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1-8

悪魔と戦い生き残るには自分を対価にするしかない。嬉しそうに顔を歪ませてそう言うジェイクに、極限状態でのふざけきった情報に思考もままならず条件反射で返す。


「自分を対価ったって、どうすりゃいいんだよ?」

「煩ぇなあ。悪魔がこっち気づいちまったぞ」


自分をささげるという意味が分からず、というよりは受け入れることができず、しかし戦わなくてはいけない焦りからジェイドに詰め寄るしかない。そんな俺の背後を注視して奴はすぐさま逃げの体制をとる。

悪魔という危険に背を向けてしまっていたことに気づき振り向くと、こちらに体を向けうなるそれに小さく悲鳴を漏らすしかなかった。


「早くしろ。指先の少しくらいやったって困りやしねぇ」


焦燥感を浮かべたジェイクは、もう悪魔に気づかれてしまったことで吹っ切れたのか俺に叫ぶ。指先の少しってどういうことだ、とこの期に及んで要領を得ない説明に苛立ちが募る。

これでは戦うこともままならない。そう考えてジェイドと同様逃げることを選択するが、自分たちが来たところに戻ってしまえば大勢の人がいる。悪魔を引き連れていくわけにもいくまい。

どの方角を目指せばよいのかさえ分からない状況に、土地勘のなさを恨めしく思う。


「てめぇ、付いてくるな。戦えって言っただろ」


それでも、とにかく滑らかに車いすを動かして逃げていくジェイクの後を追い、悪魔から離れようとする。

その目を離し足を踏み出した一瞬で、俺が立っていた場所は大きくえぐられていた。

間近に感じる威圧感。

涼しい顔をした(表情なんて見えないが)悪魔は俺に狙いを定めたかに見えて、足がすくみ動けなくなる。


『オイ、動ケ。喰ワレルンジャナイ』


「そんなこと言われても」


長い尾のようなものを大きくしならせて地面にたたきつけ、こちらにそのかぎづめを伸ばすタイミングを狙っている悪魔から目を離さずに、カブトにいらえる。最後の会話がこれかよ。

もう命を諦めかけたところで、しかし、悪魔は逃げようとしていたジェイクを目にとめた。

この悪魔には、より多くの獲物をしとめるために動ける人間を先に喰おうとする知恵があるようだ。俺が委縮して動けないでいることに気づいている。


瞬く間に離れていたジェイクとの距離を詰めた悪魔は、車いすごと奴を引き倒し大きな片手で肩から首にかけて抑えつけた。

必死で体をばたつかせようとする動きを見せるジェイクだが、四肢のほとんどが動かない彼では悪魔へのささやかな抵抗にもなっていない。

使役悪魔はその様子を近くで眺めている。何かを待つように。


「ふざけんじゃねぇ。なんでこんな足手まといがいるときに知恵ありだよ。おい悪魔、助けろ、戦え、舌をやる」


『ワカッタ』


途端、わめいていたジェイクの口から黒い靄が沸き上がり、あとはうめき声が聞こえるばかりとなる。

その傍らにいた使役悪魔が羽で薙ぎ、ジェイクから悪魔が離れた。

悪魔同士、間合いを測りながら次の攻撃を仕掛けため、相手の隙を伺う。

使役の方が先に手を出した。その翼で一瞬で間合いを無きものとしたその風に煽られて、尻もちをつき唖然とその戦いを見守る。

悪魔は傭兵のような身のこなしで戦いに慣れていて、使役の力押しも鉤づめや鞭のようにしなる尾の素早い攻撃に精彩を欠く。

小さな体に不釣り合いな大きな翼でどうにか戦う使役悪魔だが、その実戦いは防戦一方である。先に手を出したものの、相手に隙がないため逆に自身の隙を作ってしまう結果となっていた。


「ウーッ」


ジェイクは引き倒されたまま、車いすを立て直すこともできず匍匐前進の体で肩をよじらせ離れようとするが、その口からはあの憎たらしい罵声は発せられない。

助けなくてはいけない、違和感だって気づいてしまった不快な結論だってある、しかし身がすくんだ俺の体は脳の指令に従わない。

その時だ、ひと際大きな音を立ててはじけ飛ばされたジェイクの使役は離れようともがく奴のすぐ近くに転がった。そしてジェイクにこういった。


『キット負ケル。俺ノ欲シイモノ』


その言葉に目を見開いたジェイクは恐怖にひきつった顔をどうにか動かして悪魔と自身の使役を交互に見やり、意を決したようにうなり声をあげながら首を縦に振る。


『ヤットダ』


使役の仮面の下、小さく浮かべられた口元の笑みに気を取られているうちに、彼らはその大きな翼ではるか上空へと舞い上がる。あとは、小さな影が見えるばかりとなった。


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