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三十話


「これをする私のメリットは?」

「もちろん魔物の討伐報酬、素材の売買など、全て倒した聖女様に権利があります。ただ……この迷宮の一般開放、情報開示を遅らせ、聖女様がしばらく独占する事が出来るとの話です。もちろん聖女様だけでは手に余るでしょうから、一部の者も出入りは致しますが……」


 つまり出入りの多い迷宮ではなく、極一部の限られた者が出入りを許可された限定の迷宮への案内ね。

 未知の迷宮故に危険は付き纏うけれど、今の私達からしたら悪い条件ではないわ。

 だって既存の迷宮の奥深くに潜って、他の冒険者たちと競い合うとかしなくて良いってことよ。


 前世の記憶にあるゲーム経験からすると、ほぼ狩り場独占状態。

 何より……階層主の取り合いはまず起こらない。

 これは乗らない手はないわね。


「問題は戦う魔物ね」


 家宝の鎧が通じない様な相手だったら洒落にならないわ。


「そこは十分にお試してからでも問題はないかと思います。当然の事ながら古い文献に記された資料の閲覧も許可いたしますので、どうかご一考、頂けないでしょうか?」

「いえ、ここは即決で行く方がいいわ。貴族として自らの領地を管理する者として迅速に行動する事の方が良いと判断するからよ」


 悪い話じゃない。

 他の凡夫共がセコセコと魔物を奪い合っている中で一人占めできる状況よ。利用しない手はないじゃないの。

 それにほとんど入る人がいない迷宮で遭遇した人がいたら邪神の使徒の可能性がグンと高まるじゃないの。


 良いわ!

 こんな感じの場所を求めていたのよ。


「場所を教えて頂戴。準備が整い次第、開拓を行うわよ」

「聖女様のお早い決断、感謝いたします」


 と言う訳で私は大司教と握手をして、話を受ける事にしたわ。


「アーマリア様の御心のままにニャ!」


 メイも賛成みたいね。

 こうして、私はしばらくの間、ほぼ専属の迷宮に挑む権利を頂いたのですわ。


 



 そうして大司教から話を終えて、何やら実家からの届け物を荷車毎受け取った私は宿屋に戻って皆の元に帰ってきた。


「みんな、喜びなさい! 裏取引をしてきたわ!」

「一体何をしたのだ!?」


 私がそう言うなりアルリウスが不満そうな声を返した。

 一体何が不満だと言うのかしら?


「アーマリア様、ちょっと待っていてほしいニャ。アルリウス、事情を説明するから聞いて欲しいのニャ。フラーニャもこっちに来るのニャ」


 何故かメイが間に入ってアルリウスとフラーニャと三人で部屋の隅で話を始めたわ。

 いや、その説明を私がしたいと思っていたのだけれど?

 こういう場合、従者……使い魔であるメイが説明するのもわからなくもないけれど、どうなのかしら。

 やがて何やら脱力したようにアルリウスがやってきた。


「つまり教会の者達に頼まれて未開の迷宮開拓を頼まれたという事なのだな?」

「そうよ」

「アーマリア殿はどうしてそうも耳当たりの悪い説明をするのだ……」


 あら? 何か誤解でもしたのかしら?

 裏取引なのは事実ですわよ?

 だって私達に非常に有利だけれど、他の冒険者からしたら嫉妬する案件ですもの。


「教会とギルドからの信用から指定依頼を受けたと言えば風聞は良いだろうに」

「そういう言い方もあるわね。けれど、私は裏取引と言った方が気持ちが良いわ」

「アルリウス、アーマリア様も間違ってはいないニャ」

「解釈の違いでしかないとは思うが……不器用な」


 何よ? 何か文句があるのかしら?

 まあ良いわ。

 アルリウスはかわいいし、凛々しくてかっこいいから許してあげる。


「それで、その未開迷宮というのは大丈夫なのか?」

「その辺りは調査をしなくちゃいけないわね。難しかったら断れば良いだけよ。段位を上げて行けばいずれ一般冒険者だってこんな感じの依頼をする時が来るのでしょうからね」

「ふむ……わかった」

「とりあえず私が前に立って戦って見れば良いだけなのよ」

「アーマリア様、勇ましいニャー!」


 やんややんやとメイが私を持ち上げてくれる。

 ふふん。良い気分ね。

 後で一杯メイを撫でまわしたいわ。


「とりあえず行ってみたいと思うのだけど……その前に私の家から送られてきた物資の整理が先ね。荷車を裏手の馬小屋に回しておいたから何があるのか確認しましょう」

「アーマリア殿の家からの援助があるだけでも助かる」

「そうですわね」


 なんて様子で私達は荷車の元に向かって何が運ばれてきたのかを確認する事にしたわ。

 荷車に被せて合った布を剥ぐと大きめな木箱が三個、一箱開けると布に包まれた何かが何個か収められていた。


「何かしらね? これ」


 まず気になるのは布に包まれている代物。

 妙に重たいみたいで……布を取るのも面倒。

 しょうがないので家宝の鎧に入って持ち上げてみるわ。

 あ、持ち手があるのがわかるわね。


 布を剥いで中を確認。

 するとそこには大きくて禍々しい意匠が掘られた斧……バトルアックスだったわ。


 なんか高そうなバトルアックスね。

 ポンポンと家宝の鎧で持ち直して構えを取ってみるわ。


「アーマリア殿の父上が送ってきた武器か。随分と重くて強力な斧であるな」

「そうね。オーダーメイド品かしら?」


 少なくとも実家の宝物庫でこんな物は見た事がない。

 ピカピカ具合から間違いなく新調した代物だろうって事くらいはわかるわ。 


「これは間違いなくアーマリア殿しか使えない代物だろう……」


 アルリウスもコメントに困っているわね。

 まあ、こんな大きな斧を送っても用途は一つしかないでしょう。


「まあ、叩きつけるという簡単な動作で行けるから大丈夫かしらね」

「試すのは良いかもしれない。飛ぶ小手での攻撃よりも強力そうだ」

「アルリウスに当たらない様に注意しないとね」

「大丈夫だ。目と早さには自信がある。まさか残りも似た様な代物なのか?」

「そのようね。こっちはグレートソードかしら?」


 似た様な意匠の禍々しい剣が出てきたわ。

 これを振って戦えって事かしら?

 あの鎧の武器としては丁度良いのは事実ね。


 とまあ、近接としてアルリウスと打ち合わせをしている間にメイとフラーニャが残りの木箱を開ける。


「ニャー、迷宮に挑む為の野営セットや非常食がこっちには入っているニャ」

「こちらは傷薬等の消耗品です。後は何故か調度品やツボなどが入っていますわ」


 あー……それはきっとスピナーハンドなりの私への気遣いかしらね?

 宿屋とかどこかを拠点にしていると想像して、そこに飾る様って感じのやつ。


「装備の類はないのかしら? 出来ればメイやアルリウス達にもっと良い装備を支給させたかったのだけど」

「見た所無いですニャ」


 あの親父……私以外は割と適当だわ。

 貴族なんてそんな物なのかもしれないけれど、もう少し何とかしてほしいわね。


「あ、これは便利な物が入っているニャ。奮発しているのニャ」


 と……メイが木箱の中に入っていたウエストポーチみたいな代物を出し、中の物を見せる。

 トランプみたいな大きさのカードだった。


「コレは何かしら?」

「これはインスタントマジックカードですニャ。普通に唱えるのが難しい魔法が込められていて、必要になったら魔力を込めると発動しますニャ」

「へー……便利な物があるのね」

「段位神ヴィムヌス様が解放されるまでは深い階層に行くには必須の代物だったのですニャ」


 ああ、もしかしてこのインスタントマジックカードで強力な魔法を使って魔物を倒してどうにかしていたとかそんな感じ?

 冒険者って出費が激しそうね。


「見てほしいですニャ。ここには伝承にある神様の絵が記されているのですニャ。これが浄水のカードで井戸神フロッド様が記されていますニャ」


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