責任転嫁。
悪人らしい発想だ。
私自身が言っていて感心してしまう。
「訂正します。努力はしますわ。鎧で程良く手加減して倒せる所まで行きますわよ」
とりあえず、出来る範囲だとこれだ。
こう……スーパーアーマーを着込んでしまった感じに似てると思う。
「わかりました。けれど、そろそろ帰った方が良い時間が近づいてきているニャ」
「あら……張り合いが無いですわね」
魔物ってのも思ったより弱いんだな。
もっと血わき肉踊る戦いがしたくなって来てしまう。
大体は勝てるけれど、多少手こずる相手と付いてしまうんだけどさ。
生前の記憶なのだけど、どこかの実験で、いくつか分けたグループにゲームをやらせ、勝率が75%と50%の二グループ分けした結果、75%は勝ったり負けたりのバランスが良いゲームだと言って、50%のグループは負けてばかりで面白くないと言ったそうだ。
この手の程良い戦いなんていうのは、勝てる事が分かっているからこその楽しさ何だろう。
接戦なんていうのは偶にやってやっと楽しいと言えるもので、接戦が当たり前だと苦痛になる。
その点で言えば、今の私の状態は激しく程良く楽しめているともいえる。
「そうニャね。なら丁度良いからアーマリア様にはドリイームの迷宮の名物を見つけてから帰るのはどうかニャ?」
「あら? 名物なんてありますの?」
「そうですニャ。ここを通ったら、5階なんだなと言える名物があるそうですニャ」
「へー……」
と言いつつ私とメイは迷宮の五階をメイの言う名物らしい物を探して進み続けた。
魔物は当然屠っていますわよ。
やがて……私の肩に乗っていたメイが指差す。
「あったニャ! あそこニャ」
そこは小部屋の様な場所だった。
その部屋には……何かしら?
大きな試験管とでもいうの?
こう……何かが浮かんでそうなカプセルみたいな物が鎮座している。




