さらに出会い
『たった今○○地方で震度4の地震が発生しました。この地震による津波の心配はありません。繰り返します。……』
「おい、私がやるから触るんじゃないぞ。」
割れた食器を片付けながら、シオンはふと揺れが始まる前に起こったエモの体の変化を思い出した。
「……この地震まさかお前がやったなんて言わないよな」
振り返り訊ねると、少女はキョトンとした顔になる。
「なんのこと?シオン頭でも打ったの?」
エモはこめかみをトントンと指で叩き、馬鹿にしたような目でこちらを見てきた。
再び新聞紙を丸めエモのデコに目がけて、さっきよりはかなり手加減して、それを振りおろす。
「あいた!」
「大人にそんな顔しちゃいけません。」
「むー、仕返し!」
頬を膨らませたエモは、シオンの手から新聞紙を奪い取ると、それを彼女のお腹目がけて、打ちつけたーー
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黒いスーツを着た男がちいさな一軒家の前で立ち止まり、メガネをかけ直す。
「ここかな、震源地は。」
彼がインターホンへ手を伸ばそうとしたその時
木製のドアを激しく突き破り、若い女性が吹っ飛んできて、さらに向かいの家の外壁を突き破っていった。
瓦礫と土煙が辺りに広がる。
「え゜?ちょ、ちょっと大丈夫?」
男は慌てて女性に駆け寄る。
膝をつき立ち上がろうとしていた女性は男に気がつくと、少しだけ微笑んだ。
「あぁ、お客さん?ごめんね、後にして……。ブフ。」
女性は口から真っ赤な血を吐き出した。
男は女性を支える。
「一体何があったんだい。」
「丸めた新聞紙でお腹を殴られた、ただそれだけのはずだ……。ははっ、意味分からねえだろ?」
男は再び眼鏡をかけ直す。
「いや、了解した。」
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シオンは男が落ち着き払っていることに驚いていた。
「は?お前何言って……」
男はメガネを更にかけ直す。
「この世界は狂い始めてる。人にもともと備わっていたものが、不思議な力を持ち始めたんだ。感情だよ。それが具現化し始めたんだ。恐らく君がただの新聞紙にそれだけのダメージを受けたのは、対象者の″怒り″のせいだよ。ただ発現の割合がおかしい奴らがちょこちょこいてね。僕らはそいつらを……。まぁこんなことは後でいい。とにかく、君を治さないとね。」
男は話を終えると、ゆっくりと女性に向き直り、メガネを再びかけ直す。
「な、なにしようってんだ。」
男がゆっくりと顔を近づけてくる。
「なーに、すぐ終わるよ。」
フワッと漂ってきた整髪料の香り。
朦朧としてきた意識の中で最後に感じたのはそれだった。
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ーーあぁ、僕の大事なマリアンヌ!どうか目を覚ましておくれ!あぁ!!
意識の奥から響いてくる声。
なんの悲劇だよ。
ーーあぁ、どうか神様。この子を救ってくれ……あぁ!!!マリアンヌ!!!
うるせぇな……
ていうか……!
ーーどうか目をあけてくれ!!マリアンヌ!!
「マリアンヌって誰じゃぁァァ!!」
「ぐっはぁぁぁあ!」
突如起き上がった女性から振り抜かれた拳が、男の顎を的確に捉え、男を空高くへと吹き飛ばした。
男は上空で体制を立て直し、着地を華麗に決める。
が少しふらついた。
「な、なかなかいいパンチだ。ふふ。」
「おまえはさっきの……。あれ?」
体の痛みがなくなっていた。意識もハッキリしている。
すると後ろから突然抱きつかれた。
振り向くと、目にたっぷりと涙を浮かべたエモがいた。
「……ごめんなさい。」
少女に向き直り、シオンはエモを優しく抱きしめる。
泣きじゃくるエモの頭を優しく撫でる。
「心配かけたな。もう平気だよ。」
男はまた眼鏡をかけ直した。
「いやぁ僕だけじゃ危なかったんだよ。この子が君の家から飛び出してきてね。手伝ってくれたんだ。あっはっは!」
……こいつも変なやつだ。
「なにしたんだよ?」
エモを抱き抱えながら男に訊ねた。
「なーに、少し過剰に君に″感傷″してみただけさ。どうってことないよ。」
「全然分からないんだけど……。」
「″感傷″は″信頼″と″悲しみ″から生まれる二次感情さ。君に対して深く悲しんで同情したんだ。君が少しでも良くなるようにってね。」
「感情するとそうなるのか?」
「うーん……悪いけど二次感情についてはあまり調査が進んでなくてね。」
男がウインクをかましてきた。
少しだけかっこいいと思ってしまったのが悔しい。
ウザイ。
「あ、あの!ショウ様ですよね!サイン下さい!」
突然女子高生が飛び出してきて、男に向かって色紙を差し出す。
気がつくと周りには人混みができていた。
「ショウ様ーー!」
「やべぇ、本物まじかっこいい!」
「伝説の俳優に会えるなんて夢みたいだよ!」
人混みはどんどん大きくなり、その力を増していく。
ポカンと呆気にとられていると、男に手を掴まれる。
「逃げよう。」
「は?」
男は突然表情を一変させ、頬を染める。
「は、恥ずかしいから、みないでくれ…!ンァーッ!」
歓声がピタリと止んだ。
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「あれ?急にどこいっちまったんだ?」
「まだ近くにいると思うわ!」
「探せ探せ!」
人混みは四方八方へと散っていった。
人がさっぱり居なくなると、崩れた外壁の影から3人の姿が現れる。
「……何したのよ。」
呆れた様子で訊ねる。
「ふふ……これも二次感情の1つ、″恥辱″さ、穴があったら入りたいってよく言うだろ?」
「バッカみたい……どうなっちゃったのよ、この世界は。」
男は不意に真剣な表情になる。
「な、なに。」
「その事についてだが、君たちに、というか後ろの女の子にぜひ来てもらいたいところがある。」
服の裾を掴んでいた手がピクリと反応する。
「どうかな。」
男は優しい声で女の子に訊ねた。
エモは不安げに女性を見上げる。
「シオン……。」
ーーそう、不安げに
主要メンバーはもう少しだけ追加する予定です