野菜の夢は、カレーかシチューか
ジャガイモ、タマネギ、ニンジン――さて、皆さんはどんな料理を作りますか?
冷蔵庫の中は、今日も賑やか。
特に野菜室は、大勢の新入りでごった返している。
「あら、先ほどのスーパーでお隣にいらっしゃいませんでしたこと?」
血色のよいニンジンちゃんに声をかけられたのは、ジャガイモ界のイケメン、メークインくん。ツルリとした肌に崩れにくい姿が、人間界のマダム達にも大人気という噂だ。
メークインくんは、かっこよく微笑むと、かたわらのタマネギくんを見ながら呟く。
「そういえば、一緒に牛肉のパックもいたみたいだけど、僕達、やっぱカレーになるのかなぁ」
「えー、俺、シチューになりてぇのによォ」
タマネギくんは口を尖らせたが、下膨れを通り越し、横に丸長い顔立ちなので、迫力がない。
「私はカレーになりたいですわ。だって、一番仲間外れにされにくいんですもの」
野菜界ではマドンナ的な存在なのに、なぜか人間界でつまはじきにされがちなことを、ニンジンちゃんは密かに悩んでいたのだ。
「僕はクリームシチューがいいな。せっかく泥を落としてきれいになったのに、また茶色くなるのはゴメンだね」
牛肉は、別の料理に使うかもというのが、メークインくんの考えだった。
「いや、絶対ビーフシチューだし」
「カレーですわ!」
「クリームシチューだ!」
「テメェら、ざけんなよ!」
「何だと、豚まんモドキが偉そうに!」
「吹き出物ヤローがデカイ口叩くんじゃねェ!」
「あなた達、お下品ですわよ!」
「うるせェ!黙ってろ、この逆三角女!」
「まぁ、何ですって!」
ニンジンとメークインとタマネギ……3つの視線が交錯する。冷蔵庫の野菜室は、一触即発の緊張感に包まれた。
「よし、こうなったら賭けようぜ」
タマネギが提案する。
「望みどおりの料理になった奴が、今回の料理の支配者てことでどうだ?」
ニンジンとメークインが頷く――
※
「なぁ」
タマネギが呼びかける。
「なんだよ」
メークインが、モゴモゴと返事をする。
「この状況、どう判断すりゃいいんだ?」
「どうと言われても……何でこんなことになったのやら」
タマネギの質問に、メークインはヤケクソ気味に答える。
「もう耐えられませんわっ!」
とうとう、ニンジンがヒステリーを起こした。
「真っ暗で、息苦しくて、こんな生活、もういやっ!」
※
「お母さん、みてみて、芽が出てきたよ」
「あら、ホント。タマネギみたいね」
「あーよかった、これで『理科の実験』の宿題はなんとかなりそう」
「他のも芽が出るといいわね」
少女と母親が屈んで、にこやかに眺める先には――「ニンジン」「タマネギ」「ジャガイモ」と書かれたネームプレートが刺さったプランターが置かれていた。
<了>
ちなみに、私は「豚汁」を作ろっかな。
息子は「ポテト入り牛丼」を作るそうな。(どういうセンスしてんねん!)