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四話

「ったく……この積み荷と連行する人物は一体何なんです?」


 迷宮都市へと連行される道中、持ち出しの代物は許可されているとの事で、私は護送車と荷車に乗せた家宝の鎧込みで連れて行かれた。

 護送車から出る事は逃亡罪を意味し、その場で斬り捨てても良い事になっている。

 連行班として騎士が宛がわれ、馬に乗って同伴しているが、積み荷を運ぶ業者の者が疑問の声を上げていた。


「迷宮流刑の重罪人だ。アルム国の制度として家から数点の持ち出しを許可されているのだが、まさかこんなふざけた鎧を持ってくるとはな……まあ、醜悪な女だから一番高価な物を持ち出して売り払うつもりなのだろう」


 騎士が歯に衣も着せずに運搬業者に答える。


「へー……そりゃあ重罪人って事で……あんなにかわいい容姿だって言うのに、とんでもない奴だ」


 納得されつつ軽蔑の眼を向けられる。

 ああ、はいはい。

 わかっているから、もう気にせずに生きたい。


 そんな息苦しい状況で……1週間程、護送車生活をした頃に迷宮都市に到着した。


 アーマリアの記憶でもこの都市に関しては概要は理解している。

 ここは複数の迷宮が近くに点在する拠点となる地で、迷宮にロマンと資源を求める商人が集まって出来たって歴史があるんだっけ?

 神様が邪神と戦った跡地なんて話もあるけど、どうなんだろうか?


 町並みは……活気はあるとは思う。

 こう、如何にも戦いを生業にしている冒険者みたいな格好の人や商人、町民が歩きまわっている。


 あれは市場かな?

 そこそこ賑わいのある大きな街みたいね。

 アーマリアの記憶だとアルム国の首都に比べたら小規模だけどさ。

 こんな野蛮で貧相な……とか以前の私なら言いそうな場所だ。


「おら! さっさと降りろ!」


 降りる事を催促されて私は止む無く護送車から降りる。

 振り返ると、他にも護送車を連れていた一団だった様で……手枷足かせが付けられた者達が私が乗っていた護送車とは別の護送車から降りて行く。

 屈強な男が多いと感じた。

 私よりは罪が軽い者達かな?

 もしくは奴隷とかそう言った肩書きにも見える。


「さっさと来い!」


 騎士にそのまま連行されて私は一つの大きな建物、ギルドと呼ばれる……役場に連れて行かれる。

 それから騎士は役場の地下の方に歩いて私を連れて行き、その受付っぽい所で受付の店員に向かって声を掛けた。


「流刑者を連行してきた。受諾を頼む」

「少々お待ちを……はい。はい。アルム国、迷宮流刑者アーマリアですね。しっかりと承りました」

「うむ。じゃあな、クソ女。これから死ぬまで報いを受けるんだな」


 そんな捨て台詞を吐いて騎士は去って行った。

 いや、わかっているけどね。

 そこまで冷たいセリフを言うのが騎士なのかとも言いたい。

 王子やフラン嬢はまだ気品とか同情みたいな物を感じたんだけど。

 こんなもんなのかしらねぇ……。


「では……アーマリアだっけ? このカードを受け取れ」


 騎士が去ると店員にもぞんざいな対応をされた。

 罪人に人権は無いですか、そうですか。

 まあ当然ね。


「毎日必ず迷宮に挑む事がお前の罰だ。仲間を募るにしてもそのカードの提出をせねば依頼などは受けられないぞ。ま、お前が依頼を達成しても報酬は微々たる物だがな。お前の被害者に払うことになっている」


 ああ、そう言った仕組みがあるのね。

 私はカードを見る。


 ―ランク、犯罪服役者 アーマリア


 と、書かれたカードだ。

 どこで撮られたのか顔写真まである。

 後は発行年月日と使える魔法なんか等の資格所有項目が記載されている。

 免許証みたいな感じ。

 これが身分証明書って事なんだろう。


 だが……ランクの部分が潰されているのは何なんだ?


「まだお前の監視役が来ていない。今日は好きにしてろ」


 どうしてこうも高圧的なんだろう。

 いや、犯罪者だからってのはわかるんだけどさ。

 元貴族って要素も加味して風当たりが強いんだろうなぁ。


「あの……質問をしても……」

「あ!?」


 口答えするんじゃねえよ! って対応で受付の人の眉が跳ねる。

 はあ……重罪人に人権は無いって言いたいのね。


「何でもないです」

「都市で犯罪をしてみろ。その場で殺して良い事になっている。お前に人権は無い! サッサと行け!」


 あーもう……制度の説明すらないのか。

 しょうがないな。

 私は来た道を戻ってどこに迷宮とやらがあるのかを調べる事にした。

 それとパーティーを組む場所の散策だ。

 一応、制度的な話とかを学園にいる時に耳にした記憶から反復する。


「あの……」


 ふむ、これからどうやって調べるか。

 犯罪服役者って所を見せずに教えてくれる人とかを探した方がいいかもしれない。

 あ、でも首元に刻まれた紋様で犯罪者だって一発でわかっちゃうんだっけ。

 普通の感性だと犯罪者相手にまともな応答はしないでしょうね……。


「あーのー……」


 しかも今の私は女……それもかなりかわいいに分類される女の子な訳で、下手に柄の悪い奴に声を掛けたらどこへ連れて行かれるかわかったもんじゃない。

 家宝の鎧を着込んで脅し気味に尋ねるのが無難かしら?

 あの大きさなら大抵の相手は素直に答えてくれると思うんだけど。


「あの! アーマリア様!」

「はい!?」


 声を掛けられた事に気づいて私は声の方に顔を向け……思わず微笑んでしまう。

 そう、このアーマリアは無数に性格の悪さがあるのだが、その中で唯一と言っていいほど女の子らしい側面がある。


 それは無類の猫好きだと言う点だ。

 まあ……なんていうか、私に声を掛けてきたのは猫の獣人、リープッド族だったのだ。


 前世の記憶的に言えば目の前にいる猫獣人は長毛種の猫。

 魔法使いのとんがり帽子を被った使用人みたいな服の上に革製の胸当てを着けている。

 前世の……一応、俺も猫は好きな生き物で飼っていた経験がある。

 来世であるアーマリアもそこは同じ様で、リープッド族を相手だと笑顔になるのだ。


「なーに? どうしたの?」


 リープッド族の平均身長は人間の腰くらいの子が多い。

 とはいえ、この子は平均よりも少し大きい。

 アーマリアの知識曰く、リープッド族内の種類的に大きめの一族だ。

 私はリープッド族の子の視線に合わせる為、屈んで尋ねる。


「あ、あの……覚えておられないでしょうか?」


 えーっと、つまり私はこの子のセリフ的に知っている人物って事なんでしょう。

 誰だ?


 うっ……アーマリアとしての記憶の中に沢山のリープッド族が浮かんでくる。

 どんだけリープッド族を見ているんだよ。

 ニャーニャーニャーニャー沢山いる。

 あ、一致した人物を発見。


「メイ=クーンね。覚えているわ」


 顔と名前をすぐに出せるのは貴族だからなのかしら?

 この辺りの能力はアーマリアね。


 で、この子の名前はメイ=クーン。

 アーマリアが学園に入学する前までアルミュール家で使用人をしていたリープッド族の女の子だ。

 色々とそそっかしい所がある子で、アーマリア専属の……ペットみたいなポジションをしていた使用人である。


 アーマリアは性格の悪い悪役令嬢その物の女だ。

 そんな悪役令嬢にはお約束として気に入った者を取り巻きとして引き連れたりする。

 家柄や他の要素もある感じでね。

 気に入った者は優遇し、気に入らない者は徹底的に排斥し、痛めつける。

 それが悪役令嬢の生き様って奴ね。


 メイは確かアーマリアが学園に入学する際に、理由があってお暇をもらった子だったはず。

 自主退職でアーマリアも非常に名残惜しかった。

 なんか夢があったはず。

 その夢の為にアーマリアも後押しをしたんだ。

 今、再会出来て前世の私も、アーマリアも両方が嬉しい気持ちになっている。


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