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三十五話

 それからラグの店に肉を降ろしにいったわ。

 ラグが目を丸くして驚いていたわね。

 とりあえず熟成とか色々と食べる処理をする必要があるから、とお預けになったわ。


 ただ、試験的にと火で炙ったフィッシュボアの肉の炙り焼きの刺身を食べたわ。

 処理をする前に寄生虫の類はメイが氷の魔法で肉を凍らせてからの処理で心配ないそうよ。


 味としては……そうね。

 魚のようで肉の様な濃厚さのある不思議と美味しい刺身だったわ。

 大トロとも違う、悪くない味ね。

 前世基準で寿司にして醤油を漬けて食べたかったわ。

 食用には向いているでしょうね。


「これからラグの店で食べる料理が楽しみですニャね、アーマリア様」

「そうね。とりあえず即金には出来ないけれど、先行投資は出来たわね」

「あんな簡単に渡して良かったのか? 市場に流せば良い金銭になったのだろう?」


 宿屋の部屋に戻った所でメイ達とこれからの方針を相談する。


「アルリウス、貴方は未来を見据えるべきよ?」

「ん?」

「わからないの? 今日、私達が入手した魔物の素材は、まだ迷宮にさえも届いていない雑魚なのよ? 幾ら現在は敵う冒険者が少ない強力な魔物だと言っても、この先、それこそ腐るほど溢れかえる品なの。そんな素材は早めに処理しておくに限るわ」


 更に贔屓にしている店が繁盛すれば尚良いじゃない。

 その分、店が儲かって良い物を作れるようになるんだから。

 鍛冶師や料理人だって新しい素材で練習……この世界風に言うなら、段位を上げる必要はあるんだもの。


「で、あると同時にシニアンの店が繁盛し、シニアンの腕と評判も上がるわ。上手く処理さえ出来れば、だけど。そこはシニアンの能力によるわね」


 何せ迷宮都市は武具が高騰しているのよ?

 その中で一際強力な武具がシニアンの店で売られていたら、どうなるかしら?

 フフ……人が群がる姿が容易く想像できるわ。


「装備が出回ればその分、他のリープッド達が生き残る確率が上がるわ。少なくとも初めて会った時のアルリウス達の様なリープッドが減る事になるんだもの」

「なるほど……理には叶った理由があるのだな」

「ええ。仮に上手くいってシニアンの店が繁盛すれば、私達はシニアンに大きな恩を売った事になるわ」


 こちらからすれば安い投資でも、シニアンからすれば大きな恩。

 自由に使える鍛冶屋を一つ手に入れたと考えれば、凄く良い買い物をしたと言っていいでしょうね。


「今回の戦いを鑑みるに、アーマリア様は沢山の武器を切り替えていく事になります。シニアン様と懇意の関係を築くのは今後の為にも良いと思いますわ」


 フラーニャがそう言って賛成してくれた。

 確かに今日の戦いだけで武器がボロボロになってしまっている。

 武器を修理したり、新調する事になるのだから武器屋とは良い関係を築いておいた方がいい。


「承知した。問題はこの高騰か……」


 そこはしょうがないわね。


 段位を上げればそれだけ強くなれる。

 何かあった際の事故とかにも対応できるかもしれない。


 そんな意識があれば平民であろうとも少しくらい段位をあげておきたい、という心理が働くのではなくて?

 自衛の意味もあるでしょう。

 これから犯罪者達も段位の力を使う事になるのですもの。

 対抗できる程の強さも必要。

 それこそ各国の騎士が押しかけているのも必然ね。


 教会はその辺りも把握しているのでしょう。

 私達が任された迷宮はその一部でしかないわ。

 これから人類の反撃の狼煙が上がっている状態が続く……出来る限り出遅れない様にしつつ、高騰状態の波に乗って大儲けをしないとね。


「シニアンの店に妙な連中が乗り込んで来たりしない様にしないといけませんわね。どこにでも難癖をつけてくる連中はいると思いますわ」

「人がそこまで腐っていると、アーマリア殿は言いたいのか?」

「権利や金銭というのはそういう物なのよ、アルリウス。何より、私の過去が語っているわ。成長途中のシニアンの店を襲えば良い儲けになると……ちょっと裏のコネを使って守りを固めるようにしましょう」


 アーマリアのコネクションの中には世の中の闇との繋がりがある。

 迷宮都市とはいえ、その辺りの繋がりが完全に切れたとは言えない。

 むしろアルミュール家が復権したのだから、その手の勢力も再度、繋がろうとするでしょう。


「お父様に連絡ね。投資をしても良い商売になる可能性は十分にありますわよ。腕が鳴りますわ。オホホホホ」

「さすがアーマリア様ですニャー!」

「シニアンさんはアーマリア様に見守られて、果報者ですね」

「羨ましいですニャー!」


 嫉妬の言葉を発するメイの顎を私は撫でるわ。


「ニャーン!」

「メイ、羨む必要なんてないのよ? 貴方は貴方なんだから。私は使える者には相応の援助をしているだけなのだからね」

「ニャアアアン……アーマリア様ぁああ……ゴロゴロ」


 フフフ……メイはこういう所が可愛らしいわ。

 絶対に幸せにしてあげないとね。

 困っている私に我が身を省みずに忠誠を見せた子なんだもの。

 他の子を嫉妬なんてしてはいけないわ。


「アーマリア殿は本当に善人なのか悪人なのかわかりかねるな……まあ、避けて通れない問題だというのはわかった」


 なんて感じでアルリウスも納得したみたいね。

 そんな訳で私はその日の内にお父様や関係各所に手紙を認めて送る事にしたわ。


 ああ、もちろん裏の方ともコンタクトを取る為に勘とかを駆使して裏の酒場などにいる、繋がりのある組織の構成員に手紙を渡しておいたわ。

 これでシニアンの店に妙な派閥からの干渉はなくなるわ。


 一番の問題は個人で来る傍若無人な冒険者とかでしょう。

 さすがにこの辺りは他の手段で撃退せざるを得ないわね。


「それじゃあ、そろそろ話はこれくらいにして明日に備えようではないか」

「わかったわ」


 アルリウスもやる気を見せているのね。

 大変だけど、楽しいと言う気持ちはわかるわ。


「私は剣を研いでおく。では」


 そう言ってアルリウスはメイと私の部屋から出て行った。

 フラーニャはどうするのかしら?

 まあ、丁度良いでしょう。


「今日は沢山動き回ったからメイはちょっと汚れちゃっているわね」

「ニャー……申し訳ないですニャー」

「良いのよ。いっぱい働いたって証だもの。メイ、久しぶりにブラッシングをしてあげるわ」

「ニャー!」


 メイの目がキラキラし始めた。

 私も嬉しくなるわ。

 アーマリアにとってリープッドのブラッシングはお酒を飲むのと同じようなストレス解消が出来る楽しみなのよ。


「フラーニャもどうかしら?」

「アーマリア様の毛づくろいはとてもお上手なのですニャ。気持ちよくてキラキラの毛並みにしてくれますニャ」

「それは素晴らしいですね。では、お願いしますわ。何分、毛づくろいにまだ慣れていないので」


 忘れそうになるけれど、フラーニャはアルリウスと同じく、リープッドになってしまったのですわ。

 記憶喪失だけど、毛づくろいの方法がわからないのは当然ですわね。

 顔回りというより、髪と認識出来る範囲をブラッシングしているのはわかるけれど、他の所は服でわからないもの。


「それじゃあ服を脱ぎなさい」

「ニャ……服をですか?」


 私の命令にフラーニャが恥ずかしそうに両手で守りの姿勢を取りますわね。

 リープッド族があまりしない反応よ。


「ええ、何を恥ずかしがっているの? 心配しないでも大丈夫。ブラッシングをするだけだもの」

「そ、そうですか……」


 私の言葉にフラーニャが服を脱いでくれましたわ。

 フフフフ……フラーニャの裸体ですわ。

 毛並みをピカピカにしてアルリウスをメロメロにして差し上げますわよ。


 ブラッシングを終えた後、アルリウスとフラーニャの部屋にコップを付けて聞き耳を立てる楽しみが待っているのですわ。

 私は窓にカーテンを掛けて部屋のカギを閉めた。

 どうやらフラーニャは恥かしいみたいだから、安心出来る様な配慮よ。


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