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七話


「アーマリア様ー!」

「そうだぜ、可愛いリープッドちゃん。俺達がとーっても良い所にお前の犯罪服役者と一緒に行ってやるぜ。ふふふ」


 へらへらと怪しげな笑いをしているわねー……私のカードを見て、何を企んでいたのかしら?


「……」


 私はササっとメイがこっちに来るのを察し、急いで鎧を着こんだ。

 それからドスの聞いた男っぽい声音で見下げるポーズで尋ねる。


「私と一緒に行くと言うのはお前らか?」


 さすがは女性。声帯の範囲が広くて男っぽい声も出せた。

 同時にメキョッとメイが私にくれた果物を握り潰してみる。


「あ、あ……悪い! 急用が出来た! んじゃなー!」


 ガラの悪い冒険者達は青い顔をして背を向けて去って行った。

 まあ、こんなデカくてヤバそうな奴は悪人でもごめんよね。


「ああ! アーマリア様! せっかくの冒険者が逃げちゃったニャ!」

「メイ、あれはね、私達を騙そうとしている悪い冒険者よ。それくらい見極める目を持たなきゃ」

「なんでアーマリア様はそんな事がわかるのですかニャ?」

「それは私が犯罪者で悪人だからよ」


 うん、ここまで説得力のあるセリフは中々ないと思える。

 何せアーマリアは悪役令嬢みたいな性根の腐った女だ。

 類は友を呼ぶ。

 人を騙す奴を見抜く目はその道の専門家と言っても過言ではない。


 凄いぞアーマリア! 長所があるじゃないか。

 これで騙されそうになったメイを救ったのだ。

 なんとなく誇らしい。


「アーマリア様は悪人じゃないニャ! みんなそれがわからないだけなのですニャ!」

「メイはとてもいい子ね。ずっと、その純粋なままでいてほしいわ」


 鎧から出て私はメイを撫でながら諭す。


「ともかく……どうやら私の所為で真っ当な冒険者とはパーティーは望めなさそうね」

「うう……アーマリア様はお優しいのニャ……悪くないのニャ……」

「もう気にしないの。しょうがないから私達二人で行きましょう。なーに、行ける所まで行けばいいのよ」


 メイが落ち着くまで私は宥める。

 しばらくしてメイは落ち着いたのか涙を拭って元気な顔をした。


「じゃあ早速行きましょう。メイ、案内してちょうだい」

「はいニャ!」


 私は屈んでメイに肩に乗るように指示を出す。

 指示を汲み取ったメイは私の肩に乗り、行くべき場所を指差してくれる。

 そのまま私達は迷宮に向かって歩き出した。




「今回挑戦するのはドリイームの迷宮ですニャ! 冒険者になって日の浅い者達がこぞって挑戦する危険度が低い迷宮ですニャ。その分、実入りが少ないからあまり人がいないのでも有名だニャ」


 メイの案内するまま迷宮都市近隣にある迷宮への道を進んで行く。

 しっかりと舗装されているし、人々の行き来はそれなりにあるみたいね。


「まずはここの迷宮の10階を目指すのが良いそうですニャ。ですが今日は日が大分傾いて来ているから、そこまではきっと行けないのニャ」

「パーティーを組んで10階だものね。二人じゃきっと3階くらいまでが限界でしょうね」

「そうかもしれませんニャ……メイがもっと雄々しいリープッドなら、アーマリア様のお力になれるのに……」

「十分メイは役に立っているし、何より勇気があるわ」


 幾ら私に恩があるからと言っても悪人と言われたら、そのまま距離を取っておけば良いのに、こんな所まで追いかけて来てしまっているんだもの。

 十分過ぎるほどメイは勇気があるわ。


「話をしていてもキリがないわ。早く迷宮に潜るわよ」

「はいですニャ」


 と、私は鎧を動かして迷宮にまで到着した。

 それで……迷宮なのだけど、石造りの雑な門と言うか鳥居みたいな物が立ち並ぶ遺跡のような所だった。


「冒険者か」


 なんか観測所って感じで入口に警備の兵士がいる。


「この迷宮に挑むのニャ」

「そうか、ではカードの提出を」


 メイは私のカードを合わせて警備の兵士に見せる。

 警備の兵士は最寄りにあるキップを切る道具みたいな物で、カードの隅にスタンプみたいな物を挟んで着けた。


「ハ……犯罪者を連れたパーティーか」


 あー……うん。

 わかってるけど何処でも後ろ指差されるのは心にきつい。


「シャー……」


 あ、メイが不快に思ったのか威嚇の声を上げようとしている。

 リープッド族は気分が身体に出やすい種族なのよ。

 だから喉から声が出ているし、尻尾も膨らんでいる。

 私は鎧から降りて警備の兵士の間に入って声を掛ける。


「お勤めご苦労様です」


 鎧から降りた所、警備の兵士は驚いた様子でこっちを見た。


「ふ、ふむ……顔の確認完了。行け……見た目の割に力を持っているんだな。もしくは……ゴーレムか? 全く、犯罪者とはいえ、元貴族様って奴かよ」

「……」


 メイを抱えて私は鎧の元に戻る。


「それじゃ行きましょう」

「アーマリア様、言われっぱなしだニャ」

「しょうがないのよ。こんな所で怒っていたらキリがないの」

「うー……シャー」


 メイが苛立ったままなので鎧に入って、メイを小脇に抱えたまま、私達は迷宮の中へと入って行った。




 迷宮内は……何と言うのかしら。

 不思議と天井が高く、武骨な感じの遺跡の中と行った様相をしているわね。

 建物の中だと言うのに光が灯っている。

 どんな仕組みなのか、前世の私の部分が疑問を浮かべるけれど、ここは魔法のある世界なのだし、この程度、何の不思議でもないのかもしれない。


「シャー……」


 メイは相変わらず不機嫌なモードのままだ。

 なのでそのまま道なりに進んで行く。

 やがてハッと我に返ったメイがシュバッと降りて声を掛けてきた。


「ここはもう迷宮なのニャ! アーマリア様、十分注意をするニャよ!」

「わかっているわ。それで、迷宮内では何をすればいいのかしら?」

「まずは迷宮内に出てくる物資、宝箱、鉱石、食料、薬草等の採取と運搬が経験の浅い冒険者の出来る簡単な仕事だニャ。地上では見ない物資も迷宮では多く見つかるのニャ。この辺りはメイが得意だニャ」

「任せたわね」

「後は迷宮の本題なのニャが、魔物が出てくるのニャ。出現頻度はかなり高くて例え入ったばかりの浅い迷宮でも間違いなく遭遇するのニャ」


 うーむ……この辺りは実際にどの程度で魔物が出現するのかを把握しなくてはいけない。

 なんて思っているとメイがピンと髭を跳ねさせて振り向いた。


「出てくるニャ! ドリイームの迷宮一階に出てくる魔物はオパールピンクドッグだニャ! 二、三匹で群れて襲って来るからアーマリア様、十分に注意するのニャ!」


 私は臨戦態勢を取る。

 と言っても見よう見まねのポーズだけど、メイと同じく腰を落とす。


「ギャンギャン!」


 鳴き声が聞こえて来る。

 その方角を見ていると、ゴールデンレトリバーくらいの大きさをした犬が血走った眼で牙を立たせてこちらに向かって三匹駆け寄ってくる。

 想像よりも動きが早いし、デカイ!

 けれど、まだ対処出来る速度ね。


「いっくわよー! はぁあああああああああああ!」


 掛け声と共に私も駆け出す。

 既にメイは後方で魔法の詠唱に入っている。

 リープッド族の反射神経はかなり高いのよ。


「てぇえええええええええええい!」


 それはともかく、ブンと出来る限り当たるようにと意識をして、拳をオパールピンクドッグに向かって放つ。


「!? キャ――」


 ブチャッ――!

 とオパールピンクドッグという名の大きな犬の魔物は私の拳を受けて、悲鳴が途中で止まる程の衝撃を受けてぶち抜かれた。

 ヒィッ! ミンチなっちゃったわ!


「ギャ!?」

「キャウ!?」


 思わぬ怪力の一撃を受けてオパールピンクドッグの残りは……驚きの表情を浮かべたまま動きが止まっている。


 隙だらけよ!

 流れるままに拳を横に凪いで牽制……。

 ブチャっと残りの二匹も薙ぎ払った勢いで壁に叩きつけられて壁のシミになってしまった。


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