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1-9

呆然と空を見上げる俺だったが、それを許す状況ではなかった。悪魔がこちらを向いたのだ。飛び立っていったジェイクと使役を追いかける気はさすがにないらしい。カブトはこちらをじっと見つめており、自分から動く気配はない。


ジェイクは、舌をやる、といった。そしてその後何故かうめき声しか出さなくなった。

いや、何故か、など、考えたらわかることだ。ヒントはあった。


なら俺がやることは…


「か、カブト…指、でいいか?」


『イイダロウ。命令シロ』


間違っていなかったようだ。だが、命令したら契約成立、俺の指は…おそらく…

いや、俺とこの周辺の人々の命、それと指一本、天秤にかけるまでもない。


「あの悪魔を倒せ!」


『了解シタ』


その声はひどく楽しげで、喜びに満ちていた。

カブトが悪魔に向かっていったのと、俺の左手の小指に黒い霧がかかったのは同時だった。


霧を振り払おうと手を振ったが、霧は小指から離れることはなく、それどころか小指に吸収されるようにして消えた。後に残ったのは予想通り、黒く染まった俺の小指だけ。


その間に戦況は大きく変わっていた。カブトが己の大きく鋭い爪をどうやってか更に大きくして悪魔に突き立てたのだ。質量保存の法則など、悪魔の世界にはないらしい。

そして驚くことに、ジェイクの使役が苦労していた堅い装甲を、クレープの生地でも裂くかのように切り裂いてしまった。

悪魔が声にならない悲鳴を上げている。とても耳障りな音だ。

カブトはそれでも容赦なく切り裂いた傷口に両手を深く突っ込んだ。そして…


『終ワリダ』


突っ込んだ両腕を大きく広げた。悪魔は傷口から真っ二つになり、地面に向かって落ちていく。

先ほどまでの耳障りな悲鳴はぴたりと止んでいた。

ふと思う、悪魔が地面に落ちるとき、どんな音がするのだろうと。命のつきた悪魔の、その重量はどんなものなのだろうかと。

だがその疑問を解決することは出来なかった。悪魔は地面に落ちる前に黒い霧となって消えてしまったのだから。その黒い霧は己の小指に絡まっていたものによく似ていて。

でもそれ以上考えるのは良くない気がした。


『終ワッタゾ』


「あ、ああ。ありがとう」


心なしかカブトが誇らしげに見える。よくよく考えたらコレがカブトにとっても初仕事なわけで。つつがなく成功したことをやはり褒めるべきなのだろう。

それにもし顔があったらどや顔してるに違いないカブトは非情に可愛く見えた。

というか先輩悪魔が苦労していた敵をあっさり倒すうちのカブト強すぎでは?

強くて可愛いとかうちのカブト最強では?


そんな馬鹿なことを考えていたので、ついついにやけ顔でカブトを見ていたらしい。


『オ前、気持チ悪イゾ』


「うちの悪魔はやっぱ可愛くない!!」


それで結構、と言わんばかりの雰囲気である。もうちょっと可愛くしてたらたくさん褒めてやったのに。


そして徐に思い出す。俺たちを残して逃げてったジェイクの存在を。

先輩としての責務は全く果たしてくれなかったものの、あいつのヒントがあったからなんとかなったのもまた事実。

支部に言いつけるのは勘弁しといてやろうかな。


なんて軽い気持ちで考えていたのだが。


支部に戻った俺に下されたのはジェイクの捜索で、ジェイクのピアス型発信器が一カ所を示して動かないことから、全身が不自由なジェイクが困っているかもしれないとのことだった。

正直かなり行きたくないのだが…仕方ない、ここは借りを作る気持ちで行ってくるか…


「カブト、ジェイクの場所まで俺を抱えてひとっ飛びでいってくんない?」


『対価』


「やっぱりいいです!」


なんてくだらない会話をしたり、黒く染まった小指の具合を確かめたりしながらジェイクの元へ向かう。

小指は俺の意思では動かないし、感覚もない。だが右手でつまんで曲げてみたりは出来たので、固まってるわけではなさそうだった。


「発信器はこの辺をさしてるみたいなんだが…」


そこは人など滅多に入らないであろう路地だった。

ゴミが多少散らばってるくらいで、ジェイクの存在は見つけられない。


『ヨク見ロ』


「え?」


『ソコダ』


カブトが指を指す場所をよく見てみる。そこにはこんな路地に不釣り合いな肌色があった。

だが、非情に小さく、どう見たって人ではない…近づいてわかった、それは耳だった。

発信器も兼ねたピアスがついたそれはおそらく、ジェイクのものなのだろう。

でも何故耳だけが…正直直接触るのもためらわれて、ハンカチを使って拾い上げる。

ジェイクとジェイクの使役はどこに行ってしまったのか。

疑問を支部で聞いてみた。


「二択でしょうね」


「二択?」


「ひとつは、別の悪魔に見つかってしまい、保護された耳以外は食べられてしまった可能性」


「でも、戦闘の痕はありませんでした」


「ならもう一つ。この仕事が嫌になってしまったんでしょうね。ピアスと耳だけ残せば死亡確認されたことになるのが基本です。それを利用して、耳を切り落として逃げ出す、そういう人がいるので困っているんですよ」


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