十六話
「何!? 貴様! 私達が何者かを知っているのか!」
風斬りの剣を構えるアルリウスが殺気を放ち、飛びかかる機会を伺う。
――リープッドとなった?
そこ、ちょっと詳しく教えてくださらない?
首が絞められているのに、私はそこに考えが行ってしまう。
「アルリウス、メイ!」
フラーニャもやる気なのか、二人に補助魔法を施そうと近づいて陣形を組んでいる。
「今すぐアーマリア様への無体な事をやめるのニャ! 中級使い魔法ニャ!」
メイがさっきも使った雷の魔法を放って行き、アルリウスが大きく飛び上がって縦回転で斬り掛って息もつかせぬ連携攻撃を行なう。
「ふん……ここの階層主を倒したと言うからどれだけの力を持っているのかと思ったが、この程度か」
メイの電撃を手で弾き、アルリウスの攻撃を見切って避けるジェイド。
その動きは恐ろしく早く、実力の違いを私達に見せつけてきた。
これが監視役……本物の冒険者との実力の違いだと言うの?
「ごめんなさい。私もまだ解き放たれた直後で力が出なくて……ですが後少しです……」
ヴィヌムスが私の首に掛った紋様の拘束を更に弱めてくれる。
「ハッ!」
ここでジェイドに向けてフラーニャが素早く回り込んで死角から光弾を放つ。
「何!? だが、この程度――」
予想外の死角から放たれた魔法の一撃に僅かによろめいた所をアルリウスが見逃さなかった。
剣を大きく上に掲げて袈裟切りで駆け抜ける。
「その隙を私は見逃さない。あまり人を舐めぬべきだ」
スチャッと剣を振ってアルリウスは言い切る。
「うぐっ……舐めるな!」
と、ジェイドが切られながらも怒りに満ちた表情でアルリウスに向けて剣を抜いて切りかかろうとしたその時。
私は……首を絞められているけれど、見ている事なんて出来ない。
なので手を向けて突き出す。
行け! アルミュール・ヴァンブレイス!
「ふべ――!?」
バシュッと鎧から前腕が射出されてジェイドに命中した。
ドンと良い感じに吹っ飛んだジェイドがそのまま何度も弾みながら転がっていく。
「アーマリア様!」
メイが援護射撃をした私の方を見て声を掛けてくれる。
「だ、だいじょう……ぶ」
「助かった。アーマリア殿」
「アーマリア様、ご無事ですか?」
「これが無事だと思うのか、しら?」
ちょっと余裕がなくてきつく言い返してしまう。
そんなつもりはないの。
だけど、首が絞められていて物凄く苦しい……死にそう。
「結果的にとはいえ、監視役を倒しちゃったニャ……どうしたらいいニャ?」
メイが監視役だったジェイドの方を向いて後ろ足で砂を掻いている。
気持ちは非常にわかるわ。
「何やら事情があるようだし、このような無礼な事を許すわけにはいかない。私達の事も知っている様だし、情報を吐かせるべきだと思う。私も出来る限り事情を説明しよう」
「そうですわ。どちらにしてもアーマリア様とヴィヌムス様を助けるのが先決――」
と言う所で倒れているジェイドから黒い……トライヘッドが纏っていた何かをより濃くした様な物が噴出し、纏わりついてふわりと浮かびながら立ち上がる。
その姿は……禍々しく、先程のジェイドの姿とはまるで異なる別人の様な形相をしていた。
強そうな黒い鎧を着込み、黒く光る剣を持っている。
ヒーロー戦隊の悪の幹部みたいな感じよ。
正体を現したと表現するのがピッタリね。
「まさかここまでやるとは思いもしなかったぞ。なるほど、不自然な程に強い鎧を所持している様だな。だからこそこんな事態になったとは……我等が邪神の使徒に敵うと思っていたのか。実力の違いを身をもって教えてやろう!」
アルリウスが風斬りの剣で切りかかるのだけど、ジェイドは避ける事もなく受け止めた。
どこを切っても火花が散るだけで傷一つ付かない。
「ニャー!」
メイが雷の魔法を放つのだけど、黒いオーラの様な物に阻まれて届いてすらいない。
『邪神の波動を検知……レストリクシオンモードの解除申請』
ここで鎧の視界にそんな文字が浮かび上がる。
レストリクシオン? なにかしらコレ。
「許可します」
ヴィヌムスがそう答える。
「所詮は加護無き者の力などこの程度。あの鎧を着た女となら、まだ楽しめるかもしれんが……そんな事をする必要もない」
「化け物か!」
「ふん!」
カッと黒い衝撃波を出すだけでアルリウスとメイ、フラーニャが同じ所に吹き飛ばされてしまう。
「ニャアアア!?」
「くぅうううう!?」
「きゃあああああああ!?」
吹き飛ばされ、立ち上がろうとしている三人に向かってジェイドが黒い剣に力を込めて闇っぽい力を増大させて大きな闇の玉を作り出し射出する。
「闇に飲まれ、跡形もなく消えされ! はあああああああ!」
ちょっと!
私のリープッド達に何をしようとしているのよ!
「危ない!」
私は首が絞められた痛みを忘れ、そのまま皆を守るように前に出る。
「間にあの犯罪者が割り込むとは……ふん。雑魚共を一網打尽に出来たか……まあ良い。フフフ、フハハハハハハ!」
煙が立った状態でジェイドがヴィヌムスの方に体を向けて言いましたわね。
「――誰が一網打尽ですって?」
「ハハハ……何!?」
私の声を聞いてジェイドが驚きの声を上げる。
煙が去った所で私は姿を現しますわよ。
みんなを守る為に両腕を交差して守る雄々しい、私の姿がね!
「アーマリア様!」
「おお……助かった」
「助かりましたわ。アーマリア様、お怪我は?」
「ちょっと首が締まって息苦しいけど、大丈夫よ」
「アーマリア様! 鎧の形状が変わっているのニャ!」
あら? そうなの?
私は鎧の姿を確認する。
今まで着ていたはずの鎧が淡く光っており、なんか色々と装飾が増えている様な気がするわね。
なんていうのかしら?
神聖な騎士みたいな神々しい鎧になっている気がするわ。
もしかしてこれがレストリクシオンモードの解除という事なの?
ヴィヌムス様の方を見ると優しく微笑んで応援しているように見える。
神様というのは本当の様ね。
なんて事よりも……まず、私は自身の怒りの感情を優先するわ。
ジェイドの方を向いて、その怒りを爆発させる。
「犯罪者である私を痛めつけるだけならいざ知らず、神様の拘束をしていたなんて、理不尽で身勝手な重罪まで犯しているなんてね。けれどそんな事、貴方がしようとした事に比べれば瑣末な事よ!」
「瑣末な事!? ふざけるな! 貴様! この私の攻撃を耐えるとは一体何者だ! ただの貴族の犯罪者ではないな!」
「そんな事はどうでもいいのよ!」
「どうでもいい、だと!?」
「貴方はね、とても罪深い事をしようとしたの。リープッド達を身勝手に殺そうとした……その罪、万死に値しますわ!」
私は怒りの感情の赴くままに叫んだ。
と、同時に家宝の鎧の視界に武器のマークが浮かぶ。
これを撃てという事ね。
なんとなく何が出るのかわかりますわ。
怒りに任せて全力で行くわよ!
構えると同時にガシャンと音を立てて家宝の鎧の胸部分が光り、その光が収束したかと思うとターゲットアイコンにジェイドが浮かんだので、私は叫ぶ。
「アルミュール・ブラスター!」
私の声に応じた様に胸の部分の飾りから極太の光の奔流が放たれた。
「な、うわ――バカな……バカなぁああああああああああぁぁぁぁ――…………!?」
その光の奔流に避ける暇もなくジェイドは飲まれ、塵すら残らず消し飛ばされた。
「跡も残らないだけ……ゴミよりマシな死にざまね。オホホホホホホ!」
報いを受けさせてやりましたわ!
後悔は全くないですわよ!
そう、高笑いをしていると首の締まりが収まり、ヴィヌムスを縛っていた鎖が完全に解けると同時に、逃亡阻止の結界が弾ける。
完全にジェイドを仕留める事が出来たみたいね。
相応しい末路ですわ!




