十四話
そうして10階……絶好調でやってこれた。
まだアルリウス達とパーティーを組んでそんなに時間は掛っていないわね。
「もう10階か……もう少し時間が掛るかと思っていた」
「6階までの道のりがとても長かったですからね……戦いの連続でしたのに……」
「それでメイ、10階は……」
私は10階の階層主が居ると言う階層を見渡す。
やや大きめのドームみたいな場所ね。
奥の方には神殿みたいな建物があるように見える。
……ドームの中心には大きな柱があって……鎖が部屋を囲っている。
その柱には何か四角い黒板みたいな物があるみたいね。
「ここは階層主が出てくる場所ニャ。この線を越えて一定時間すると魔素が集まって階層主が出現するのニャ」
「なるほど」
「アルリウス達が目指しているのはあそこにある建物の部屋だと思うのニャが、まずは階層主を倒すのが先ニャ」
「承知した。そう安々とは入る事が出来ないのだな」
「そのようですね」
「後は……そうニャ。階層主に挑む際には他の魔物とは異なる仕組みが迷宮にはあるのニャ」
おや? 何かあるのかしら?
こういう場合、人がやってくると待ち構えているみたいに現れるという流れだと思ったのだけれど。
メイは私が見ていた柱に付いている黒板を指差す。
「階層主が出現する前にあそこが光るのニャ。そうして浮かび上がった文字に記された代物が階層主討伐後に出てくるそうだニャ。この階層主討伐で出た報酬が、迷宮でのご褒美みたいなものニャね」
何その先にドロップする物を教えてくれますよ、みたいな仕組み。
……まあ、良いわ。そういうものなんでしょう。
不思議な迷宮の階層主、ボスなんだから何の不思議もないわよね。
「うむ……では挑む事にしよう。フラーニャ、補助魔法を頼む」
「はい」
アルリウスの指示でフラーニャは私達に補助魔法を施してくれた。
さあ、フラーニャの施した魔法が切れる前に階層主に挑む事にしましょう。
そうして階層主が出るラインを越えるとそのラインの場所から光る壁みたいな物が生成された。
「階層主を相手にする場合、逃走するのは難しいのニャ。普通はこの壁を一分間押し続けると通過出来るそうニャ」
逃亡は壁を一分間押し続けるね……確かにそれは難しいわ。
仮に階層主を無視して進むとするなら、誰か足止めなり何なり犠牲にならなきゃいけない、と。
「別の方法もある様な言い回しだな」
「この防壁を壊す道具や魔法があるそうニャ。だけど習得や入手は難しいのニャ……」
安易に階層主に挑む様な真似はするなって事なのね。
「ともかく気を引き締めるわよ」
と言う所で黒板の部分が淡い光を放ちながら……なんか文字がドラムロールしていく。
えっと、五つある黒板の内、三つが光っている。
後……鎧に入っている私の腕輪が合わせて光っているのだけど……?
カタンカタンカタンと三つの動きが止まった。
風斬りの剣
銀貨80枚
封神の楔
「風斬り剣……どう見ても武器ね。銀貨80枚ってお金も手に入るのね。で……封神の楔とは何かしら?」
剣の方は何となくわかる。
銀貨80枚は説明するまでもないでしょう。
けれど銀貨80枚が九割取られても結構な額になる。
そう思うとちょっと楽しい気分になるわね。
で、最後に表示されている封神の楔。
これはどんな物なのか全く想像出来ない。
「ニャ? 聞いた事が無い名前だニャ。なんニャ?」
「さあ……?」
と言う所でゴゴゴと音を立てて黒い影が集約していく。
現れたのは三つ首の大蛇……だった。
大きさは家宝の鎧を着込んだ私よりも大きい……頭を上げたその姿は、七メートルは優にあるわ。
「シャアアアアア……」
蛇独特の舌の動きをさせながら三つ首の大蛇はこちらに悠々と近づいてくる。
「トライヘッドだニャ! それぞれの頭から三つの属性の息を吐く厄介な階層主だって話なのニャ」
三つの大蛇ってだけでも厄介だと言うのに……これは苦戦しそうね。
「まず私が先陣を切るわ! みんな各々絶対に攻撃を受けない様に注意するのよ!」
「もちろんだ」
「がんばるニャ!」
「はい!」
三人の声を聞いてから私は大蛇の頭を狙って腕を構える。
「アルミュール・ヴァンブレイス!」
バシュッとロケットパンチとばかりに前腕をトライヘッドの頭に向かって発射!
家宝の鎧の腕は狙い通りにトライヘッドの頭の一つに命中する。
「シャアア!?」
ガクーンと頭の一つが大きくのけ反るが、攻撃された怒りにまかせて残り二つの頭が私目掛けて火と氷の息をそれぞれの頭が吐いて来た。
「はぁあああああ!」
狙って来るのはわかっていたのでローラーで加速して炎と氷の息を避ける。
「隙だらけなのニャ! 中級使い魔法なのニャ!」
メイがロッドを振るうとその先から光が飛びだし、大きくなってキラキラとトライヘッドの胴体に命中する。
ビスビスビスと良い音がするわ。
「こっちも行かせてもらう!」
アルリウスはトライヘッドの尻尾経由で背中に飛び移り、炎を吐いている頭に剣を振りおろす。
ガキンと良い音がしたけれど、刺すことに成功している。
「シャアアアア!」
剣で突かれて痛みを覚えたのか、アルリウスに向かって炎を吐いていた頭がパクッと噛みつかんとしているが、見切ったアルリウスが紙一重で避けて着地し、距離を取る。
猫の様な機敏な動きね。
「シャ、シャアアアアアアアアアアア!」
ここで私がアルミュール・ヴァンブレイスでのけ反らせた頭が我に返り、毒の息を周囲にまき散らす。
毒の煙でトライヘッドが見辛くなってきた。
煙の中で蠢き、攻撃のタイミングが分からない様にしている様ね。
「アルリウス、アーマリア様!」
フラーニャが補助魔法で私達の速度を上昇させ、トライヘッドの攻撃を避けやすくしてくれる。
「当たればどこだって良いわ! アルミュール・ヴァンブレイス!」
再度バシュッと両方の前腕を飛ばし、トライヘッドに攻撃しながら駆け寄る。
「待て! むやみな突撃は危険だ!」
「シャアア!」
身体に両腕が命中して多少よろけたトライヘッドだけれど、前腕が戻ってくるのとほぼ同時に毒の煙の中からトライヘッドがその胴体で私に絡み付き、ぐるぐるに締め上げてくる。
「はああああああああ! させるものですかぁあああああ!」
ギギギ……と、家宝の鎧の腕力で締め上げる力に対抗しつつ、足で補佐して片方の腕を開け、再度アルミュール・ヴァンブレイスでトライヘッドが毒の息を吹きつける口にぶっ放してやる。
「シャガ――」
ドチュっと良い手応えのある音が聞こえ、ゲホゲホとトライヘッドの毒を吐いていた頭の下あごを撃ち貫く。
「シャ、シャ……!?」
思わぬ一撃だったのか、トライヘッドは目を白黒とさせるかのようにのた打ち回り始めた。
「今よ!」
「う、うむ! なんて雄々しい姿だ!」
「アーマリア様、強過ぎですニャ。ですがこの道中を思えば何の不思議もないのニャ!」
「とても勇ましいですわ。ですが、念のために解毒の魔法を唱えます。アルリウスも」
「もちろんだ。行かせてもらう! アルム流剣術……スピンスラッシュ!」
くるくると竜巻を連想する様な綺麗な回転でアルリウスはのた打ち回るトライヘッドを切り刻んで行くわ。
私も負けていられないわね!
パンチ! キック!
パンチパンチパンチ!
「は! てりゃ! しぶといわね! さっさとくたばりなさいな! 貴方はなんで生きているのかしら? 早く死になさい! 私の目の前で死ぬ事が貴方の存在価値なのよ! アハハハハハハハ!」
「アーマリア様、言ってる事が怖いニャ……」
「うむ……とても野生的なセリフだ」
「あらまあ……」
三人が何か言っているけれど、畳みかけるなら今しかないのよ。
私は好機を逃す様な愚か者ではないのですわ。




