五話
「覚えていてくださったのですニャ!」
「当然よ。貴方、こんな所でどうしたの?」
「もちろん迷宮流刑になってしまったアーマリア様のお手伝いをする為に、こうして迷宮都市に馳せ参じました!」
おお……アーマリア、お前みたいなクズをこんなにも慕ってくれる奴がいたとは……。
と、悪役令嬢として自身を卑下する事しか出来ない私が、思わず自身を見直すという状況にある。
不思議と嬉しく思うけれど……。
「それでご質問なのですが」
「何かしら?」
「アーマリア様……アーマリア様はリープッド族を拉致監禁して人身売買に手を染めていたと言うのは本当なのですかニャ?」
「……」
悪役令嬢としてのアーマリアの罪の中には拉致監禁、人身売買という罪状があるのは間違いない。
激しく同情の余地が無いのは……事実だろう。
「ええ、本当よ。私がやったわ」
こう言えばメイは幻滅して去るだろう。
メイの事を考えて私は答える。
アーマリアはリープッド族や猫に対して並々ならぬ感情を抱いている。
それは……言うなれば病気的な側面であり、悪人としての側面でもある。
「ええ、身元が分からない親無しの浮浪者であるリープッドを誘拐監禁し、私の欲望のまま、貴方にもしたように、思う存分自分勝手に撫でまわしてやったわ。『私達を閉じ込めて何が目的なのよ! この誘拐犯!』 と罵られて、とてもゾクゾクしたわね」
うっ……思い出して来た。
アーマリアはリープッド族の浮浪者や孤児を餌などを使って誘拐し、監禁、牢屋に閉じ込めて怯えるその姿を見て高笑いをしていたのは紛れもない事実である。
しかもこれはメイが屋敷にいた頃には既に行われていた事だ。
これは隠し様のない事実であり、ここからどうにかして脱走したリープッド族の証言が罪状の決め手となった。
「でも! その方々から聞いたのですニャ! アーマリア様は路頭に迷って弱っていた者達を保護し、高価な薬を惜しみもなく使い、体力を付けてから仕事を斡旋したと! アーマリア様がいなかったら明日の食事も分からなかったと言っているリープッド族の者もいますニャ!」
フフフ……アナタに死なれたら困るのよ……。
と医者や回復魔法の心得のある者達にリープッド族の手当てや病の治療をさせ、飢えないように餌を与え、人間に敵愾心を持たないように調教を施した後、リープッド族でも良いからと人手がほしいという、健全な仕事をしている者に売りつけたりしていた。
その最中に思う存分撫でまわしたりして毛並みを整え、アーマリアは自身の欲望を叶えていったのだ。
……
…………
………………?
あれ?
これって……野良猫を保護して餌を与え、治療とかした後、人に馴れさせてから里親に渡すのと似てないか?
生前の俺も野良猫の保護をした事があるので、心当たりがある。
最後の部分だけ人身売買という真っ黒な事だけどさ。
ちなみにリープット族以外の被害者に慈悲はない。
普通に人身売買だった。
アーマリア、極端な女である。
「アーマリア様に売られたリープッド族の者は既に独立して仕事を得てますニャ! 悪い事とは思えないですニャ!」
まー……仕事を斡旋と言うか強引に職人の弟子入りさせた様な感じだしねぇ
魔法契約とかで逃げられないようにしていたのは間違いないのかもしれない。
「メイ、どう良い様に解釈しても人身売買なのよ。許される物じゃないの」
「それでも! どうかアーマリア様のお手伝いをさせてください!」
「気持ちは嬉しいけれど、迷宮は危険な場所。私は犯した罪を償う為にこの地に来たの……貴方まで来てはダメよ」
死地に赴く訳なのだから、こんなに慕ってくれる子を巻き込んではいけない。
アーマリアもその辺りは同意しているのか、すんなりと言葉が出てくる。
「いえ! アーマリア様がいらっしゃらなければメイは夢も何も叶える事は出来ませんでした! ですので、どうかご一緒させてほしいのです」
うう……なんて健気な良い子なんだ。
「でなければ、どこまでも勝手に着いて行きます」
これは断るのは難しい。
置いて行ってもどこまでも着いてくるのは間違いない。
しょうがない。出来る限り守る事を意識しよう。
可愛い可愛い猫ちゃんだものね。
「しょうがないわね……勝手になさい」
「はい! ありがとうございます! アーマリア様!」
と言う訳でメイ=クーンが同行してくれる事になった。
迷宮都市に来て早速パーティーメンバーが出来た。
ちょっと嬉しい。
「それでメイ、貴方は何が出来るのかしら?」
「はい。メイはリープッドの使い魔見習いですニャ! 得意なのは攻撃魔法ですニャ!」
おお、魔法使いって訳ね。
確かに……魔法使いの帽子を被った猫獣人って感じだもんね。
メイは自身に配られたらしきカードを私に見せてくれる。
Eランク メイ=クーン
中級使い魔法使用可
中級レンジャー技能課程修了
中等冒険者訓練課程修了
おお……魔法が使えるのは素晴らしい。
私はその手の事は不真面目だったので魔法は全く使えない。
非常に助かる。
「そう。じゃあ私が前に出るから後ろで魔法を使ってもらえると助かるわ」
「……アーマリア様が前に出るのですか?」
「ええ。私、剣も弓も杖も何も使えないから肉弾戦で行くしかありませんもの」
「それは大丈夫とは言えないですニャ!」
まあ、そう思うよね。
オレも私もそう思った。
きっと学園のみんなや王子、フラン嬢、家の使用人達も思ったでしょうね。
「旦那様はアーマリア様に何も持って行かせてくれなかったのですかニャ?」
「いえ、家宝の不思議な鎧をくださったわ。その鎧を着込んで私は戦う予定よ」
「家宝の鎧って、あの大きな鎧ですかニャ?」
ああ、メイも知っているのね。
そりゃあ使用人だもんね。知っていて当然か。
「あの重い鎧をどうやってですかにゃ?」
「それは後で教えるわ。それよりメイはこの都市に詳しいのかしら?」
「もちろんですニャ。カードに記されている通り、色々と勉強しましたニャ!」
「それは助かるわ。犯罪服役者にはギルドは何も教えてくださらなくて……毎日迷宮に挑んで稼ぎのほとんどが没収されるとだけしか教わっていないの」
「それは……」
メイが言葉を濁す。
うん、しょうがないのよね。
犯罪服役者は命の危険がある迷宮で死ぬ事を望まれながら、日々生き残ってお金を稼いで懲役を終える事を目的とするしかない。
「それと悪さをしたらその場で殺されるとも言われたわ」
「はい……迷宮都市では犯罪服役者が更なる罪を犯した場合、首の紋様が作動して死ぬニャ。それと定期的にギルドに来て身元の証明をしなくちゃいけないニャ」
それくらいは事前に聞いていたからわかっている。
「寝泊まりはどうなっているのかしら? 刑務所みたいに定まった場所があるの?」
「無いですニャ。ただ、違反行為……迷宮都市からの脱獄などをした場合は首の紋様が発動して死ぬと……」
あー……うん。
これは迷宮都市の地域から出る事は絶対に認めない首輪な訳ね。
しかも迷宮に挑む義務が発生する、と。
で、寝泊まりする所は己自身で確保しなくてはいけない。
日々の稼ぎを没収されながら、宿とかを借りて……ってことね。
もしくは落ちぶれる事を前提として歓楽街などで体を売るとか……後はホームレス宜しく、街のどこかで野宿……。
かなり大雑把だけど、普通に生き残れる状況ではないでしょうね。
「それと迷宮で手に入れた物資は紋様とカードが記録していて全部一度提出する義務があるそうだニャ」
ちょろまかすとかにも対応した便利な機能があるのね。
何処までも犯罪者に優しくない仕様だなぁ。
しょうがないのはわかるけど、本気で殺しに来てるわ。
「あと……何かあった際、犯罪服役者が最前線に投入されて肉の盾をする義務があるニャ」
わー……人生オワタ状態。
この状態からあのベアリング……じゃない。
リングベアおじさんは私にどうしろって言うのかしら?